3 / 59
年下ワンコとご主人様
2・波多
しおりを挟む
あれはまだ久世が新人だった頃だ。
波多と同じ部署に配属され、指導員として面倒を見ることになった。
彼は人懐っこい性格で、甘えてこられるとそれが可愛くて、つい、甘やかしてしまう。
食事の時は彼の好物があるとそっと皿にのせてやったり、抱きついてきたり肩に顔を埋めてきたりすれば頭を撫でてやった。
二人でいる時間がとても幸せで。ノンケである彼を好きになってはいけないと思いながらも、心が惹かれてはじめていた。
だが、ある日、外回りのついでに女子に手土産を買うことになり、お勧めの洋菓子店がある連れて行かれ。
その店は、大人向けといった雰囲気で、落ち着きがあり男でも入りやすい店だった。
「へぇ、良い店だな」
「そうでしょう! 実は俺の彼女の店なんです」
と、ガラス張りの調理場でケーキを作る女性へ手を振る。
久世に気が付いたか、彼女はが頭を下げる。とても笑顔が暖かく、母性を感じさせる人だ。
「へぇ……、優しそうな、人だな」
どうにかそう言うと、久世は嬉しそうに頷いた。
息苦しい。ここに居たくない。
逃げる口実をと携帯を取り出し、
「悪い、俺、ちょっと外にいるわ」
仕事のメールと言うと、久世は解りましたと簡単に嘘を信じる。
電話をするふりをしながらじくじくと痛む胸を押さえた。
久世はただ彼女を波多に紹介したのは喜んでもらえると思ったからだろうか。
あまり反応をしなかった事に、残念そうな顔をしていたから。
それ所か、結局、あれから忙しいふりをして久世と必要最低限の会話しかしなかった。
一緒にいると辛いだけ。気持ちを保つためには久世を突き放すしかない。
いつものように甘えてくる彼に、
「そろそろ甘やかすのは終わりな」
仕事に慣れてきただろうと冷たく接する。まるで捨てられた子犬のように見つめてきたが無視だ。
「なんで、今まで優しくしてくれたのに」
いきなりの豹変した態度に戸惑う久世に、彼女がいる癖に、と、怒りさえ浮かんでくる。
それはただの八つ当たりに過ぎないが、その時は自分勝手な怒りを久世にぶつけていた。
「甘ったれたこと言ってるな! もう少しで研修も終わりなんだ。この先、そんなんじゃ困るだろ?」
これで自分の事を嫌いになってくれたらいい。
なのに、
「俺の事を思って、なんですね」
何を勘違いしたか目をキラキラとさせて解りましたと頷いた。
自分に都合の良い解釈をする久世に、流石に呆気にとられた。
「波多さん、良い人ですね」
大好きですと、余計に懐かれるようになってしまった。
何度、つれない態度をとってもめげることがない。
久世という男のしつこさにはウンザリとする。
そんな二人を、周りの同僚は「犬と飼い主だな」と言い、久世はその言葉を気にすることなくまとわりつくので、それが定着した。
※※※
喫茶店の事を知られてしまってから、久世に誘われるようになった。
その度に断っており、もう一週間近く喫茶店へ行っていない。
「波多さん、喫茶店に行きましょう」
今日も誘われるが、二人で行く気などない。
「嫌だね。一人で行け」
久世のわきをすり抜けて食堂へと向かう。
「約束したじゃないですか」
行きましょうと腕を掴まれ引っ張られるが、すぐに振り払う。
「波多君、飼い主なんだから、ワンコちゃんを散歩に連れて行ってあげなさいよ」
こんなに甘えてくれているのに、と、肩を叩かれて。
「八潮課長」
と、久世と同じくらいの背丈である、上司の八潮雄一郎を見上げる。
波多は八潮が上司となる前に、教育係としてお世話になった先輩でもある。昔から面倒見がよくて甘やかしてくれる人で、久世の事もワンコちゃんと呼び、甘やかしている。
「ほら、課長もそうおっしゃっているのだから、散歩に連れて行ってくださいよ」
そういうと、肩に頭をぐりぐりと押し付けてくる。
これは久世のスキンシップであり、それに対しての返事は後頭部をひと叩き。
「俺はこんな大きな犬は嫌ですよ」
と言葉を返し、ニッコリと笑って見せる。
「波多さん、酷い」
「まったくだよねぇ」
叩かれた所をナデナデとする八潮に、まんざらでもない表情を浮かべていた。
八潮の事は尊敬しているし、憧れてもいる。特に波多と同期の者は彼が好きで、頭を撫でられた時には舞い上がってしまう程だ。なので非常に羨ましくて妬ましい訳だ。
「とにかく、散歩には連れて行きませんから! では、昼飯を食べるんで失礼します」
八潮に頭を下げ、食堂へと向かって歩き出す。
ついてくる久世を無視し、日替わりメニューを選び空いている席へと座る。前のスペースには大盛りのカレーとプリンが二個。
「波多さん」
様子を伺うような態度に、周りにはまるで波多が彼を叱ったかのように思われるのではないか。それはそれでムカつく。
「はぁ」
イラつく気持ちを押さえようと息を吐き捨て、久世が好きなエビフライをカレーの上へのせてやる。
「ありがとうございます!」
好物だという事を覚えていたから。ただそれだけなのに、嬉しそうに頬を緩ませた。
そして、それを可愛いと思ってしまった自分に腹が立った。
波多と同じ部署に配属され、指導員として面倒を見ることになった。
