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第1部 アイドル編
♬ 19バウワウ〜犬語
しおりを挟む京の韻をまったく踏んでたりしないポンコツRapは、さらに続いていく。
「Huh! Huh! ジローは、「いそしぎ」を吹きながら、クジラのことを考える。たしか、鯨は超音波、ウルトラソニックというやつを出して遠距離でもなんでも関係なく、会話しているということを聞いたことがある。
Yo! Yo! 象は、たしかにそういった手段で何キロも離れている仲間と会話しているらしいけれども、クジラは、レーダーとして用いているだけで、会話を行っているのかは、まだはっきりとわかっていないらしいぜ。
そういや、犬だって人間の可聴域をはるかに超えた超低周波を聴くことができるというし、ビートルズのアルバム、サージェントペッパーズには、その音が録音されていたはずで、ジローもそれを聴き取ろうと耳を凝らして聞いてみたけれども、ヒトであるジローの耳には、耳をつんざく「無音」しか聞こえてこなかったぁぁぁぁア!
しかし、犬がその音を聞き取ることができるということは、つまり、犬自身もそのウルトラソニックを発することができるはずなのではないかと思った。
ちなみにジローは、コリーが大好きだったけれど、最近は柴犬やチワワが好き。Wow!
で、で、で、たとえば、犬だって超低周波でこんな会話をしているんじゃないだろうか。こ、こ、こんなこんな風に。
『あのイヌの名前、なんていうんですか? なんか、みんなにトクさん、トクさんて呼ばれてましたけど……』
『え?』
『あの、いつも川崎の駅で待っていてくれる』
『ああ。禿げの?』
『え、あはは。そうです』
『あのイヌはね、トウフクさんだよ。東の福と書いてトウフク。みんなトクさんとは呼んでないんだけど、ウフが消音されたようにトクさんに聞こえちゃうんだね』
『なるほど。トウフクさんだったんですか。やっとこの頃みなさんの名前を憶えたんですよ。ハシモトさんとかエダさんとか、ネズさんとか……』
『あ、それは、ネズじゃなくて、ネブね。根に布だから、ネブ』
『そうなんですね。てっきりネズだと思ってました』
「ああ。ほんとうにあの落ち着きのなさは、ネズミみたいだからね。ま、みんな飼い主の名前が由来というわけさ』
Uraah! さらにジローは、「いそしぎ」を吹きながら、クジラを強引に思い浮かべてみた。昔のようにはうまくいかないけれど、潮を勢いよく吹き出している巨大なシロナガスクジラが宙に浮かんでいる光景をイマジネーションする。
なにかそのクジラは、マカロンでできているようにも見えたけれど、それだけではなにか弱いので、女性をふたりくらい配置してみた。そして、そのイメージをRapに乗せてみる。たとえば、こんな風に。
Yo! Yo! Yo! いつの頃からか、女性たちはその日の気分で、好みの仮面をつけるようになっていた。ロクシタンがどうとか、出版社なんてどこもいっしょだよね、なんていいながら女たちは車内で仮面のうえに化粧する。その頭上はるか彼方には、巨大なマカロンでできたクジラが、音もなく中空に浮かんでいる。たぶん、なにか忘れものをした、そんな気分。
Ha Ha しかし、いつしかクジラは失速し、ひねもすのたりのたりかな、の春の大海原の上には抜けるような青空だけがあった。
クジラはどこかと捜していくと、波打ち際に真っ赤な血を流しながら横たわっていた。
そういえば、あのガメラは青い血だったよな、なんてことを想い出してみたり♬」
「てな具合でどう?」
京は飛鳥ちゃんの大きな双眸をまっすぐ見つめた。
「あははは。犬の会話は、想像すると馬鹿っぽくて笑える。でも、なんかありえそう。絶対やつら喋ってるよね。猫もふざけんなよ~とかいつも飼い主に言ってそう。
なんていうか、言語は持ってないかもだけど、喜怒哀楽みたいな感情とかヒトと変わらないだろうし、テレパシーとかできるんじゃないかな?
言語によってヒトはものを考えることが可能なわけだけど、たとえば、ヒトがテレパシーができるとして、自分の知らない言語で思念を飛ばされたしても、自分の中で自動で翻訳して理解するんじゃないかな?
翻訳なんていうと語弊があるけど、私たちが会話する言語は、言語のいわば体であって、その元の、なんていうか魂なんていうとおかしいけど、そんな核があって、それが国々によって様々な言語になってるわけじゃん。コケコッコーが、クックドゥドゥルドゥになったり。
それは、耳が違うからでしょ。そこに行けばそう聞こえる何かがあるのよね。だから、元は結局同じで、テレパシーは、その元の何かを使って行うんだと思うの」
「な、なんか飛鳥ちゃん、すごい」
「えへ。そうゆうの考えるの好きなんだ。で、それからどうなるの?」
「そうだな、それから……」
京は、天窓の吸い込まれるような青空に強烈な憧れを抱いた。
このまま、飛鳥ちゃんとずっと一緒にいられたならばどんなに幸せだろう。確かに未だに奈美のことは好きだけれど、彼女とはこんなことがなかった。
なにかわけがわらないけれども、京は味わったことがないような多幸感に包まれているのだった。
飛鳥ちゃんとふたりならば、どんな辛いことも乗り越えていけそうな気がした。
会話しているだけで、いや、見つめているだけで辛いことや悔しいこと、悲しいことが解けて癒されていく感じがするのだ。
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