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第2部 名古屋編
🎵4 やっぱり水樹が好き?
しおりを挟むところでレイは、むろん水樹と別れたわけだが、片時も水樹のことを忘れたことはなかった。
そして、実のところ、地下アイドルのヲタクになったのも、音信不通となってしまった水樹にいつの日にか再会できるかもしれないと淡い希望を抱いていたからだった。
知人からの又聞きによると、水樹は、何度かチームを移ってはいるが、まだアイドルとして頑張っているようだった。
あんなに仲がよかったにもかかわらず、喧嘩別れしてしまったことをレイはずっと悔やんでいた。
だが、その一方で愛の裏返しとして水樹に憎しみに近いものを感じているのもたしかなことだった。
アイドル界隈の裏側の事などレイにはほとんどわからないが、拒食症になってしまい激ヤセしたり、男に走ったりして、次々にヲタクたちの憧れの推しメンは、輝かしいステージから去っていったし、運営の財政難で活動休止するチームは後を絶たなかった。
水樹も、人間関係であるとか、ピンチケやら厄介なヲタクに悩まされアイドルを辞めようと思ったことは二度や三度ではないはずだとレイにもわかっていた。
最前管理であるとか、周りのことなど一切考慮しない傍若無人な輩が多いことを現場で実際に見ていた。
あるいは、直視できないような爛れた関係を見たり、聞いたりしたことがいくらでもあるだろう、そんな水樹に再会するのは、嬉しくもあったが、怖いという気持ちの方が断然強かった。
変わってしまった、というか、変わらざるを得なかったであろう今の水樹を知るのが何よりも怖かったし、その変わってしまった水樹に対して何か酷く傷つけてしまう事を言い放ってしまいそうな自分が怖かった。
その再会の怖さへの保険なのか、或いは、邪魔者として棄てられたような気もするあの、水樹の仕打ちに対する復讐心が、そうさせたのかもしれなかったが、地下アイドルに負けていない美貌の持ち主である彼女と交際している自分を水樹に見せつけてやりたいという気持ちが、東京に来た当初からあったことは否めない。
だから、上京してすぐに水樹に会いたいのならば、小さな箱を隅々まで見て回っていれば、遅くも半年もすれば、水樹を見つけられたはずだろうが、レイは真逆の事を考えており、主現場以外にはほとんど首をつっこまなかった。
水樹にアイドルなみに綺麗な女性と交際している自分を見せつけてやるんだと思い、それまでは会わないと意固地に考えていたわけではないが、いちばん重要なのは、ヲタクとして水樹に会うのか、オトコとして水樹に会うのかだとレイは考えていた。
つまり、それがアイドルでなくとも、とにかくレイに綺麗な彼女がいるとなると、水樹はただのヲタクとしてレイを見るのではなく、男として見てくれるのではないか、ということだった。
とりあえずは元カノ元カレの関係なのだが、ブランクがあるので、再会の際の第一印象というのは、かなり重要であり、元カレではあるがただのヲタクとして会い、そのヲタクであるという認識を相手に一旦植え付けてしまったならば、その認識を変えるのは至難の業だと思うからだ。
レイの理想的だと考える水樹との再会は、ぴたりと身体を密着させ腕を絡ませた新しい彼女とともに水樹のステージを、したり顔で見ることだった。
いずれにせよ、一度こじれてしまった恋は、もうもとに戻ることはない。たとえ回復することがあったとしても、それは一時的に過ぎず、元の木阿弥となる。こじれるのには、こじれる理由があり、うまくいかないのは、うまくいかない理由がある。
そのことをレイも頭ではわかってはいるのだが、モヤモヤした気持ちは理性では抑えきれなかった。未だに水樹のことが気になって仕方ないのだ。
そして、その愛情はどうやら真っ直ぐに表現されることのないイビツな愛情の裏返しとして、水樹を虐めてやりたい、傷つけたいという暗い感情と、もう一度水樹とやりなおしたいという素直な気持ちとが、せめぎ合っていた。
そういえば、タイプは異なるけれど、どことなく水樹とジュネは似ているのかもしれなかった。それは、相貌がというのではなく、纏っている雰囲気といえばいいだろうか。レイは、無意識のうちにジュネに水樹を重ね合わせていたのかもしれない。
水樹との想い出では、TVドラマで観るような、いわゆる恋人同士の甘いラブストーリー的なものではなかった。
幼じみで家も近所であり、あまりにも近い存在だったので、レイがちゃんと好きであると言葉にして水樹に伝えたのは、高2の時だった。
レイにしてみれば、なんだかんだいっても近しい存在で、中学の頃には別な女子が好きだったレイだったが、どこか頭の片隅では、結婚するならば水樹しかいないと勝手に決めていた。
それは、理由などない決定事項であり、ふたりの意思にかかわらず赤い糸で結ばれるというのがふたりの運命であるのだから、つまりそれは履行されるのが当然であると考えていた。
なので、レイとしては水樹も同じように考えてくれているのだろうと思って、告白するという最も大切な手順が遅れてしまったのだった。
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