伯爵家の美しきバラと可愛い小鳥

希紫瑠音

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秘密の会話 1

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 誰かの使ったシャツとズボンではあるがヴェルネルがいつも身に着けている物よりもキレイでつぎはぎもない。

 それを渡されて着替えるように言われる。

 そして連れていかれたのは庭であった。たしか今日はアレッタとエリーゼの婚約者候補が来る日で、けして部屋の外へはでるなと言われていた。

 それなのに服を着替えて外へ連れていかれるとは。

 もしかしたら庭で会った彼の姿が見られるかもしれないなと少しだけ期待をしてしまったのだが、少しどころではなかった。

「セルジュ様が庭師であるお前に案内をと申されてな。いいか、余計なことはいうのではないぞ」
「わかりました」

 タズリー伯爵家の当主であるデニスはヴェルネルの監視をさせるために侍女を一人つけた。

 庭には彼と側近、自分と侍女の四人だけ。バラが見たいと言われてそこまで案内をする。

 すると彼は側近と侍女にそこで控えているようにいう。

 それに慌てたのは侍女だ。声が届かぬところまでいかれてしまっては監視の意味がなくなってしまうから。

 だがセルジュに睨まれて黙り込む。使用人が高貴な方に意見をするなんてことは許されない。命じられたら素直に聞くしかない。

 侍女と離れることができたことにホッとする。

「君、名は?」
「ヴェルネルと申します」
「そうか。俺はセルジュ・ラ・フォンティーヌ・スヴァルツだ」

 名は知らなかったが彼が第三王子であることは知っていた。

 このまえは日が落ちていたのでランプの明かりでしか彼を見られなかったが、姿勢がよく優れた容姿をしていた。

 だが日の照っている場所でみる彼は、相当すごかった。

 アースブルーの髪は襟足が長く、黒色のリボンで束ねていた。切れ長の目とエメラルドの瞳。鼻筋が通っている。

 同じような身長なのに体つきは天で違う。ヴェルネルなど簡単に折り曲げられそうだ。

「あの、どうして私を?」

 本当の庭師がいるのに。どうして自分が庭師になってしまったのだろう。

「実はな、婚約者候補殿たちに今まで繍ったものを見せてもらったんだ」
「そうだったのですね」

 いつもなら刺繍を頼んでくるだろうに、きっといきなり言われたのかもしれない。

「それで見せてもらった後にお茶をしていてね。君のことを思い出したんだ」
「え、私を、ですか」

 きっと使用人よりもみすぼらしい格好をしていたから、逆に覚えていたのかもしれない。

 もしくは見た目か。伯爵家の人たちに枯れ枝と言われるくらい、本当に自分はそのような見た目だから。

 とにかく悪い印象で残っていたのだと思い、一瞬、覚えていてくれたことに浮かれたけれどすぐに落ち込んだ。

「庭で絵を描いていたな。制服を着ていなかったから庭師かとタズリー卿に尋ねたのだよ」
「そういうことでしたか」

 屋敷で働く男性は紺の制服、庭師は自由で動きやすい服装をしていた。客人がいるときに私服を着ている使用人が外にいるなんてことは家の恥となる。

 それをヴェルネルはやらかしてしまっているが。

「お客人がいらっしゃると知らずにお目汚しをしてしまい申し訳ありません」
「いや、責めているわけではない。それに君が庭師でないことは解っているから」
「え、それはどういうことでしょうか」

 庭師だと思ってデニスに尋ねたのではないのか。

 言いたいことが理解できずに目を瞬かせる。
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