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第2部 名古屋編
🎵 アヴァンタイトル
しおりを挟む・中目黒にアフリカ食堂というのがあったが、いまはもうなくなってしまった。一度くらい入っておけばよかったなと悔やまれて仕方ない。アトラスタワーができるずっと前の話だ。
・「アメリカの鱒釣り」を読み直してみたいが、誰も知らないから書庫に引っ込めてしまったのだろうか、近ごろは図書館の書架にあったためしはない。
・「アカシア」のクロード・シモンは以前には数冊見かけたが、さすがに読者を選ぶ内容だった。あれを読み通すのはある種の苦行といえるのかもしれないのでMっ気のある人にはいいかも。1頁に句読点が一切ないようなめくるめくエクリチュールの快楽にハマってしまうとたまらないのかもしれない。
・自由が丘は、ガオカではない、「おかじゅう」が正しい呼び名。
ブログのネタ用にメモ書きをしたスマホの画面から視線をあげ、ジュネを見た。
ジュネは、大きな眸をくりくりさせながら、売れたい! という話をまくし立てている。
デートなんていいもんじゃない。
ただ、そう見られても仕方ないかもしれないのだが、どう見たって美女と野獣で、デルモかアイドルと、そのジャーマネ、或いは娘とパパとしか見えないだろうと高をくくってはいるのだが、本当のとこどうなんだろう。
いやいや、むろん、自分の中での話だ。こんなに可愛い子に恋しない方がおかしいではないか? 好きじゃないと言えばウソになる。
「知り合いのアイドルの子が、爆発的に売れてるのを目の当たりにして、あー、確かに前から押しも押されもせぬ存在なんだけど、今回のリリイベ観たら、もうたまらず私も、売れたい! と思っちゃって。この感情は、ジェラシーとかそういうんじゃなくて、うー、なんだろう、親に言われるとツラいというのはあって。つまり、両親ももう歳だし、喜ばせてあげたいというのが先ずあって、楽曲だってルックスだって負けてないという自負はあるんだけど、認知度がまったく異なるという現実の厚い壁が立ちはだかっていて……」
ジュネは、一気にそう話すとゼンマイ仕掛けの人形のように、コトリと動きが止まってしまった。
僕などにそんな話をしたところで、そちらの業界のコネがあるわけじゃなし、意味はないのだけれど、自分の中に溜めておかないで言いたいだけ言った後は、あれ? あたし今なに話したっけ? みたいな感じでケロっとしているところは、ジュネのいいところだし、自分も見習わなければといつも思っているのだが、何やらきょうのジュネは、やけに辛そうに見えた。
窓から大きくのぞく通りには代官山らしいお洒落な若い子たちが、楽しげに会話しながら歩いているのが見える。
いよいよ春だ。生きているあいだにあと何度、季節はめぐってくるのだろうか。
「結局のところ、楽曲の良し悪しじゃないんだよ。売れるためにはね、TVに出るか出ないか。事務所の力関係かな? それだけだし、つまり、いいものだけがTVに出るのかと言えば決してそんなこともない。悲しいかな、それが現実。凄くいい楽曲でパフォーマンスもよくても認知度は低いというチームは、ざらにいるね。で、結局資金繰りがつかなくなったりして解散てなる。いいものは必ず認められるようになればいいんだけどね」
ジュネは、聞いているのか聞いていないのか、もうこの話題にも飽きたみたいに頬杖をついて、アンニュイな雰囲気を醸し出しながら外を眺めたまま、何も言わない。
僕は、そんな彼女の美しい横顔に胸を搔きむしられる。そして、溜息をつくようにそっと心の中で語りかける。
「ジュネ、好きだよ……」
むろんヲタクの単なる夢想だった。
それでも、ニヤケがとまらない。
一度くらい代官山のシャレオツなオープンカフェみたいなところで、お人形さんみたいな愛くるしいジュネとお茶してみたい人生だった。
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