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GMG-028「魔素の名残」
しおりを挟む「これとこれと……これもそうかな」
「はー、見えてるのかねえ」
「そのようですね。私には魔法が使えないのでわかりませんが」
背中に兄さんとマリウスさんの感想を聞きながら、なおも河原で石を拾う。
私の目には、ただの石ころとそうでない物の区別がはっきりとついている。
単純に、魔素の流れとか濃さが見えているのだ。
(やっぱり、一度死んだからなのかなあ?)
「見た目は、普通の石なのよね」
試しに、私からは普通の石に見えている方を拾い上げ、手のひらの中で魔法を使うかのように魔素を動かす。
ぎゅぎゅっと込めるようにするのだけど……なぜかすぐに魔素が抜けてしまう。
どう見ても、見た目は同じような材質なのだけど……何が違うんだろう?
「加工された宝石などは、魔素をため込みやすいと聞きますね。だから、装飾品が魔石化したものは価値を上げるのです」
「へぇ……じゃあ私が、魔素を込める手段を見つけたらまた儲かるかな」
それはぜひ、王へ報告して国に富をなんてマリウスさんには真顔で言われてしまった。
かと思えば、にやりと笑う姿を見てからかわれたことに気が付いた。
やっぱり、真面目なだけじゃないのがいい男だよねえ、マリウスさん。
ふと思い立ち、川へ向かう私。ちょうど流れの都合で重い鉱石などがたまりやすい場所を探しているのだ。
お婆ちゃんも、子供の頃そういう場所で売れるような石を探したんだって。
宝石の原石が拾えたこともあるみたいって、なんかあるなあ。
「兄さん、マリウスさん。ちょっと来て! その底に何かあるの」
「ターニャが溺れちゃまずいからな。おっさん、ロープ持っててくれ、念のためだ」
「ええ、ふふ……楽しみですね」
ちなみに他の討伐者の人には、周囲の探索に出てもらっている。
なんでも、怪物がいたら一応討伐の報酬は出るから宿代ぐらいは別に稼ぎたいとのこと。
別にそんなことしなくても、ちゃんと払うのに……子供の依頼でそうしたくはないのかな?
「んん? なんか重いのがあるな……よっと……ターニャ、これか?」
「そう、それ。外からでも光ってるっぽいのが見えたのよ」
アンリ兄さんが川底から持ってきてくれたのは、乳白色の塊。
ちょうど大人の拳ぐらいかしら? なのに、兄さんが片手で持つのは大変だなというほどだ。
(何かの鉱石? にしては変ね)
お婆ちゃんは、学校の先生を目指していてたくさん勉強もしたらしい。
だからいろんな話を知っているけど、こんな石は見たことが無いようだ。
「なんだろう……石だけど石じゃないような……」
「魔素は感じ取れませんが、普通ではなさそうな雰囲気は感じますね」
「カンツの店で鑑定でもしてもらうのがいいんだろうが、こういうのって持って帰るとまずいのもあるからな」
なんだか怖いことを言う兄さんの言葉を聞きながら、一応指先でつついてみる。
私の目には、空の太陽みたいにすごい、眩しいのだ。
研究所で所長に教わった、世界の見方を変える方法をしなければ辛いほど。
そのことから考えると、これは魔石だとしてもかなりの物だ。
というか、今も周囲から徐々に魔素を集めている気がする。
でも、少し経つとその魔素がいくらかどこかに消えていくのが減っている。
「あれ……魔素を今も集める、塊……石じゃなさそう……増えたり減ったり……あれ?」
なんとなく、なんとなくなんだけど……これ。
何かの卵なんじゃないのかしら?
増えたり減ったりするのは……。
「中身が生きていて、魔素を食べている?」
「ゴブリンやコボルトは違うな。リザードマンなんかも違う。一度だけ、ヒュドラ、蛇首の奴の話を聞いたことがあるが、そいつのはもっととがってるか縦長だ。こんなまん丸なのは……」
気が付けば私は、兄さんたちが止める前に手持ちの布で推定卵を包んでいた。
何故だか、そうしないといけないと私の何かがささやいたんだ。
そうして、持ち上げることができた。
「……兄さん、演技派ね」
「いやいやいや、確かにすげえ重かったんだって。でもターニャで持てるんだよな……どういうことだ?」
「卵だと推定すると、先ほどまでは異常事態に耐えるための状態だったのではないですか? こう、守りを固めるような」
マリウスさんの言う通りだとすると、今は周囲が比較的安全だとわかっていることになる。
こんな、卵の状態で? それこそ、まさかと思うようなことだけど……実際に持てるのだからしょうがない。
「持って帰るのはターニャの判断に任せる。だけど、近いうちにその王城の所長さんたちだったかに相談しておいた方がいい。ただの獣のならいいが、やばい怪物のだったらシャレにならん」
「うん、そうするわ。マリウスさん、お願いできる?」
「勿論。ワンダ様も、また刺激的なことをと喜ぶでしょう。仮に脅威となる怪物の卵だったとしても、今後の対策が取れるようになるかもしれないのですからね」
マリウスさんなりの励ましらしい言葉に、思わず吹き出してしまった。
そうか、ワンダ様はこういう刺激が好きなんだ。
確かに、報告は悪いことが多いだろうから楽しい事、未知のことなんかは楽しいのかな。
香草を入れるのに使ったりするきんちゃく袋にソレを入れ、首から下げる。
こうしておけば私が気にせずとも、魔素がすぐそばにある状態だ。
じっと見つめると、私から漏れ出る魔素が確かに吸い込まれていく。
それからしばらくは、最初のように魔石を集めることに専念する。
そうしているうちに、周囲を見回っていた兄さんの仲間たちも戻って来た。
予定通りというべきか、いくらか怪物がいたらしく、討伐証明となる牙なんかを手にしているのが見えた。
「帰ったら実験、実験あるのみ!ね。何に使えるのかなー、これ」
「ターニャ、俺はエールが冷やせるような何かがあると嬉しいな。これからの季節、上手くやらないと温いんだ」
帰り道も平和そのもので、そんな話をしながら帰る余裕もあるぐらいだった。
気が付けば、夏はもう目の前だ。
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