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年下ワンコとご主人様
3・久世
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小さな頃、親が離婚して母親に引き取られた。新しい父親と、二人の間に生まれた兄弟も出来た。だが、それと同時に自分の居場所がなくなった。
愛情を知らずに育った久世は、年上の、しかも甘えさせてくれる人が好きだ。
今の彼女はまるで母親のように、自分を甘やかして愛してくれる。
波多もまた自分を甘やかせてくれる先輩だった。
頭を撫でてくれるのも、久世の大好物はわけてくれる。喜ぶ姿を見て微笑む表情も、すご大好きだ。
なのに突然、人が変わったかのように、
「そろそろ甘やかすのは終わりな」
そう言われてしまい、仕事に慣れてきただろうと言われて突放された。
仕事の面でということなら解る。だが、何故、プライベートでも突放されたのだろう?
何か気に障る事をしてしまっただろうか。
理由を聞いても「何度も言わせるな」と面倒くさそうに言う。
「素の俺はこんなだから。研修の間は優しいふりをしていただけだ」
と、自分に優しさを期待するなら大間違いだとまで言われた。
それはすぐに嘘だと思った。優しさを期待するならと、そう口にして目をそらした。
結局、理由がわからないのなら付きまとう。
あまりに波多ばかり追い回すから、周りには「ご主人様と犬」のような扱いをされている。
昨日、食堂で嬉しい出来事があった。波多が自分の好物を覚えていてくれたのだ。
自分に少し興味を持ってくれている。だから好物も覚えていてくれたんだと思っている。
だからお礼に喫茶店で珈琲をおごりたいと、嫌だと断る波多を少し強引に店へ連れて行く。
「いらしゃいませ」
久世達が店に入ると店主が笑顔で迎え入れてくれる。その表情にほわっとつられるように笑顔を浮かべていると、波多が、
「こんにちは。パンはありますか?」
久世が気になっていたパンのことを聞いてくれた。一緒に行くのを嫌がっていたのに、そういう所が優しくて好きだ。
「はい、ありますよ」
「こいつの分だけお願いします。後、珈琲二つ」
「畏まりました」
ここへ来るのは二度目。一度目はゆっくりとできなかったので、店主のことをまじまじと見たのは初めてだ。
店主を見る波多の表情は優しく、そして会えることを喜んでいる。それが久世にとって面白くない。
視線を遮るように顔を近づければ、驚いて顔を遠ざけた。
「おわっ、なんだよ久世!」
「だって波多さんたら、彼の事ばっかり見てるから」
「はん、当たり前だろう。江藤さんは俺の癒しなんだよ」
如何にも当然だとばかりに、そう口にする波多に。久世はショックでしょんぼりとしかけた所に、
「ありがとうございます」
と店主の江藤がくすくすと笑っている。
「おわ、声に出ちゃった」
恥ずかしいと頬を染める波多に、これ以上、このやり取りは見ていたくはなくて。
「波多さんは俺の飼い主なんですから、俺を構って癒されて下さい」
そう、前のめりになり、ぐりぐりと肩の所に頭を押し付ける。これは久世が波多に対して甘えたいときにする行為だ。そして、いつもと同様、後頭部を叩かれた。
「ううぅ」
「鬱陶しいんだよ、お前は。江藤さん、こいつ用の珈琲はキャンセルで、ドックフードと水にしてください」
「えぇぇ、波多さん~」
酷いですと半泣きの久世に、江藤がクスクスと笑いながらパンを差し出す。
「今日は苺の蒸しパンだよ」
ごゆっくりと、江藤はカウンターに戻り久世は頂きますと蒸しパンを手に取る。
それを半分に割ると中にはミルククリームが入っている。
「波多さん、波多さん、クリームがたっぷり入ってますよ!」
「良かったな」
適当にあしらわれてしまったが、ほんのりと甘く苺の味と香りがする蒸しパンに甘いミルククリーム。珈琲と良く合うし、美味しくて口元が綻ぶ。
そんな姿を波多がじっと見つめていて。ウザいと思われているのか、眉間にシワがよっている。
「そうだ! 波多さん、あーん」
これを食べたら波多だって笑顔になるに違いない。そう思い、ちぎった蒸しパンを食べさせようと口元へ運ぶ。
絶対に食べないと顔を背けられ、それでも口を開いてと軽く蒸しパンをあてる。
ちっと舌打ちをした後、口を開いて指ごと食いつかれた。
「痛てっ」
慌てて指を引き抜く久世に、してやったりと口角を上げて、美味いと呟く。
「ですよね」
噛まれた指に息を吹きかけつつ、波多の眉間のしわがとれてよかったと思う。
「これはお前のなんだから、後は全部食えよ」
もうさっきみたいな事はしないからなと釘をさされ、ここでしつこくしたら完璧に怒らせてしまうので頷く。
すると波多が手を伸ばし、髪をワシワシと乱暴に撫でる。嬉しいが、完全に犬扱いされている。
それでも良いと思っていたはずなのに、たまに胸がちくっと痛む時がある。
そして無性に波多さんを舐めまわしたいと思ってしまうのだ。
ご主人様にじゃれる犬。
これではますます犬のようだと思いつつ、残り少なくなった蒸しパンを口の中へ放った。
愛情を知らずに育った久世は、年上の、しかも甘えさせてくれる人が好きだ。
今の彼女はまるで母親のように、自分を甘やかして愛してくれる。
波多もまた自分を甘やかせてくれる先輩だった。
頭を撫でてくれるのも、久世の大好物はわけてくれる。喜ぶ姿を見て微笑む表情も、すご大好きだ。
なのに突然、人が変わったかのように、
「そろそろ甘やかすのは終わりな」
そう言われてしまい、仕事に慣れてきただろうと言われて突放された。
仕事の面でということなら解る。だが、何故、プライベートでも突放されたのだろう?
何か気に障る事をしてしまっただろうか。
理由を聞いても「何度も言わせるな」と面倒くさそうに言う。
「素の俺はこんなだから。研修の間は優しいふりをしていただけだ」
と、自分に優しさを期待するなら大間違いだとまで言われた。
それはすぐに嘘だと思った。優しさを期待するならと、そう口にして目をそらした。
結局、理由がわからないのなら付きまとう。
あまりに波多ばかり追い回すから、周りには「ご主人様と犬」のような扱いをされている。
昨日、食堂で嬉しい出来事があった。波多が自分の好物を覚えていてくれたのだ。
自分に少し興味を持ってくれている。だから好物も覚えていてくれたんだと思っている。
だからお礼に喫茶店で珈琲をおごりたいと、嫌だと断る波多を少し強引に店へ連れて行く。
「いらしゃいませ」
久世達が店に入ると店主が笑顔で迎え入れてくれる。その表情にほわっとつられるように笑顔を浮かべていると、波多が、
「こんにちは。パンはありますか?」
久世が気になっていたパンのことを聞いてくれた。一緒に行くのを嫌がっていたのに、そういう所が優しくて好きだ。
「はい、ありますよ」
「こいつの分だけお願いします。後、珈琲二つ」
「畏まりました」
ここへ来るのは二度目。一度目はゆっくりとできなかったので、店主のことをまじまじと見たのは初めてだ。
店主を見る波多の表情は優しく、そして会えることを喜んでいる。それが久世にとって面白くない。
視線を遮るように顔を近づければ、驚いて顔を遠ざけた。
「おわっ、なんだよ久世!」
「だって波多さんたら、彼の事ばっかり見てるから」
「はん、当たり前だろう。江藤さんは俺の癒しなんだよ」
如何にも当然だとばかりに、そう口にする波多に。久世はショックでしょんぼりとしかけた所に、
「ありがとうございます」
と店主の江藤がくすくすと笑っている。
「おわ、声に出ちゃった」
恥ずかしいと頬を染める波多に、これ以上、このやり取りは見ていたくはなくて。
「波多さんは俺の飼い主なんですから、俺を構って癒されて下さい」
そう、前のめりになり、ぐりぐりと肩の所に頭を押し付ける。これは久世が波多に対して甘えたいときにする行為だ。そして、いつもと同様、後頭部を叩かれた。
「ううぅ」
「鬱陶しいんだよ、お前は。江藤さん、こいつ用の珈琲はキャンセルで、ドックフードと水にしてください」
「えぇぇ、波多さん~」
酷いですと半泣きの久世に、江藤がクスクスと笑いながらパンを差し出す。
「今日は苺の蒸しパンだよ」
ごゆっくりと、江藤はカウンターに戻り久世は頂きますと蒸しパンを手に取る。
それを半分に割ると中にはミルククリームが入っている。
「波多さん、波多さん、クリームがたっぷり入ってますよ!」
「良かったな」
適当にあしらわれてしまったが、ほんのりと甘く苺の味と香りがする蒸しパンに甘いミルククリーム。珈琲と良く合うし、美味しくて口元が綻ぶ。
そんな姿を波多がじっと見つめていて。ウザいと思われているのか、眉間にシワがよっている。
「そうだ! 波多さん、あーん」
これを食べたら波多だって笑顔になるに違いない。そう思い、ちぎった蒸しパンを食べさせようと口元へ運ぶ。
絶対に食べないと顔を背けられ、それでも口を開いてと軽く蒸しパンをあてる。
ちっと舌打ちをした後、口を開いて指ごと食いつかれた。
「痛てっ」
慌てて指を引き抜く久世に、してやったりと口角を上げて、美味いと呟く。
「ですよね」
噛まれた指に息を吹きかけつつ、波多の眉間のしわがとれてよかったと思う。
「これはお前のなんだから、後は全部食えよ」
もうさっきみたいな事はしないからなと釘をさされ、ここでしつこくしたら完璧に怒らせてしまうので頷く。
すると波多が手を伸ばし、髪をワシワシと乱暴に撫でる。嬉しいが、完全に犬扱いされている。
それでも良いと思っていたはずなのに、たまに胸がちくっと痛む時がある。
そして無性に波多さんを舐めまわしたいと思ってしまうのだ。
ご主人様にじゃれる犬。
これではますます犬のようだと思いつつ、残り少なくなった蒸しパンを口の中へ放った。
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