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第2部 名古屋編
🎵5 ヲタクという生き方
しおりを挟むところで、そもそもアイドルであるジュネと『アイドルとヲタク』の関係をある意味超えたことになってしまった理由には、やはりヲタクと推しメンという構図の外側にあったからだと思う。
確かに相手がアイドルだとは知らないで話しかけたとかではないが、アイドルではない別人格のジュネと知り合えたのだから、『ヲタクと推しメン』の構図外の設定であると考えていいだろう。
いくらヲタクがガチ恋して結婚したいとそこら中に言いふらしまわっても、どうにもならないのは常識的に考えてわかりそうなものなのだが、「もしかしたならオレにだってワンチャンあるかも」という実に根拠のない実に浅はかな甘い考えをヲタクは、どうしても捨て去ることができない。
それはもちろん、推しメンを推すということが、間違いなく彼らの生きるモチベーションであるからだ。
ごく普通に考えたとしても、有名人である綺麗なアイドルをお嫁さんにするよりは、巷に溢れ返っているJKとかJD、或いは若後家さんあるいは、若くない後家さんの中からお嫁さんを見つけた方が、よっぽど結婚できる確率は高いと思うのだが、どうなんだろう。
だからドルヲタは、結局恋愛して愛を育み結婚し、子どもを産んで育てていくという人生設計は、自分にはまったく関係なくそれこそ異世界での話であって、必要ないと思っている人なのではないのだろうか。つまり、はなから家庭を築きたいという意思がないように思える。
ほんとうに切実に一生の伴侶を見つけたいのならば、なりふり構わずマッチングアプリをやるとか、婚活パーティーに毎週参加するとか、とにかく前向きに行動しなければならないはずなのであり、ナノ単位つまり10億分の1くらいの可能性に賭ける心理は、そもそも現実的に結婚を考えてはいないという証左なのではないだろうか。
だから、絶対に結婚してほしい! なんて真顔で言っても誰も相手にはせず、面白いジョークぐらいにしか受け取ってもらえない『ヲタクと推しメン』との関係性、互いに責任を持つ必要が一切ない距離と関係性が、一番心地よいのではないだろうか。
絶対結婚したい! 死ぬほど好きだよ、と昨夜の現場では叫んでいたのに、今日は今日で別の現場で、別の推しメンとツーショットを撮って鼻の下を伸ばしている。
しかし、誰も彼らを糾弾することなど出来はしない。金銭を支払った上での疑似恋愛であり、そこには何の約束も責任も存在しないから、何を喋ろうが 何の拘束力もない。
ヲタクとしても、ガチ恋してしまったならば、笑顔で誰とでも握手し、誰にでも愛想を振りまく恋人に、即日気が触れてしまい、殺傷沙汰にもなりかねない。
だからこそのDDなのだ。DDによってドルヲタは病まないようにメンタルをなんとか健全に保っていられるのだろう。
レイも似たようなもので自分の中で、ジュネがいちばん好きなのか、あるいは水樹が好きなのかよくわからなくなっていた。
例えばレイの彼女がアイドルである必要はないとは思うが、水樹の前にレイが姿を現さない本当の理由は、水樹に自分の彼女を見せつけて、見返してやるんだというところにあるのではなく、実は水樹に再会した時に、心が折れてしまうのが怖いからではないだろうか。
レイは、心の隅っこに、本当の自分の気持ちを抑え込んでいるのではないか。
本当は今でも水樹の事を好きでたまらない自分をいやというほど見せつけられてしまうことになるかもしれないと危惧しているように思えてならない。
レイは意識していないのかもしれないのだが、本当は水樹にまっすぐ愛情を注ぎ込みたいのに、それが叶わないので、むりやり愛情のベクトルを捻じ曲げて、ジュネに注いでいる、そんなことではないだろうか。
ヲタクたちは、むろん勘違いしている人も多いが、応援したい、支えたいという愛情の強い人なのだと思う。
彼らは愛情を注げば自分たちも幸せになれるということを、誰に教わることもなく知っている。ライブで沸く姿は、謂わば祈りの儀式ともいえると思えるのだ。
レイは、それまで現場で沸くヲタクたちの心理がよくわからなかったが、自分がやるようになってみると、なるほど楽しくてたまらず見事にハマってしまった。
ただ現場主義のドルヲタは、全体のごく一部にすぎず、間違いなく在宅ワークのヲタクはその何百倍も何千倍も存在しているはずなのだ。
ドルヲタは、大別すると現場派と在宅派に分かれるが、つまり、接触するかしないかでふたつに分かれているわけだ。
ただオタクの語源からすると、家から出ないのがまさにお宅なのだから本来は接触などありえないとレイは考えている。
接触しないでTVや写真、DVDを介して推しメンを想い応援する。その距離の取り方。
変な話になるが、痴漢も下着泥棒もまぎれもない犯罪だが、直接接触する痴漢に対して、下着泥棒は下着によって秘匿されていたものを、ホンモノ以上にそれによって感じるというフェティッシュであり、在宅はそれに似ているとレイは思うのだ。
漫画やらアニメもそうだと思うのだが、2次元のキャラの向こうにホンモノ以上のホンモノを見ているのだと思っている。
また、現場派でもライブ自体が死ぬほど好きで、振コピやMIXを打ち、その会場全体の一体感がたまらずに沸きまくるというヲタクもいれば、ライブよりは握手であったりチェキであったりアイドルと接触することに情熱を燃やす接触厨もいるようだ。
厄介しかかけないヤツもいるし、ガチ恋であるとか、後方彼氏ヅラであるとか現場のさまざまな人間模様は面白い。
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