聖女と呼ばれても、そこそこ暮らしが一番です~秘密の種は異世界お婆ちゃんの知恵袋~

ユーリアル

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GMG-016「お金は使う物」

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 船乗りがかかる悪魔の病気、壊血病。

 結果として、それを治療した形になった私が受け取ったのは、元の私何人分の人生が買えるだろうかという量の金貨だった。

「だからと言って、領主に突っ返したのはターニャが初めてだろうぜ」

「じゃあ兄さんがあれだけの金貨、ずっと管理できるって言うの?」

 強めにそういえば、そりゃそうだななんて返事が返ってくる。
 まったく、アンリ兄さんだってわかってるじゃないのよ、もう……。
 結局は、大きな買い物をするときに使うという形で、預かってもらうことになった。
 もっとも、意外と早くそれを使うことになるとは思っていなかったのだけれど。

 子供の特権とばかりに、ほっぺを膨らませて怒ったことをアピールしつつ、採取は忘れない。
 今日は、春の芽吹きが始まった山に薬草の類の採取に来ているのだ。

 自分でやったこととはいえ、やっぱり聖女様だ!なんて話になってきた。
 幸いなことに、この町には今のところ不治の病だとか、そういった人はいないようだ。
 訪ねてくる人も、長年悩まされてる、とか急に体調が、とかそんな感じ。

 もっとたくさん、私を治してくれって来るかと思ったんだけども……。

「あ、そうか! 領主様は私の腕に値段をつけてくれたんだ!」

「は? ああ……そういうことか。さすがだな」

 そう、領主様は何も考え無しに私に、驚くような褒美をくれたわけじゃない。
 私の聖女としての治療には対価が必要であること、厄介なものほど高くなる、そう宣言したのだ。
 今さらながら、あの金貨の量は命の重さだったわけだと気が付いた。

 こうすることで、私も私も、と大量にやってくることを防ぐ効果があるんだ。
 そりゃあ、全員が全員、こなくなるわけじゃないし……それでもっていう人がいつかくる。

(そうなると、領主様に損させたかな? んー、でもあの領主様だし、他でなんとかしてそう)

 下手に気を遣えば、子供がそんなことを気にするななんて叱られそうな気がする。
 ここは……また何か考えて、恩と一緒に返してしまおう。

 まずは自分が何ができる環境にいるかを確かめるためにも、採取をしっかりしないと。

「ギザギザの……これかな?」

「おお、確かに怪我をした時に止血に、絞って塗り込むやつだな」

 この世界は、お婆ちゃんの住んでいた世界じゃない。
 となれば、知らない生き物も、知らない薬草だって色々ある。
 中には、お婆ちゃんの世界だと未来の薬でも、同じ効果のある物があるかもしれない。

 それに……私には魔法があるのだから。

(手元で安全な水が出せるって、それだけで反則よね)

 実のところ、外への付き添いはアンリ兄さんだけじゃない。
 すぐそばに、領主様から派遣された兵士が1人、立っている。
 立派なおじ様で、見覚えがあるようなって。

「今さらですけど、町にいなくていいんですか?」

「ワンダ様は部下に文武両道を良しとされている。自分の代わりに、別の人間が顔役として派遣されている、問題ないよ」

 どうやらそういうことらしい。
 まあ、色々伝えるのに困らないという点では嬉しいことだ。
 おじ様、マリウスさんは教会そばの小屋に住むらしい。
 元々教会の守り手が寝泊りしていた小屋らしく、住むには問題ないそうだ。

「聖女様。採取した薬草が全部土付きなのはどういう理由だろうか」

「それはですねって、せめて公の場以外では聖女様はやめてほしいです、はい。それはともかく、栽培します」

 栽培?と疑問が顔に出ているマリウスさんとアンリ兄さんを連れて、町に戻る。
 向かう先は、サラ姉が店番している大工さんのお家。

 男二人を連れて歩く少女1人、となれば視線を集めそうなものだけど……逆の意味で集まっている気がする。
 ほとんどの人は、いつものように接してくれるのだけど、視線はどちらかというと……くすぐったい。
 なんだろう、お婆ちゃんの記憶でいうとアイドル?ってのを見てるのに近いかな。
 視線に耐えながら、大工さんのお家へ向かうと、ちょうどサラ姉も外にお客の見送りに出ているところだった。

「サラ姉!」

「ターニャ! アンリを連れてるってことは、外の帰りね。怪我はない? 大丈夫そうね。ああ、準備は整ってるわよ。もうそろそろ出来上がりじゃないかしら」

 そうして、サラ姉に先導されて向かう先は、私の願い事の1つが叶う場所。
 教会からは少し歩くし、町の中心ではない場所だ。
 川に近く、井戸もある。逆に住むには、下から水が上がりやすいから向かない場所だ。

「ターニャ殿、ここは?」

「えっとですね、薬草の栽培棟です。まだ中身はこれからですけど……自然に頼りきりじゃなく、一定量の薬草を常に確保できるようにしようかなって」

 領主様は最初、それは民の仕事ではなく、自分のような上の者が指示をして作るものだと言ってくれた。
 でも、それでは何かあった時に領主様に向いてしまう。
 そうではなく、私でいいのだ。私が、やりたいからやるのだ。

(でも高かったなあ……褒美の半分は使っちゃったもんね)

 一番高かったのは、ガラス代わりの甲虫の殻をたくさん仕入れることだ。
 これは窓枠にも使われているやつで、出来るだけひらたくて大きいのをとしたら高くなった。

 そうして作るのは、そう……温室だ。
 もっとも、暖房施設はないのであくまで外よりマシってとこかな?
 中に入ると、それでもかなり違うことがわかる。

「温かい……これなら、草花もしおれにくい。なるほど……」

「領主様にも、役に立つと思いますよ。これならこの土地では寒すぎる物も作れますから」

 わかりやすいのは果物かな? こっちだと育ちにくい品種とかあるもんね。
 バナナとかあるんだろうか? 将来が楽しみな気がする。

 ちなみに、専用の管理人さんを雇う予定なので今後も稼がないといけない。
 今はそんな人はおらず、何もないので寂しい物だ。
 とりあえず、採取してきた薬草類を鉢に植え替えて、並べておく。

 それからしばらくは、私はアンリ兄さんとマリウスさんを連れて、色々な薬草採取に出かけた。
 ついでに、お茶に出来そうなものもいくつか。
 少しお腹の目立つようになったサラ姉向けの物だ。
 この辺は慎重にいかないと、妊婦さんに駄目なお茶もあるからね……。

(壊血病にいいお茶とかあったかな?)

 そんなことも考えながら、いざというときに備え始める私だった。
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