彼は人懐っこい性格で、甘えてこられるとそれが可愛くて、つい、甘やかしてしまう。
食事の時は彼の好物があるとそっと皿にのせてやったり、抱きついてきたり肩に顔を埋めてきたりすれば頭を撫でてやった。
二人でいる時間がとても幸せで。ノンケである彼を好きになってはいけないと思いながらも、心が惹かれてはじめていた。
だが、ある日、外回りのついでに女子に手土産を買うことになり、お勧めの洋菓子店がある連れて行かれ。
その店は、大人向けといった雰囲気で、落ち着きがあり男でも入りやすい店だった。
「へぇ、良い店だな」
「そうでしょう! 実は俺の彼女の店なんです」
と、ガラス張りの調理場でケーキを作る女性へ手を振る。
久世に気が付いたか、彼女はが頭を下げる。とても笑顔が暖かく、母性を感じさせる人だ。
「へぇ……、優しそうな、人だな」
どうにかそう言うと、久世は嬉しそうに頷いた。
息苦しい。ここに居たくない。
逃げる口実をと携帯を取り出し、
「悪い、俺、ちょっと外にいるわ」
仕事のメールと言うと、久世は解りましたと簡単に嘘を信じる。
電話をするふりをしながらじくじくと痛む胸を押さえた。
久世はただ彼女を波多に紹介したのは喜んでもらえると思ったからだろうか。
あまり反応をしなかった事に、残念そうな顔をしていたから。
それ所か、結局、あれから忙しいふりをして久世と必要最低限の会話しかしなかった。
一緒にいると辛いだけ。気持ちを保つためには久世を突き放すしかない。
いつものように甘えてくる彼に、
「そろそろ甘やかすのは終わりな」
仕事に慣れてきただろうと冷たく接する。まるで捨てられた子犬のように見つめてきたが無視だ。
「なんで、今まで優しくしてくれたのに」
いきなりの豹変した態度に戸惑う久世に、彼女がいる癖に、と、怒りさえ浮かんでくる。
それはただの八つ当たりに過ぎないが、その時は自分勝手な怒りを久世にぶつけていた。
「甘ったれたこと言ってるな! もう少しで研修も終わりなんだ。この先、そんなんじゃ困るだろ?」
これで自分の事を嫌いになってくれたらいい。
なのに、
「俺の事を思って、なんですね」
何を勘違いしたか目をキラキラとさせて解りましたと頷いた。
自分に都合の良い解釈をする久世に、流石に呆気にとられた。
「波多さん、良い人ですね」
大好きですと、余計に懐かれるようになってしまった。
何度、つれない態度をとってもめげることがない。
久世という男のしつこさにはウンザリとする。
そんな二人を、周りの同僚は「犬と飼い主だな」と言い、久世はその言葉を気にすることなくまとわりつくので、それが定着した。
※※※
喫茶店の事を知られてしまってから、久世に誘われるようになった。
その度に断っており、もう一週間近く喫茶店へ行っていない。
「波多さん、喫茶店に行きましょう」
今日も誘われるが、二人で行く気などない。
「嫌だね。一人で行け」
久世のわきをすり抜けて食堂へと向かう。
「約束したじゃないですか」
行きましょうと腕を掴まれ引っ張られるが、すぐに振り払う。
「波多君、飼い主なんだから、ワンコちゃんを散歩に連れて行ってあげなさいよ」
こんなに甘えてくれているのに、と、肩を叩かれて。
「八潮課長」
と、久世と同じくらいの背丈である、上司の八潮雄一郎を見上げる。
波多は八潮が上司となる前に、教育係としてお世話になった先輩でもある。昔から面倒見がよくて甘やかしてくれる人で、久世の事もワンコちゃんと呼び、甘やかしている。
「ほら、課長もそうおっしゃっているのだから、散歩に連れて行ってくださいよ」
そういうと、肩に頭をぐりぐりと押し付けてくる。
これは久世のスキンシップであり、それに対しての返事は後頭部をひと叩き。
「俺はこんな大きな犬は嫌ですよ」
と言葉を返し、ニッコリと笑って見せる。
「波多さん、酷い」
「まったくだよねぇ」
叩かれた所をナデナデとする八潮に、まんざらでもない表情を浮かべていた。
八潮の事は尊敬しているし、憧れてもいる。特に波多と同期の者は彼が好きで、頭を撫でられた時には舞い上がってしまう程だ。なので非常に羨ましくて妬ましい訳だ。
「とにかく、散歩には連れて行きませんから! では、昼飯を食べるんで失礼します」
八潮に頭を下げ、食堂へと向かって歩き出す。
ついてくる久世を無視し、日替わりメニューを選び空いている席へと座る。前のスペースには大盛りのカレーとプリンが二個。
「波多さん」
様子を伺うような態度に、周りにはまるで波多が彼を叱ったかのように思われるのではないか。それはそれでムカつく。
「はぁ」
イラつく気持ちを押さえようと息を吐き捨て、久世が好きなエビフライをカレーの上へのせてやる。
「ありがとうございます!」
好物だという事を覚えていたから。ただそれだけなのに、嬉しそうに頬を緩ませた。
そして、それを可愛いと思ってしまった自分に腹が立った。
10
あなたにおすすめの小説
有能課長のあり得ない秘密
みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。
しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる