聖女と呼ばれても、そこそこ暮らしが一番です~秘密の種は異世界お婆ちゃんの知恵袋~

ユーリアル

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GMG-036「聖女の半分は日本人で出来ています」

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 じわりじわりと、汗が出てくる。

 薬草小屋の中は、まるで記憶にあるサウナ?とかいうやつみたいだった。
 色々考えないのであれば、薄着になって汗をかいて、水で洗い流したいところ。

 今は実験結果も確認しているところだから、そういうことはできないのだけど。
 洗濯だけは、気軽にできるようになったのはいいことかな?
 それよりも、だ。

「やっぱり、こめる魔素で育ち方が違う……エリナさんの言った通りだ」

「規模を大きくしていけば、安定した供給が出来そうですね」

 背後からの声に頷き、手の中の薬草を確認する。
 外で普通に採取すると、精々私の手のひらぐらいにしかならないソレが、倍はある。
 葉っぱの色つやも良い。間違いなく、これを使った水薬の効果も高いんじゃないだろうか?

 今のところ、育てる費用の方が大きいから、儲けにはならない。
 でも、高品質の薬というのは、それだけで持っている意味がある。
 いざという時の保険としては、あって損はないからね。

(でも、秋が来るまでに間に合ってよかった)

 その点では、長引いている夏に感謝、なのかもしれない。
 この様子なら、王都や周辺で実験するにもまだ日にちがある。
 
 そう、実験だ。マリウスさんが言ったように、大規模な生産。
 ただし、近衛等の一部への供給に限るとする予定だそうだ。
 なんでも、一般の相場を崩すのが目的ではないから、だって。

「作業はこの辺で終わりっと。マリウスさんはこれからどうしますか?」

「そうですね……見回りついでに川に行こうかと」

 なるほど、水浴びをすると。私もそうしたいところだけど、さすがにね。
 しばらく考えた私は、赤ちゃんの様子を見にいくことに決めた。

 最近じゃ、前ほど付きっきりの護衛でなくてもいいと言ってあるからか、マリウスさんもあちこちで過ごしているらしい。
 若い頃は探索者だったそうで、昔を思い出すなんて言っていた。

「サラ姉、きたよー」

「あら、ターニャ。いらっしゃい。今日は注文……ではなさそうね」

 店番をしているサラ姉は、なんというか……お母さんだなって感じる。
 お婆ちゃんの記憶でもそうなんだけど、急に変わるんだよね。

 少し戸惑いながらも、様子を見に来たと伝え、家にあげてもらう。
 そこには、何やらつぶやきながら赤ちゃん用ベッドに寝ている赤ん坊。
 家でも、風通しのいい場所にあるけれど、やはりあまり涼しいとは言えなさそうだ。

「ぬるま湯でよければ、だそうか?」

「悪いわね。薪でちょうどよくっていうのは難しいのよね」

 赤ちゃんのお肌には、熱すぎても冷たすぎてもだめだ。
 ちょうどよさそうな木桶に、だばだばとぬるま湯を産み出していく。
 胸元で揺れる卵石の袋も、なんだか反応している気がする。
 なんだろうか、赤ちゃんを助けた時から、反応が増しているような気がしないでもない。

「それ、そろそろ産まれるのかしらね」

「どうなんだろう? 返事してくれると早いんだけどね」

 笑いながら、お湯がたまるのを眺めていると赤ちゃんの泣き声。
 私はサラ姉を手伝いながら、お湯に顔を緩ませる赤ちゃんを見て幸せな気分になっていた。
 私もお風呂に入りたい……そう思ったりする。

 ターニャとしてはそうでもないのだけど、お婆ちゃんの記憶がどうしても欲求を訴えてくるのだ。
 かといって、なんだっけ、大きな鉄の器でお風呂にするのは大変そうだ。
 一番手軽なのは木桶だけど、じゃあ今度はお湯をどうしようかという気持ちになる。

「また難しい顔、してるわね。どうしたの?」

「ううん。ちょっとね。あっ、サラ姉。花瓶をあんなところに置いたら温まっちゃう……」

 偶然見つけた窓際の花瓶。当然陽光がずっと当たっている中身は、既に水というより……。

(これだっ! 直接湯舟を暖める必要はないわ!)

 自分のひらめきに、内心で叫びをあげる。
 湯船自体は、やっぱり木桶とか木造でいい。
 肝心のお湯を、他で温めればいいんだ。

 そう、暖めたお湯は動く、動くんだ。

「じゃ、私行くわね」

「はい、頑張って」

 突然動き出す私にはもう慣れたのか、サラ姉の優しい見送りの声を聞きながら、飛び出した。
 向かう先は鍛冶屋さん。夏場でも炎の絶えない工房へ。

 突然開ければ迷惑だから、いつもの通り呼び鈴を鳴らして中へ。

「誰かと思えば。また何か作りたいのかい」

「そうよ、親方……こう、金属の筒を渦巻状にできない?」

 そういってから、親方が目の前に駆け寄ってくるまでに時間はかからなかった。
 日々の作業で、体が鍛えられている親方が目の前に来ると、正直怖い。
 その場で硬直してしまうぐらいだ。

「お嬢ちゃん……じゃない、聖女の知識にそれもあるのか?」

「えっと……」

 言葉に困っていると、状況に気が付いてくれたらしく、親方は離れてくれた。
 ほっとしながら、ゆっくりと言葉を選ぶことにする。
 一応、知識としてはお婆ちゃんが知っている。
 いくつかある方法のうち、ここでも問題がなさそうなのが……。

「なるほど……砂をか。それは試すとして、欲しいのはどういうものだ?」

 落ち着きを取り戻したように見える親方に、身振り手振りで説明する。
 欲しいのは、私が間に入れるぐらいの大きさの輪っかになってる配管だ。
 お婆ちゃんの知識で、コイル状って言うんだって。よくわからないけど。

 私も経験上、暖かいお湯は上に上がってきて、冷たいのが下に行くのは知っている。
 この先端と先端を木桶につないで、渦巻きの中で火をたくのだ。
 そうしたら……たぶん?

 お婆ちゃんがどこかで見たことがあるから、大丈夫なはず、うん。

 曲げるのを試し次第、最優先でやるなんて言われてしまい、ひとまず帰宅する私だった。
 結局その日は、木桶にぬるま湯をはって体を拭くだけで終わった。

 石鹸があるから、なんとかなってるけど汗臭くないよね? 

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