伯爵家の美しきバラと可愛い小鳥

希紫瑠音

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報告書(セルジュ) 2

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 二人きりの時は親友としているため遠慮がなくなる。

「本当の話しかね、あれ」

 丁寧な言葉使いでなくため口。セルジュと側近は同い年で幼き頃からの親友であった。

「どうだろうな」

 アレッタの前では信じたように見せかけたが、エリーゼを陥れるために作り話をしたかもしれない。

「一度、調べた方がよいだろうな」

 本当の彼女たちはどんな人なのかを。そして実際に誰が刺繍をしているのかを。

「タズリー伯爵家に影をおくる」
「了解」

 王族にはいざという時のために影を与えられる。周囲に溶け込み任務を全うする。

 一体何を拾ってくることだろう。

「失望させないでくれよ」

 婚約破棄なんて展開になると面倒だと本音がつい漏れ出てしまう。

「刺繍の腕が見事な令嬢を探すのは大変だからな」

 領地でやりたいことを実現するために、刺繍の腕前は必要不可欠だ。

「刺繍の腕があれば男でもよいのだが……習わせる親はいだろう」

 この国は男子のみ同性婚も許されていて、求められるのは領地管理や事業などパートナーとして表にでることを望まれる。刺繍をするより勉強をさせるだろう。

 そのために学園があり、男子は貴族教育と剣術のために通うのだ。ちなみに女子は家庭教師をつけて淑女マナーの教育と刺繍を学ぶ。

「令息はまずやらないな。だが庶民の中には男の刺繍職人がいると聞くぞ。見事な刺繍は高値で売れる」
「わが国では刺繍は重要な役割をはたしているからな」

 男が刺繍をしている、その話を聞いた時になぜかタズリー伯爵家の庭であった使用人のことを思い出した。

 たった一度しか会ったことがないのにだ。

「庭園で会った彼も刺繍をするのだろうか」

 顔はよく覚えていないが袖口には可愛いバラの刺繍があったことは覚えている。

「あぁ、あの時の使用人か。枯れ木の棒みたいなイメージしかないが」

 あの時フレットも一緒であったからなんとなく覚えていたのかもしれない。
 言葉は悪いが本当にそのような感じではあった。

「自分のところの使用人がそんな状態だったら気にならないか」
「確かに。ついでに調べよう」

 一体、どんな報告を受けることになるだろうか。





 あれから数日後。陰からの報告書を読み終えて背もたれに体を預ける。そして深く息を吐き出した。

「は、胸糞悪い」

 あの美しい見た目と違い中味は醜い姉妹だった。いや、ふたりだけでなくタズリー家の者たち全員がだ。

 私生児だからと虐げていたのだ。

 家に置いていたのは刺繍のため。生きるのに必要な最低限のものしか与えず利用していたのだ。

 読み終えた報告書をフレットに渡し、それを読んだ彼は自分の腕をさすり始めた。

「見た目にだまされた」
「彼女たちのことなどあまり知らないのだからだまされるのも無理はないさ」

 婚約者候補になったからといっても頻繁に会うことなど無かったのだから。

「純血でなければ家族ではない? くだらない。どうして貴族はそんなことで相手を見下すのか」
「そう思わない者の方が少ないんだよ、セルジュ」

 血だけではない。容姿に対しても陰口をいう、虐げる者もいるのだから。

「そうだな。考え方は合わんがな」
「俺もだよ」
「タズリー伯爵家と姻戚になるつもりはないが彼は欲しい」

 そのためには一度彼に会う必要があるだろう。

「フレット、タズリー伯爵に手紙を届けてくれ。近いうちに会いに行くと」
「了解」

 手紙をしたためてフレットへと渡す。

 それまでに彼女たちへ課題をひとつ。婚約者を選ぶ参考にすると伝えて刺繍をさせるつもりであった。
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