花散る男女

トリヤマケイ

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第2部 名古屋編

🎵 14 水樹と別な世界線で出会っていたら?

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   潜在意識で会話するためには、きっと顕在意識は邪魔なはずなのであり、だから水樹のそばにくると自然と安らいだ気持ちになり、落ち着いて眠くなってしまうのかもしれなかった。








   そんな風に考えるようになったわけは、水樹との出会いにあった。







   以下、紛らわしいことこの上ないかもしれないのだが、なけなしの想像力を総動員して、とにかくリアルからかけ離れためちゃくちゃな水樹との出会いを夢想してみよう。









   現実離れすればするほど、なぜかほんとうの水樹との出会いはこうだったんじゃないか、なんて考えるのは実に楽しい。 









   子どもの頃から夢見がちな孤独な少年は、相変わらず夢想が好きなのだ。









   ある日、近所を散歩している時に、自転車に乗った女性に追い越されたのだが、その際にその女性が、髪留めを落としたのだった。








   車道のアスファルトに落ちた金属製の髪留めがカチリと鳴ったのだ。だから、歩きスマホをしていた自分も気づいた。









   これが、シュシュのような落としても音が鳴らないようなものだったなら、たぶん気づかなかったはずなのだ。









   殊更その出会いが、奇妙だったわけでもなく、むしろごくごく自然だったのだけれど、それが自然すぎて何やらそこに作為を感じてしまったのだった。









   とは言え、そのことに気づいたのは、あとになってからで、その場ではまったく違和感を感じてなどいなかったので、自分の方こそが何かあの行動には裏があるんじゃないか、と神経症的に深読みし過ぎるきらいがあるのかもしれない。










   その場で気づかなかったものを、後になってからことさら作為があるなどとこじつけたと考える方が、後づけだけに自然といえば自然なのだ。








   だが、その時には気づいていないことでも、落ち着いて思い返してみると、何かおかしいと気づくことが、ないことはない。









   その時も、拾い上げた髪留めを手渡す時に、前髪パッツンの綺麗な若い子が、ニッコリと微笑んでくれたのだ。こんな無愛想な輩が、美少女から笑顔をもらえるというのは、ひとつの事件だった。









   たとえ、拾ってもらったお礼を言うにしても輝くばかりの笑顔を見せる必要などないのだから、俄かには信じがたい出来事ではあった。









   そのせいもあり、一瞬だったが、天使が地上に舞い降りてきたかのような、衝撃を受けたのだ。










   けれども、ほんとうにそうなのか、つまり、天使のような美少女との出会いが用意されていたものであるのか否かは、結局のところ誰にもわからないし、それを証立てる手段もない。









   とまれ、ふたりは出会うべくして出会ったのであり、縁があるならば否が応でも離れることはないということなのだ。







   ただし、縁にもいろいろあるわけで、期限付きの縁もあるわけなのであり、ただ単にすれ違うだけの縁もあるだろう。








   水樹とのこの奇跡の邂逅も、単なる出会い頭という束の間の接近だけで終わりだったはずなのに、奇跡は連続して起こったのだ。









   いったい誰が水樹との更なる再会が用意されているなどと、思うだろうか。








   おめでたい自分でもさすがにそこまでは、夢想すらできなかった。








   ブサメンには、天使のようなあの微笑みを忘れないように、毎日思い浮かべては幸せ気分を味わうくらいが、関の山だった。









   一期一会なんていうけれども、ほんとうに出会いというのは重要であり、その後の人生を左右するといっても過言ではない。








   武満徹もストラヴィンスキーの一言がなければ、もしかしたらこれほど世の中に認められることはなかったかもしれないし、ジミー大西も芸術は爆発だの岡本太郎から手紙を貰わなかったら絵描きにならなかったかもしれない。









   そんな風に、出会いによって人生が変わることがあるのは確かだ。








   そして恋愛に限らず、仕事でもそうだが、分相応というものは確かにある。








  高嶺の花にいくら恋焦がれても縁がなければ、かすりもしないわけであり、ダメなものはダメなのだから、早くその事実を受け入れた方がいいに決まっているのに、生きていく上において、それが生きる糧になっているような場合には、そうもいかない。









   たとえば、文才がなまじあるから小説もどきを書いたりしているネット作家は腐るほどいるが、仕事を一切しないで悶々と二間くらいしかない狭苦しいアパートで書き続けている人は、あまりいない。









   日々の生活費は、どうしているのかといえば、むろん霞を食っているわけにもいかず、名ばかりの嫁に夜の仕事をやらせて日銭を稼がせている、という残念なのか天才なのかわからない人生もある。









   TVドラマや映画で描かれているような絵に描いたような成功者には絶対になれないと決まってるわけではないのだから、白髪頭になっても俺だっていつかは文壇デビューも全然夢じゃない、というポジティブなところは、常に持ち続けるべきなのかもしれない。









  実際にレイはそういう、『作家』をいつまでも諦め切れない人を知っていた。その男性は知り合いの父親だったが、村上春樹から貰ったという手紙を見せて貰ったことがあった。









   自分の人生なのだから、どう組立てようが自由なのであり、ごくごく普通の幸せなど目もくれず、敢えて高い目標を掲げる、そういった負荷がないとつまらないという人もいるだろう。










   しかし、この世界はお金というものに支配されていて、好き勝手にやってお金を稼ぐにはかなり幸運に恵まれなければならないし、つまり、先程の例でいけば、俺には才能があるんだ、リーマンなんてやってられっかと、仕事にも就かずに作家になりたいという人は、極貧に喘ぐことになり、また、既にお金になど一切困ることなどない豊かな生活をしている人たちは、退屈な生活に悩むというのが、人生の実相らしい。
 









   しかし。












   生活が苦しいのでお金がほしいほしい、お金持ちはいいなぁと思っている自分を含めた、いわゆる低所得者の人たちは、実のところ、富裕層よりも結構人生を楽しめているのかもしれない。












   レイもお金には縁がなく、むろんのことお金持ちなどにはなった事はないし、なれそうにもないが、退屈であるとか倦怠というものは、相当人生を蝕んでくるであろうことが、容易に想像できるからだ。










   それで、そのことがわかった時、レイは何やらずっとあったシコリみたいなものが取れた気がした。つまり、それは、どっちもどっちだということがわかったからだった。










   金がない金がないと奔走するのは、その時には、だからこそ生き甲斐があるなどとは、とても思えないだろうけれど、その生きるための足掻きこそが実は生きる原動力であり、喜びでもある、それが人生の実相だった。
 









   既にお金がある者は、お金の苦労などしないので、大してもうやることがない。









   いうなれば相撲でいうところの死に体に似ている。恵まれている存在なのに社会のために何もやらないとすれば、生ける屍のようなものであり、さらに自己のためのみに金儲けを画策し金儲けに邁進するか、権威欲を満たすために議員に立候補したりする。








   実のところ物事はすべて単純だという話だ。 











   複雑に思えるのは、ほんとうの理由が見えないからであり、それがわかれば実にシンプルなのだといえるのだが、それはだいたい隠されていて見えない。












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