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第1部 アイドル編
♬ 18Hip Hop Jump!
しおりを挟む「♬そうジローという男の子がいたんだ、Yo!」
そして、京は憑き物がついたようにべしゃりはじめた。というか、ヘタウマなラップ調で屁っ放り腰のダンスだかジェスチャーを混じえて。
「Hey Yo! ジローは、以前「男のロマンⅡ」という、マロンケーキとフィナンシェが美味しいことで知られているケーキ屋さんで働いていたことがある。
べつにパティシエを目指していたからってわけじゃぜんぜんないぜ。ほ、ん、と、うのところ、ジローはおまわりさんになりたかった。それにジローは、トロンボーンが好き。でも、ゴム長靴はきらい。あるいは、カニクリームコロッケよりもメンチカツの方が好き。
子どものころは、よくクジラの絵ばかり描いている夢見がちなガーキだった。So! まじでジローはクジラが大好きだった。どんな絵を描こうが必ずクジラを描いてしまうのだった。
お花畑の絵でも、お花畑の上の方とかで潮を吹くクジラがいたし、富士山を描いた絵でも、空にはクジラが飛んでいたんだ、Yo~
しかし、いったいいつからジローはクジラの絵を描かなくなったのだろうか。ジローは、気づいたらごくごくつまらないオトナになっていたのだけれど、もしかしたなら、ずっとクジラの絵を描きつづけていたならば、こんなつまらないオトナなんかにはならないですんだのかもしれない、なんて想うのだ。
Yo~Yo~ チェケラッチョ Yo! Yo!
だが、クジラの画を描かなくなったからつまらないオトナとなってしまったのではなく、クジラの画を描こうと思ってもジローは描けなくなってしまったのではないだろうか。
クジラがお花畑にいるはずがないし、空を飛ぶわけもないのだ。それがオトナの常識というやつなのだろう。子どもは、そういう常識を叩き込まれるんだYo!
まあ、なにがつまらないのか、あるいは面白いのかは個人の価値判断によるのだけれど、夢を失くしてしまった男なんて、ほんとうにつまらない存在なのではないのか」
実際の自分の幼い頃のことや空想を織り交ぜながら虚々実々の口から出まかせをラップもどきに乗せてをやってみようかなと、京は咄嗟に思いついたのだが、それは、むろんシャイな京の照れ隠しだと飛鳥ちゃんにはバレていたのかもしれない。
ラップ初心者のポンコツラップはさらに続いていく。
「♬やがてジローは、幼い頃みたいに絵を描くことはしなくなったけれど、音楽に興味をもちはじめた。
そんなジローに教師だった母親が、コーラスかピアノをすすめたところ、なにもやりたくはないと答えたのだという。でも、とにかくジローは、テレビの前でいつも踊っているような子どもだった。音楽が流れ出すと、自然に身体が動いてしまうのだ。Yo! Yo!
そんなジローが、長じて音楽をやりはじめたのはごくごく自然な流れであっただろう。ジローは、ギターにとり憑かれたようにのめりこんだ。
Hey yo Hey Hey yo! 中学でバンドをはじめ、高校では、ギター部に所属していたけれど譜面というものがジロー苦手で、曲をマスターしないままで臨んだ定期演奏会では、エアーギターのさきがけといえるのかもしれないが、一切音を出さずに弾くまねだけするという特殊技能を発揮せざるをえなかった。
だから、演奏会の写真などを見ると皆がハイポジションで弾いているにもかかわらず、ジローだけローポジションを押さえている奇跡的な場面が、しばしば認められた。
ある日のこと。ジローはトロンボーンを吹きながら下町を流してた。むろん、エアトロンボーンだ。でも、実際にジローは、トロンボーンを亡くなったKからもらっていた。Kが亡くなる前にもらったのではなく、亡くなってからもらった。
ほんとうに不思議な話なのだけれどKが夢枕に立ったその翌朝、吹奏楽部だったKの大切にしていたトロンボーンが、タロウの布団のなかから出てきたのだ。それには、「K.H」とKのイニシャルが刻印されてあった。
夢の中でジローはK本人からKの大切にしていたトロンボーンを確かに譲り受けたのだ。
そしてジローは、その日からトロンボーンを一生懸命練習しはじめた。アベカオルという、天才サックス奏者がいたけれども、彼のように口の中が切れて、口や鼻から血が噴き出すまで、くる日もくる日もトロンボーンを吹いて吹いて吹きまくった。
そのおかげで、ジローはなんとかまともに吹けるようになってきた。けれど、大切な形見であるトロンボーンは家の中ででしか吹かなかった。だから、外ではエアートロンボーン。
中学校のそばを通っていると、体育館からだろうか、「旅立ちの日に」が聞こえてきた。もうそんな季節なのだ。
ジローが子供の頃は、こんないい歌はなかった。ジローは思わず泣きながら一緒になってメロディを吹きはじめたのだが、やがて知らぬうちに「いそしぎ」を吹いていた。いそしぎ (The Shadow Of Your Smile )の切ないメロディが、ジローは大好きなのだった」
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