花散る男女

トリヤマケイ

文字の大きさ
22 / 81
第1部 奈美編

♬ 21 妊娠

しおりを挟む


 17時にバイトが終り、京が瞑想に耽りながらメトロのホームに佇んでいると、シルベから電話が入った。






 案の定、飲みに行かないかという誘いの電話だった。いつもならば急な誘いは断るのが京の常だったが、明日はバイトが入ってなかったので、シルベが自由が丘まで来るというのでその気になった。
 




 自由が丘の南口でシルベを待ちながら、京は駅前を行き交う人々の様々な顔を見ながら、どうしてまたシルベはわざわざ自由が丘までくるなどと言い出したのだろうかと漠然と思った。





 飲むというのは口実で、何か電話では話せないことがあるのか、なんて考えてもみたけれど、そんなことより駅前の売店を背にしてさっきからずっと改札口を見つめながら悲しそうな表情をして佇んでいる女の子のことが気になって仕方がなかった。 





 綺麗な横顔のその子は悲しさを湛えた表情ゆえに更にその美しさを増しているようで、京はこんな子に悲しい思いをさせている奴は誰だろうかと、シルベのことなど忘れて彼女をじっと見つづけていた。






    というのも、どこかで見たことがあるような気がして、京は思い出そうとするのだけれど、思い出せないのでもやもやするばかりなのだった。
 




 と、ついに彼女の待ち人が登場したようだった。彼女の肩が小刻みにふるえているように見える。






 彼が来て安心したのだろうか。ずっと我慢していたのに、安心してついに泣き出してしまったんだろうと京は思った。





 そして、ほんとうに許せない奴だと思った。俯いてしまっている彼女に何か彼が言っている。
 




 そんな理不尽な野郎の顔をどうしてもみてやりたかった。なんか横顔がシルベに似ていた。男が、顔を上げた。






 京は、絶句した。 






 それは、なんとシルベだったのだ。シルベは、右手で頭をかきながら、途方に暮れたように自由が丘のビルでおおわれた矩形の狭い夜空をあおぎ見た。 





 そして、視線に気づいたのか、ふと京の方を見て安堵の笑みを浮かべると、ちょっと待ってというような仕種をしてみせ、京に頭を下げた。
 






 いったい、どういうことなんだ、これは。京は憮然とした表情で、ラッキーストライクに火を点けた。
 






 紫煙を勢いよく吐き出しながら、そうか、たぶん、別れ話にちがいないだろうから第三者として、仲介に入ってくれないかということに違いないと思った。
 




 そのために修羅場に俺をわざわざ呼んだのか。つまらん役回りだな。今夜の酒は、アイツのおごりに決定。





 京は、そう独りごちながら、スマホを取り出して時間潰しにSNSを見はじめた。





「やあ。悪いね。とんでもないところ見せちゃって」 





 シルベが憔悴しきった様子で、京に話しかけてきたのは、10分ほども経ってからのことだった。 




「で? なに、今夜は彼女と3人で飲むってこと?」 






 シルベは「そんな悪い冗談いわないでくれよ」と、泣きそうな表情を浮かべる。






「実はさ、彼女、できちゃったんだ」




 京は、鸚鵡返しに訊く。





「できちゃった?」 




「そう。もう9週目くらいらしい」




「ふ~ん。で?」





「いや、だから……。彼女産みたいって言うんだけど、彼女と知り合った数日後にやっちゃったんだし、彼女のこと実はよく知らないんだよ、俺。でさ、ダメなら堕胎する費用を出してほしいっていうんだよ」
 




「そうか、そういうことか。俺はてっきし別れ話だと思ってたけど。別につきあってたってわけじゃないんだ?」





「一応、つきあってたんだけど。でも、急に子供できたから、産ませてくれっていわれてもさ」




「ま。仕方ないだろうね。いい思いしたんだから」





「っちょ。ちょっと待ってくれよ。そりゃ、身に覚えないとはいわないけれど、ほんとうに俺の子かどうかなんて誰にもわからないような気もするんだよね」





「おまえ、すごいこといってるね。そう彼女にいったのかよ?」





「まさか。でも、あんな可愛い顔してるけど、実はすごいさせ子なのかもしれないし……」 






「そうか。おまえには愛が全然ないってことね」





「いや、好きだよ。好きは好きなんだけど。子供となるとさ……」
 




「で、結局、どうしたいわけ?」





「いや。中絶費用の相場っていうの、よくわかんないし、ネットで見てもいろいろあるみたいで、週によって高くなっていくみたいなんだけど、とりあえず9週だと10万以上かかるみたいだし、出せるわけないじゃん、俺に」 





 そういわれて、京は、はたと気がついた。
 そうか、こいつ、俺にその金を貸してくれといいたいわけか。さてと、どういう風に切り出してくるのかな、ええ? シルベよ。





 京は、腹の中でこっそりとほくそえんだ。





「でね、ものは相談なんだけど」





「なに? あいにく安い産婦人科なんて知らないぞ」





「いや、そうじゃなくって。ほんとうにいいにくいんだけどさ」





「なんだよ、じれったいな。シルベ、おまえのそういう、はっきりしないところは昔から変わらないな」






「あのね、あの……京、彼女に見覚えあるだろ?   今さらしらばっくれんなよ、彼女に相談されたんだ、私もうどうしたらいいのか、わからないって。あのね、あの彼女のお腹の子は……京、実はおまえの子なんだよ!」






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ピンクローズ - Pink Rose -

瑞原唯子
恋愛
家庭教師と教え子として再会した二人は、急速にその距離を縮めていく。だが、彼女には生まれながらに定められた婚約者がいた。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

25cmのシンデレラ

野守
恋愛
デパートに靴を買いに来た梨代は、自分の足に合う25センチのサイズが無くて落ち込んでいた。そこで偶然起こった暴漢騒ぎ。とっさに靴を投げて助けた男性は、まさに梨代が買おうとしていたブランドのメーカー「篠塚製靴」に勤める篠塚だった。しかも篠塚グループと呼ばれる現代財閥の御曹司だとか。 後日お礼として非売品の靴を届けに来た篠塚は、梨代にとある仕事の依頼を持ちかけて……。 御曹司が庶民を体験⁉ 王子様の「逆」シンデレラスト―リーが始まった! と思いきや、事態はあらぬ方向に。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

処理中です...