花散る男女

トリヤマケイ

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第2部 名古屋編

🎵 16 Come together

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 レイは、溺れる者藁をも掴むの心境だった。

    脱線しすぎた話を本線に戻そう。
 ジュネにかけられた呪いをどうしても祓わなくてはならない。そういう話だった。そしてそれがレイに課せられた絶対命題だった。

    ただ、どうやって祓うのかもわからないのだし、それが可能であるのかすらレイにはわからない。とにかく仲間を集めないことにはどうにもならないと思った。

   どちらかというと人間嫌いであまり社交性のないレイにとって、それは結構難関な問題であり、それが難しければ難しいほど回避したいというか、その問題に向き合うことをなんとか後回しにしたいという心理が働いて、脱線につぐ脱線を繰り返してぐるぐると堂々巡りみたいな妄想の世界に逃げ込むのがレイの常套手段だった。

   あとはゲーム三昧で頭の中を真っ白にして何も考えないのが一番楽だった。

 それでも、まあ、なんとか気を取り直して、とりあえずは、現場で会うヲタクの連中にそれとなく探りを入れてみることにした。

 それでジュネが、もとい、ジュネの生霊さんが絨毯爆撃したかどうかは、先ず判別できるし、ジュネから打診がなかったとしたら、一緒に探してもらうつもりだった。

 だが、いったい誰が昨日までヲタク同士だった者が推しメンの婚約者となると知ったら、喜んで手を貸してくれるだろう。

 その瞬間から、目の前のヲタクが強烈に羨ましい嫉妬の対象になるだけの話だろう。

 そんな神様みたいなヲタクがいたら、そいつは間違いなくヒトという種族ではない。

 つまり、とレイはハッとして、そこで膝をパシリと手で打った。

 つまり、その話を隠すのではなく敢えて話すことによって、そいつの度量がわかるという物差しになるといことなのだ。

 ジュネとの婚約話をわざわざ話して、それでもなお態度やら目付きが豹変しないならば、そいつは本当の仲間となってくれるだろう。

 砂漠で一粒の砂金を見つけるような僥倖がないとも限らない。レイはそのやり方で仲間を探すことにした。

 だが、さぐりを入れるというだけなのだから、マジになど話さない。

 いや無論、真面目な顔して話たとしても推しメンと婚約なんて、つまらない冗談としか思われないだろうから、幾らでもトンデモな話で全然問題はない。ただ反応を見たかった。 

 そしてそんな奇特な人物がいたとしたら、まさにその人物が今回探している神か、あるいは神に近い存在なのではないだろうか。レイはそう思った。

 そして、レイはそんな人間離れした人物を既に知っていることを思い出した。

 知っているというのは語弊があるのかもしれない。ほんとうは誰もが見ようと思えば見えるのだと思う。

 その存在を頭から否定している人には無理だろうけれど。

 そういえば、この頃彼を見かけなくなった。会おうと思って会える相手ではなく、ふらりと立ち現われるから、どうにも厄介だった。

  アポイントメントなど取れるわけもない。



   たしかそれは、じゅじゅの5枚目の新曲のリリイベも終わった次の対バンライブでの出来事だった。

   顔見知りのヲタクたちと、いつものように沸きまくり、可変3連MIXの曲で、泣き芸を披露したヒロシに笑いころげ、ひと段落した頃、それは現われた。

   打ちっ放しのコンクリートの天井から、頭を逆さまにしたまま、それは現われた。他のヲタクは誰も気づいていないようだった。

 ソフトマシーンというトリオのパフォーマンスが終わると、そいつはくるりとこちらを振り返って、こういった。

「あなたには、私が見えるようですね」

   それが、メディスンマンとのはじめての出会いだった。

   それはまだ自分の推しが明確に決まってはいない頃のことで、その後も幾度か見かけたことはあったけれど、今のチームを推すようになった頃ぐらいからか、ほとんど見かけなくなった。


   それは、見かけなかったのではなく、ただ見えなかっただけなのかもしれない。

 すべては自分次第なのかもしれないのだ。

   しかし、それにしてもなぜまたメディスンマンを思い出さなかったのか、レイは自分でも不思議でならなかった。

 尋常ではない形而上的な難問を突きつけられて、先ず普通の人間に答えられるわけもない。

 いわゆる知の埒外にあるものなのだから、あのほんとうに存在しているのかいないのかわからないメディスンマンこそが、解答を与えてくれそうな唯一の頼みの綱であるだろうに、レイはその彼を先ず第一に思い浮かべなかったことに驚いている。


   解答を与えてくれるどころか、彼こそが求めているその人物かもしれないのだ。その可能性は大いにある。

   そのメディスンマンは、レイが適当にそう呼んでいるだけで、ほんとうの名前すら知らない。

   その彼とはいわゆる現場の暗がりの中で何度か見た程度で、それもあちらは逆さ吊りの格好だから、まともに対面したとは言い難いのだが、実は昼日中の明るい場所で、実はメディスンマンと会ったことがあると気づいたのは、だいぶ後になってからのことだ。


     つまり、メディスンマン=羊飼いだったのだ。
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