聖女と呼ばれても、そこそこ暮らしが一番です~秘密の種は異世界お婆ちゃんの知恵袋~

ユーリアル

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GMG-021「王様との出会い」

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 王様のいるお城に、昼前には到着した私たち。
 いつ呼び出されるかと、ドキドキしてたんだけど……。

「静かだね」

「下手に動けないし、暇だな」

 結果としては、いきなり王様に出会うなんてことはなかった。
 今は、領主であるワンダ様が謁見中というところ。
 私たちの出番はその後……らしいんだけど。

 マリウスさんが案内役となって、こっちに来てくれるまで待つことになる。
 案内された部屋は、家具1つとっても、町の何もかもと質が違う。

「高そう……あ、見て兄さん。この机、木材はこの辺のじゃないわ」

「そんなこともわかるようになったのか。勉強熱心だな」

 微笑みながら、他の物も見ていく。
 なんていうのか、その土地の物はその土地の物と合う、みたいなことがあるんだよね。
 もちろん、違う土地同士の物が良い組み合わせになることもあるんだけど。

 私の興味が窓枠に移った時、水音がした。
 少し開けて外を見ると、中庭のようになっているところが見え、そこには井戸。
 使用人だろう男女が、井戸から水をくみ上げているのだ。

 こんなものが見えるあたり、まあ……そんなに重要な扱いは受けていないんだとわかる。
 ちゃんとしたお客なら、作業するところなんて見えないのが普通だよね。
 と言っても、ただの小娘相手としては、そんなものだと思う。

(王様のいるお城となると、たくさん人もいるだろうから大変そうだな)

 教会で、私たちだけが暮らすのとはわけが違う。
 それこそ、100人単位の話じゃないだろうか?

 自分がそうなることを想像し、身震いしたところで廊下をマリウスさんが歩いてくるのが見えた。

「お待たせしました。ワンダ様がお呼びですので行きましょう」

 アンリ兄さんと頷きあい、互いに身支度を整えてマリウスさんの先導に従い城を進む。
 高い天井、何に使うかわからない小部屋……うーん、無駄が多いように見えてしまう。

 足元が石畳、つまりは人の手で敷き詰められたソレだということに驚きつつ、進んだ先は扉。
 一番怖かった謁見の間?みたいなところとは違いそうだけど、それでも立派な扉に違いはない。
 その前にはワンダ様がお供を連れてまっていた。

「来たか。まあ、身分はただの町娘だと陛下もわかってはいるが、頼むぞ」

「はい。失礼のないように、ですね」

 出来れば、首が飛んでいくようなことは自分も回避したい。
 頷きを返したワンダ様の後ろに立つと、鈴の音……たぶん入室の合図。

 そうして開かれた扉の向こう側は、別世界だった。

(う……わ……綺麗)

 まず目につくのは明るさ。時間がちょうどいいのか、かなり明るい。
 私の薬草小屋なんて目じゃない大きさのガラス窓……ううん、これ甲虫のだ。
 何体分ものそれを加工して、大きなガラス板みたいにしてるんだ。
 高さが私の何倍もある……高そう。

「よく来た。ワンダよ、その娘がそうか。よい、返答を許すぞ」

「は、はいっ! シーベイラ神父ランデルの子、ターニャと申します」

 いまいち王様相手の姿勢がわからなかったけれど、ゆっくりとワンダ様が動いてくれたので真似をした。
 後で聞いた話だと、立場によってその姿勢も少し違うらしくて……真似を許してくれたワンダ様はそのぐらいの覚悟だったってこと。

 椅子に座れと言われたので、失礼のないようにゆっくりと動いて椅子に座る。
 柔らかいというか、すごい丈夫そう……いくらぐらいだろう。

 お城に来てからは、なんでも値段ばかり考えているように思う。
 気にしていてもしょうがないので、その考えを横に押し出した。

 長くて大きいテーブルの向こうに座る、ロマンスグレーなおじ様。
 鍛えているのか、服の上からでも筋肉具合がわかる。
 しばらくは、国は安泰だなと感じる力強さなんだよね。

 まなざしが私を射抜き、思わず姿勢を正しそうになる。

「なるほど。こうしてみるとただの娘だ。ターニャと言ったな、良い物を考えてくれた。1つ聞いてみよう……洗濯板により、シーベイラを中心に余裕が産まれた。何故だと思う」

「それは……」

 余裕? 余裕……国の余裕、ということは税金が多くなった?
 要は収入が増えたか、使う額が減らせたか、だ。
 洗濯板は言ってしまえば、洗濯時間の短縮。

「おば様たちのお洗濯の時間が減って……畑に出る時間が増えたり、何か他に仕事をするようになって……税金が増えて、後はお金が回るようになった……でどうでしょうか」

 1人1人の余裕はそんなに大きくないけれど、これが町中となればどうだろうか?
 そして、それが広がっているとしたら?

 2人の私にはこれぐらいが限界だった。というか緊張して頭が回ってない気がする。

「ワンダよ、本当にこの娘は見た通りなのか? どこぞの大人が子供のふりをしているとかはないのか」

「恐れながら陛下。私もそう最初は思いましたが、間違いなく子供です。教会の孤児ですので正確な産まれはわかりませんが」

 なんだか怖い話をしてる気がする。助けてお兄ちゃん!と思ったけど、兄さんは私以上に緊張していた。
 無理もない。領主様だけでも普段会わないというのに、王様もいるんだ。

「そうかそうか。うむ、聖女と呼ぶにはやや幼いが、今後も励むがいい。国が豊かになれば、選択肢が増えるっと、子供に言っても伝わらんか」

「少しは……でも、豊かになったからこそ、奪い取ってやろうという輩も出るのでは?」

 口にしてから、しまったと思った。返答も許されているとは言えない状況。
 しかも、そこで王様に反論するような形になってしまった。あああああ、私の馬鹿!

 涙目になるのを必死で我慢しながら、恐る恐る王様を見ると……ぽかーんとしていた。

「……ふむ? なるほど、そこまでは頭が回るか。確かにその通り。だからこそ、余裕が産まれるというのが大事なのだよ」

 今度はしっかりとわかった。その余裕で、兵士を増やしたり、防備を整えたりするんだ。
 攻めるか守るかは別にして、豊かさを蓄えると同時に力も増やすわけだ。
 美味しそうに見えてくるというのなら、手を出すと痛い目にあうぞと思わせるぐらいまでなるのが大事。

 返事代わりに頭を下げ、姿勢を戻した私を王様は面白い物を見つけたとばかりに笑いながら見ている。

「手土産も、ターニャ自身が選んだと聞いている。なかなか気の利く娘だ。物だけでなく、他にはないのか?」

「他……でしょうか」

 まさか、魔法のことだろうか?
 ワンダ様は大っぴらにするつもりは王様にもないとか言ってたと思うけど……。

(どういうこと? もしかして、これも試されるのかしら)

 そんなに長くは、悩んでいなかったと思う。
 思いついた物は、知。つまり王様は、モノ以外に何かアイデアを見せて見ろと言っているのだ。

 何という無茶振り、さすが王様である。
 お婆ちゃんの記憶だよりなのはちょっと悲しいけど、頭を巡らせて、口を開いた。

 ちょうど、大変そうだから何とかできたらいいなあと思いついた物がある。

「それでは大工の方を数名と、木材、力自慢と非力な使用人をお借りしたいです」

「いいだろう。場所はどこにする」

 そうして私が指定したのは……井戸のある中庭。

 さあ、苦労してきた主婦による革命の始まりだ!なんていうのは大げさかな?


 
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