64 / 81
第2部 名古屋編
🎵 15 平行線
しおりを挟む
そんな因果関係が確かにあるはずなのだけれど、水樹がずっと眠り続けている理由は、実に意外な理由なのかもしれず、実は水樹が早く長い眠りから目醒めてほしいと願っている一方で、眠り続けてほしいと真逆な事を強く無意識下で願っている自分がいるのかもしれない。
彼女が目醒めるとき、ちょうどそこに居合わせる、その幸福な一瞬だけを夢みてる。なんて前に書いたけれども、実は彼女が目醒めないように見張っているだけなのかもしれない。
しかし、そうだとしたならば、いったいそれは何のためなのか。
もしかしたなら、水樹は可愛らしい顔に似合わず、あるいはこうとも言えるかもしれないが、可愛らしい顔故に正体を知られないようにしている、とも考えられる。つまり、いわゆる羊の皮を被った悪鬼なのかもしれない。
もしくは、その真逆で俺こそが悪鬼羅刹であり、水樹の復活を怖れているのかもしれなかったし、或いは、眠っている間に外敵から水樹を守護する役目があるのかもしれなかった。
プリンセスを護るドラゴンみたいに。
きょう、スティミュレイトという単語を知った。
器官や神経に対して刺激するということらしい。
生きているということは、刺激そのものであるといえる。
ヒトは負の感情を持つことで、自分を守ろうとする。たとえば、俺なんてどうせダメに決まってる、だから期待しないようにして、なるべく傷が残らないようにしよう、であるとか、何か悪いことが起こりそうな気がするし、いいことなんてあるわけもないんだから、深く傷つかないようにと、物事を否定的に捉えていようとする。
しかし、そんなやり方、考え方はもう古過ぎるのだった。ほんとうはその真逆が正しい。
物事はすべて肯定的に捉えて、明るい気持ちでいなくてはならない。
だが、そうすることは決して容易ではない。常に心は、悲しみやら暗い感情に囚われるように間断なく狙われている。
悲しみやら暗い感情は、とてつもなく強力な磁力があるので、いとも簡単に人は悲しみや悲観的な感情の虜にされてしまう。
実は、すべてにおいて否定的に捉えることの方が、楽なのだ。
何かを信じているためには、強さが要る。
この世に生きている誰しもが、未来に何がやってくるのか知らない。だからこそ努力するわけだが、いい未来を引き寄せるには、暗い気持ちではダメに決まっている。
なぜかといえば、自分にとっていい未来の、その時の自分の姿を想像してみてほしい。
それは必ずや笑顔であるはずなのであり、「未来」に笑顔の自分になるためには、どう考えたって「現在」も笑顔でなければならない。
「現在」泣き腫らした目をしているのに、「未来」は笑顔になっているわけはないのだ。
笑顔が、そして明るい気持ちが、笑顔の未来を、明るい将来を引き寄せる。
それがほとんどの人が気づかない真理だ。
このことを肝に命じなければならない。
ヒトはどうしたって、暗い気持ちや、悲しみというネガティブなものに引き寄せられてしまい、いとも簡単に悲しみや悲観的な感情に身を委ねてしまう。
だから、とにかく心の中にある悲しみのカケラを捨ててしまおう。
そんなものをいつまでも後生大事に抱えている意味がわからない。
◇
夢想ではなく現実の水樹とは、幼馴染だが好きになって、というか離れがたい大切な存在なんだと気づいた時からなんだかんだでもう10年近くになる。
一目惚れともいえない。
最初から、その可憐なさまに、やられてしまっていた。いや、それを一目惚れというのだろうか。 気づくと気になって仕方ない存在になっていた。
つき合っていたつもりだったけど、水樹にとってはそうじゃなかったのかもしれない、ただの仲のいい幼馴染としか見ていなかったのかもしれないし、もう今となってはよくわからない。
恋愛は、双方の美しき誤解からはじまる、なんていうが、自分はまさにそれが当てはまるのかもしれない。
では、両想いだったのかといえば、それすら危うい。まるで、アイドルとそのヲタクとの関係そのままに、まったく自分に都合よく水樹の発言や笑みを解釈し、つき合っているような幻想の世界に遊んでいたのかもしれなかった。
アイドルとのやりとりの中で、意味深な笑みを浮かべたやら、握手終わりにギュッと握られたやらで「好きのサインに違いない」から一足飛びに「明確な結婚の意思がある」に飛躍してしまうヲタクも少なからずいるだろう。
そんなアイドルの握手会での瞬きする間のようなほんの一瞬でも、推しメンとのふたりだけの夢のような世界は確かに現前する。
だが、いまこうして眠りについてしまった水樹を前にしていると、握ることのできなかった手も、抱きしめれば手折れそうな華奢な肉体も、唇も以前のように心奪われることはなかった。
時間を気にすることなく自由に手を握れても、或いはキスできても、うれしくはない。
当然だった。彼女の同意なくして手を握ること、唇を奪うこと、そこには虚しさがあるばかりで、喜びは生まれない。
水樹は、もうここにはいないのだ。
ほんとうの水樹の魂は、可憐な花であるとか、愛らしい猫であるとか別なものに宿り、どこかで幸せに暮らしているのかもしれない。
いま目の前に静かに横たわる水樹は、愛の亡き骸みたいなものだった。
そう思えてならない。
水樹に告白してからの2年間だけが、ふたりに許された夢のような時間だったのかもしれない。
まるで彗星のように目の前に現われた水樹は、また彗星のように遠く遠く別の天体へと離れていってしまう、それがふたりの宿命だったのかもしれない。
昏い部屋の中で寝息もたてずに横たわっている水樹の、その冷たいその唇に、それでも何度キスしたことだろう。
しかし、残念ながら自分は白雪姫にキスして目醒めさせた王子などではなかった。
甘い口づけは、ただ暗く途方もない虚無感を生み、胸を軋ませるだけだった。
結局、水樹はもう戻ってはこないのだ。
どこかに行ってしまった。ここには、もう水樹はいない。
それでも、愛の亡き骸をずっと見ている。
愛しさを募らせれば募らせるほど、水樹は遠ざかっていってしまうような、いまはそんな気がする。水樹を求めて伸ばした手は、虚しく虚空を切るばかりなのだった。
それでも、愛の亡き骸をずっと見ている。
楽しかったね、水樹。
こんな別れ方もあるんだね。
また、いつかどこかで逢えたらいいな。
愛してるよ、水樹。
レイは、そんな風に夢想した。
眠り続ける水樹というのは、何かのメタファーなのだろうか?没交渉となってしまった今では、眠り続ける水樹というイメージが、レイにとってしっくりくるのだった。
さらには、夢想するままに出会いをアレンジしてみたりしたが、どこまでいっても水樹はレイにとって大切な幼なじみにちがいなかった。
だが、それはどこまで行っても交わることのない平行線という意味なのかもしれない。
彼女が目醒めるとき、ちょうどそこに居合わせる、その幸福な一瞬だけを夢みてる。なんて前に書いたけれども、実は彼女が目醒めないように見張っているだけなのかもしれない。
しかし、そうだとしたならば、いったいそれは何のためなのか。
もしかしたなら、水樹は可愛らしい顔に似合わず、あるいはこうとも言えるかもしれないが、可愛らしい顔故に正体を知られないようにしている、とも考えられる。つまり、いわゆる羊の皮を被った悪鬼なのかもしれない。
もしくは、その真逆で俺こそが悪鬼羅刹であり、水樹の復活を怖れているのかもしれなかったし、或いは、眠っている間に外敵から水樹を守護する役目があるのかもしれなかった。
プリンセスを護るドラゴンみたいに。
きょう、スティミュレイトという単語を知った。
器官や神経に対して刺激するということらしい。
生きているということは、刺激そのものであるといえる。
ヒトは負の感情を持つことで、自分を守ろうとする。たとえば、俺なんてどうせダメに決まってる、だから期待しないようにして、なるべく傷が残らないようにしよう、であるとか、何か悪いことが起こりそうな気がするし、いいことなんてあるわけもないんだから、深く傷つかないようにと、物事を否定的に捉えていようとする。
しかし、そんなやり方、考え方はもう古過ぎるのだった。ほんとうはその真逆が正しい。
物事はすべて肯定的に捉えて、明るい気持ちでいなくてはならない。
だが、そうすることは決して容易ではない。常に心は、悲しみやら暗い感情に囚われるように間断なく狙われている。
悲しみやら暗い感情は、とてつもなく強力な磁力があるので、いとも簡単に人は悲しみや悲観的な感情の虜にされてしまう。
実は、すべてにおいて否定的に捉えることの方が、楽なのだ。
何かを信じているためには、強さが要る。
この世に生きている誰しもが、未来に何がやってくるのか知らない。だからこそ努力するわけだが、いい未来を引き寄せるには、暗い気持ちではダメに決まっている。
なぜかといえば、自分にとっていい未来の、その時の自分の姿を想像してみてほしい。
それは必ずや笑顔であるはずなのであり、「未来」に笑顔の自分になるためには、どう考えたって「現在」も笑顔でなければならない。
「現在」泣き腫らした目をしているのに、「未来」は笑顔になっているわけはないのだ。
笑顔が、そして明るい気持ちが、笑顔の未来を、明るい将来を引き寄せる。
それがほとんどの人が気づかない真理だ。
このことを肝に命じなければならない。
ヒトはどうしたって、暗い気持ちや、悲しみというネガティブなものに引き寄せられてしまい、いとも簡単に悲しみや悲観的な感情に身を委ねてしまう。
だから、とにかく心の中にある悲しみのカケラを捨ててしまおう。
そんなものをいつまでも後生大事に抱えている意味がわからない。
◇
夢想ではなく現実の水樹とは、幼馴染だが好きになって、というか離れがたい大切な存在なんだと気づいた時からなんだかんだでもう10年近くになる。
一目惚れともいえない。
最初から、その可憐なさまに、やられてしまっていた。いや、それを一目惚れというのだろうか。 気づくと気になって仕方ない存在になっていた。
つき合っていたつもりだったけど、水樹にとってはそうじゃなかったのかもしれない、ただの仲のいい幼馴染としか見ていなかったのかもしれないし、もう今となってはよくわからない。
恋愛は、双方の美しき誤解からはじまる、なんていうが、自分はまさにそれが当てはまるのかもしれない。
では、両想いだったのかといえば、それすら危うい。まるで、アイドルとそのヲタクとの関係そのままに、まったく自分に都合よく水樹の発言や笑みを解釈し、つき合っているような幻想の世界に遊んでいたのかもしれなかった。
アイドルとのやりとりの中で、意味深な笑みを浮かべたやら、握手終わりにギュッと握られたやらで「好きのサインに違いない」から一足飛びに「明確な結婚の意思がある」に飛躍してしまうヲタクも少なからずいるだろう。
そんなアイドルの握手会での瞬きする間のようなほんの一瞬でも、推しメンとのふたりだけの夢のような世界は確かに現前する。
だが、いまこうして眠りについてしまった水樹を前にしていると、握ることのできなかった手も、抱きしめれば手折れそうな華奢な肉体も、唇も以前のように心奪われることはなかった。
時間を気にすることなく自由に手を握れても、或いはキスできても、うれしくはない。
当然だった。彼女の同意なくして手を握ること、唇を奪うこと、そこには虚しさがあるばかりで、喜びは生まれない。
水樹は、もうここにはいないのだ。
ほんとうの水樹の魂は、可憐な花であるとか、愛らしい猫であるとか別なものに宿り、どこかで幸せに暮らしているのかもしれない。
いま目の前に静かに横たわる水樹は、愛の亡き骸みたいなものだった。
そう思えてならない。
水樹に告白してからの2年間だけが、ふたりに許された夢のような時間だったのかもしれない。
まるで彗星のように目の前に現われた水樹は、また彗星のように遠く遠く別の天体へと離れていってしまう、それがふたりの宿命だったのかもしれない。
昏い部屋の中で寝息もたてずに横たわっている水樹の、その冷たいその唇に、それでも何度キスしたことだろう。
しかし、残念ながら自分は白雪姫にキスして目醒めさせた王子などではなかった。
甘い口づけは、ただ暗く途方もない虚無感を生み、胸を軋ませるだけだった。
結局、水樹はもう戻ってはこないのだ。
どこかに行ってしまった。ここには、もう水樹はいない。
それでも、愛の亡き骸をずっと見ている。
愛しさを募らせれば募らせるほど、水樹は遠ざかっていってしまうような、いまはそんな気がする。水樹を求めて伸ばした手は、虚しく虚空を切るばかりなのだった。
それでも、愛の亡き骸をずっと見ている。
楽しかったね、水樹。
こんな別れ方もあるんだね。
また、いつかどこかで逢えたらいいな。
愛してるよ、水樹。
レイは、そんな風に夢想した。
眠り続ける水樹というのは、何かのメタファーなのだろうか?没交渉となってしまった今では、眠り続ける水樹というイメージが、レイにとってしっくりくるのだった。
さらには、夢想するままに出会いをアレンジしてみたりしたが、どこまでいっても水樹はレイにとって大切な幼なじみにちがいなかった。
だが、それはどこまで行っても交わることのない平行線という意味なのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
25cmのシンデレラ
野守
恋愛
デパートに靴を買いに来た梨代は、自分の足に合う25センチのサイズが無くて落ち込んでいた。そこで偶然起こった暴漢騒ぎ。とっさに靴を投げて助けた男性は、まさに梨代が買おうとしていたブランドのメーカー「篠塚製靴」に勤める篠塚だった。しかも篠塚グループと呼ばれる現代財閥の御曹司だとか。
後日お礼として非売品の靴を届けに来た篠塚は、梨代にとある仕事の依頼を持ちかけて……。
御曹司が庶民を体験⁉ 王子様の「逆」シンデレラスト―リーが始まった! と思いきや、事態はあらぬ方向に。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる