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第2部 名古屋編
🎵21 ジュネの出生の秘密
しおりを挟むむかしむかし、そのまたむかしのむかしむかしの、そのまたむかし。
通称「腹ぼてのオヨネ」と呼ばれるくねくねくねくね曲がりくねってばかりいる坂に夫婦の神様が住んでいました。
ふたりには子どもがありませんでしたが、それをお互いに自分の悪い素行のせいだと考えていました。
妻の神様のカデスは、実は人間と一度だけ過ちを犯したことがあって、その罪のために子どもが出来ないのだと思っていました。
しかし、夫の神様のタキオンゼルロペといえば、五十年ほど昔に山羊と二度ほど、そして人間の娘とも何回も過ちを犯していたことがあり、それがそもそも子どもが出来ない原因かもしれないと考えていました。
ある日、女神さまであるカデスの方が具合が悪くなって倒れてしまいました。
そこで、タキオンゼルロペは、急いで隣のフクロウ谷に住むオモテサンドゥという八千年生きているという物識りの神様に相談に行きました。するとオモテサンドゥは、こういうのでした。
「因果応報。めぐりめぐっておまえさんの罪が奥方を苦しめているのだ。昔、おまえさん、人間の娘を手篭めにしたことがあるであろう」
タキオンゼルロペは勢い込んで
「やっぱり、それが原因なのか」
と聞くと、いや、そうではない、と意外な答えが返ってきました。
「そのな、その娘を一刻も早く探し出すのだ。その娘がもうこの世にいないのならば、その娘でも息子でもよい。そして、その子と一夜の契りを交わすのだ。ただし、おまえがではないぞ」
「しかし。そんなことでカデスの容態が良くなるというのか」
「ああ」とオモテサンドゥ。
「つまり、それは呪いの類いということなのか」
「そう。その通り、その人間の祖先が怒っているのだ。おまえ、その娘を手篭めにした後のことを何もしらないだろう。その娘は、おまえの子を身篭ったのだよ。
家族は、喜んだ。この子が必ず幸福を運んで来てくれると。しかし、おまえの親がこの子は神の子だからと、取り上げてしまったのだ。
そして、その人間の家系はそれを境にして没落寸前までいったのだ。それで、おまえにも子どもができないというわけだ。
そして、実にやっかいなことに、さらに問題をこじれさせているのは、カデスの人間との浮気だ」
なに! といったまま怒りに震えているタキオンゼルロペをオモテサンドゥ嗜めました。
「待て待て、それというのも、おまえの人間の娘へのちょっかいが原因なのだから、怒るのはお門違いというものだ」
「いったい、どうすればいいんだ」
「よく聞けよ。カデスはそのとき、懐妊したのだ。そしてむろん、赤ん坊は闇から闇へと葬り去られてしまったのだが、その娘の娘か孫娘、とにかく、孫だか曾孫だかを探し出し、おまえが悪戯した方の孫だか曾孫だかを探し出し、そのふたりに契りを交わさせるのだ」
「わかった。しかしだ。その見つけ出した者が、男同士であるとか、女同士であるとかの場合は、どうする?」
「仕方ない。女同士であったならば、もう一度おまえが子種を分けてやり、男同士だったならば、おまえが女神になって子を孕ませるしかない」
軽く途方に暮れたタキオンゼルロペは、愛犬のタロウにこんなことを言うのでした。
「タロウ、おれはもう生きてゆく気力がない。いっそのことあの谷底に落ちて死んでしまった方が生きていることよりもまだしも楽であり愉しいのではないかなどと思うんだよ。なぜおれたちは愛し合っているというのに相手を裏切るようなことを平気でしてしまうのだろう。いや、もういい。どうだっていい。とにかくおれはもう何も考えたくはない。くたびれてしまったんだ、心底この人生にこの見せ掛けの愛に。さあ、タロウ、自分のことしか考えていないこのおれを叱ってくれないか、おまえたちの歌を歌って」
すると、タロウは、グルルルルと大きくひとつ唸ったかと思うと、前足を揃え顔を見事なフルムーンにまっすぐ向けて、朗々と歌うように吠えはじめました。
タロウは、名前こそ土佐犬とか柴犬のように純和風でしたが、クリンクリンにカールした毛並のトイプードルでした。その彼が崖っぷちに立つロンリーウルフのように遠吠えをはじめたのです。
