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第2部 名古屋編
🎵6 奇跡的なミラクル
しおりを挟むそんな愛すべきヲタクたちの人間模様を眺めながら、レイは結局のところ、やがては、再会の日がふたりにやってくるのだろうか、という考えにいつも行き着くのだった。
しかし、そんな日がやがてやって来たとしても、いったいどんなを顔をして水樹と会えばいいのだろうか。
レイは、そんなことをボンヤリと考えながら、下北沢で電車を降りた。そして、小田急線のホームまでエスカレーターで下りてから、井の頭線で明大前まで行かなければならなかったことを思い出した。
もうボケがひそかに始まっているのだろうか。若年性アルツハイマーとかいう病名をドラマでたしか聞いた覚えがあった。
そして、きょうは、ジュネとデートだったらどんなにいいだろうと思った。
アルツハイマー的な恍惚の人となって物事がすべて自分の思い通りになっていく自分による自分のためだけに存在する自分の異世界に転移したいと強く思った。
すると、アスファルトのずっと向こうでゆなゆなと燃えている陽炎が見えはじめ、幻想の世界の扉が誘うようにゆっくりと向こう側へと開いていく。
靄がかかった異世界。やがて一点の曇りもない明瞭な景色が静かに現前してくると、そこは代官山のオープンカフェの2階。なぜか、見たことがあるようなシチュエーションだった。
ジュネはアンニュイな雰囲気をかなぐり捨てて、遊園地に行きたいと言い出す五秒前にといった表情を浮かべている。
で。案の定「遊園地に行きたいの」といった。けれども、さすがにディズニーにいくのはヤバイだろうとなって、多摩テックに行こうということになった。
そこでジュネと高幡不動駅で待ち合わせしているシーンに遷移する。ジュネは、少し遅れてホームに現われた。
遠目から見てもフリルが可愛いワインレッドに鮮やかなオレンジのポルカドットのワンピを纏っていたが、ただなにかいつもと様子が違っていた。
なぜかコマ落としの映像を観ているみたいに動きがギクシャクしている。
それはまるでマリオネットのようで、ジュネはプラットフォームのステージで、ロボットダンスを踊っているかのようだった。
レイはレイで花粉のせいか、やたらにクシャミばかりしていたが、そのクシャミのたびにジュネが離れたり近づいたりして見えた。
レイの顔に触れんばかりにヌッとジュネの顔が近づいたかと思うと次のクシャミの後には奥の方に一気に引っ込んでしまう、そんなことを繰り返しているのだ。
そして気がつくと、ロケーションは駅などではなくレイは、いつのまにか富士の青木ヶ原のような樹海の真っ只中にいた。
ドローンでも飛ばして空から辺りをうかがわない限り樹海から抜け出せそうにない。
どちらを向いても、苔むした岩やら胴太のニシキヘビのような蔓に覆われ、樹々の梢の先にやっと青空がのぞいて見えていた。
ジュネはと見れば、緑の柔らかな光線のベールに包まれながら、スマホを眺めつつ振り入れに余念がないようだった。
やがて、彼女はクルクルと爪先立ってピルエットを開始して、挙げ句の果てには回転しながら増殖しはじめ、あれよあれよというまにレイは樹海の中で何万何十万もの数え切れないほどのジュネに呑み込まれるように埋もれていった。
怖い夢だった。いったいいつから居眠りしてしまったんだろう。
しかし、なぜまた多摩テックなのだろうか。自分で設定しながら、といっても勝手に脳が決めたのだろうけれど、おかしな設定で、なにか意味ありげとしか思えなかった。
というのも多摩テックはとうの昔に営業を終了して閉鎖されているからだ。つまり、自分が作り出した幻想の中であってもありえない設定なのだという常識が働いて、多摩テックを選んでいるのだとしたら、かなりヤバいとレイは思った。夢の中まで常識に縛られているというわけだ。
たしか二度くらい実際に多摩テックに行ったような記憶はあるが、もうとっくに営業を終了している商業施設を設定するというのは、常識に雁字搦めにされているというよりも、好き勝手チートやっていいけれど、どこまでいってもリアルではないのですよ、という冷めた戒めの警告、その意味合いが強いのではないだろうか。
時間はと見ると、もう七時近かった。部屋は真っ暗だ。さすがに寝すぎだろう。帰ってきて風呂に入る前に手洗いした洗濯物は、あらかた乾いていた。
ベランダから風に乗って届いた金木犀の秋の報せが、鼻腔をくすぐった。
その優しく馨しい香りにまつわる想い出が何かあるような気がして、心のなかをまさぐってみたけれど、何も思い浮かばなかった。
かりにそれが恋の記憶と紐付けられていたならば、毎年この季節に甘い香りと共に甘い胸の疼きを想い出してしまうのかもしれない。
それは、それで素敵なことではないか。失恋の痛みも真剣に恋した者のみに許された特権なのだ。
そんなとりとめのない事を吃るように、つっかえつっかえ考え、ヨッパライみたいにふらふらしながら着替えを終えた。
そして、散歩がてらの買い物に出かけようとしていたその時、ドアチャイムが鳴った。
某国営放送のお兄さんだといやなのでいつもならば出ないのだが、ちょうどドア前にいたので、咄嗟にドアを開けてしまった。
すると、そこに立っていたのは、受け子の綺麗なお姉さんでも制服を着た偽警官でもなかった。
それは、あのジュネ本人に他ならなかった。
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