高く低くワオーン、ワオーンとタロウは遠吠えすると、今度は、声をひそめて詩を朗読するように、あるいは歌を歌うように語りはじめました。
さてここで、タロウは主人であるタキオンゼルロペを勇気付けるために、こんなことを語っていたのでした。
バウワウ。プラトンの「饗宴」を読むうちに刺激を受けたのか、景色を眺めながら物を思うということ、これには具象をもって直情的に思うということと共に、具象の具体性にはほとんど感応せずに、その景色とはまったく異なる事柄やら人物やらを思うこと、及び何にも感応せずに漠然と物を思うということがありますが、前者の方では景色が直接心に突き刺さってくるのであり、つまり視覚が思考そのもののようであるようです。
すなわち、ひとつの景色はそのままダイレクトにひとつの意味しか持たないということ。とにもかくにも見たままなのですね。そこには、まったく連想やら考察の入る余地はありません。
秋の収穫の季節に果物や野菜が取れるその様を眺めてみても、収穫は収穫であってそれ以外の何ものでもないし、それ以上でもそれ以下でもない。
ああ、柿がとれたなあであるとか、おお、いい栗だなあであるとか、せいぜい美味しそうだくらいの感想は出るかもしれませんが。いや、もうひとつあるかもしれないですね。それは、その眺めによって何らかの紐付けが為された記憶が呼び覚まされるという、れいのプルーストのあれです。
ということで、いずれにせよ、生きていく上において刺激というものが非常に大事であることがわかります。そして、心の病とは、この成長することに大切な刺激を一切受け付けないように心の扉を閉じてしまうということでしょう。
目を閉じるだけならば、視覚の刺激が失われるのみだし、他の鼻、耳、舌、皮膚の感覚も同様ですが、これらの器官と心、あるいは脳、すべては刺激を受けて発達してゆくようにできています。つまるところ、すべては刺激なのですね。バウワウ。
そして、それっきりタロウは目を閉じて地面にぺたりと腹ばいになってしまい、もう顔を上げようともしなかった。
というわけで、夢の映像をバケモノと共有し、なんとか乗り切った赤坂ジローだったが、夢はそこで途切れいよいよ行き詰ってしまったのだった。
絶対絶命をマンガみたいにご都合主義で外的要因により救われることなんてもう金輪際ありえないと思った赤坂ジローは、最後の手段として寝逃げするかのように自分の意識のなかに逃げ込むことを考えた。
ただしかし……ただしかし。意識を飛ばして文字通り、あっちの世界に逝くのではなく、意識の流れを垂れ流そうという狙いなのだ。ただでは起き上がらないというわけで、これで赤坂ジローもなかなかしたたかなようだ。
しかし、これをやると完璧に面白くなくなる嫌な予感がひしひしとした。わけのわからないものを垂れ流すほどつまらないものもないからだ。たとえていうならば、赤の他人のブレインストーミングを聞かされても面白くもなんともない。
じゃあ、いっそのことみんなもよく知っていて、追体験できるエロ方面へと
とそこで、有無を言わさずバクリと赤坂ジローは、頭からバケモノに丸呑みされてしまう。
いや、丸呑みされてしまう自分の姿が予知夢みたいに脳裏にギザギザの閃光になって走ったのだ。
実際は、赤坂ジロー自身が、予知能力があるのか、あるいは、バケモノに幻想を見せられたのか、釈然としなかった。
そして驚いたことには、レイ自身が赤坂ジローとなって、見知らぬ女性と会話しているのだった。自分が赤坂ジローであるという認識がどこから来たものであるか、わけがわからないが、レイはこの時赤坂ジローに違いないのだった。
この時レイが赤坂ジローへと人格転移したのだが、つまり赤坂ジローは、レイの潜在意識の中に存在していることが、レイにもわかった。
ということは、即ちバケモノもレイの潜在意識の中に巣食う存在ということになる。
どうやら、レイが今話している見知らぬ女性が、さっきのバケモノらしい。バケモノは文字通り自在に変化するわけだ。
さっきまでは、顔だけはヒトの顔をしたオロチだかろくろっ首であり、バケモノ然としていたが、今は二足歩行の普通のヒトに見事に化けていた。
そして、今度はそのバケモノのターンのようだ。
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