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GMG-037「目指すは銭湯?」
しおりを挟む気分は、理科の実験だ。
お婆ちゃんの記憶からも、懐かしいという感情が湧きあがってくる。
鍛冶師の親方から受け取ったのは、試作品のコイル状配管。
銅製の、ピッカピカだ。違う世界でも、よくお水の通る物に使われてたんだって。
大きさは、私が間に入れるかどうか悩むぐらい。
親方曰く、細く小さくする方が大変だからこうなった、だって。
(本当は模型ぐらいの大きさで試したかったんだけど、逆に難しいんだ)
また1つ、勉強になった。
気を取り直して、木桶にその配管を装着する。
たまたま、様子を見に来たカンツ兄さんの手を借りての作業だ。
もしかしたら、お金の匂いを感じたのかもね。
「灰やらが飛んでいかないように、気を付けるんだよ」
「要改良、ね。じゃあさっそく」
古くなって捨てる予定のお鍋を下に置いて、その中で薪を焚き始める。
既に木桶の中には、たっぷりのお水。さて……?
ぱっと見はわからないけれど、結果はすぐに表れた。
木桶側が湯気を出し始めたからだ。
試しに手を突っ込めば、まだ下は温いというか冷たい。
1人で入るのは、準備が大変なところもあるけど、ひとまずお風呂の完成!かな?
「これなら冬に、温まれそうだ」
「そうそう。後、海に潜った後にもいいと思うのよ」
ここは港町シーベイラ。船で旅立つ人もいれば、潜って貝なんかを採る人もいる。
泳いでるとわかるんだけど、夏場でもずっとは体が冷えるんだ。
実験というわけじゃないけれど、カンツ兄さんに木桶に入ってもらいながらそんな話を続ける。
私? 私はまあ、後で良いわ、うん。
「それもそうだね。っと、段々熱くなってきたぞ。ああ、ちょうどいいところでってのは難しいね」
「お湯の移動を塞ぐと、中でぼこぼこ言いそうよね」
そのあたりは改良のし甲斐がある。あるいは、冷やすための水はそばに置いておけばいいかな。
いい加減、兄さんもゆでだこになってきそうな気配がしたので出てきてもらう。
まだ外は涼しくないというのに、随分と気持ちよさそうだ。
「倉庫整理が重なった時に、入らせてもらおうかな」
「ふふ、その時は、ね。片付けるのが少し大変かな。でも分解しないと運べないし」
結局、別の日に戻って来たマリウスさんにも手伝ってもらい、試作品のお風呂を港側へ。
漁師さんとかが休憩する小屋に持っていき、再度実験。
薪は流木がいくらでもあるから、それを適当に、だ。
結果としては……。
「同じのを10!? そいつはありがたいが、少し時間を貰うぜ」
「冬が来る前に、だってさ」
喜び踊っての、一括注文だった。ただし、設置場所が港側だけじゃない。
意外だったのが、自分達だけじゃなくておじいちゃんおばあちゃんにっていう話の方が大きかったことだ。
同じ仕事をしてきたからか、年老いた両親には楽をしてほしい……。
そんなことを言われたら、こっちも頷くしかないよね。
改良点を親方と話し合いつつ、微妙に造りの違う湯舟と湯沸かし部分を作ってもらう。
きっと、浜辺では流木を拾うのが子供や老人の散歩での日課になるに違いない。
ようやく、夏の延長が終わったのか涼しさが感じられるようになるころまで、お風呂の騒ぎは続いた。
教会にも、旅の信徒さんも入れるようにと寄付されたらしいことを聞いたころのことだ。
「ターニャ様、来客の様です」
「寄りにもよって、散らかってるときに……誰だろう」
知ってる気配のようだから、多分大丈夫だと思うんだけど……。
それにしたって、騒がしい。
顔を見合わせたマリウスさんも、どこか緊張した面持ちで隣に立ってくれる。
「はーい、どなたです……か?」
まず、外に見えたのは馬車、そして男性たち。
先頭にいるのは、何度も話したことのある相手っていうか、ワンダ様。
どこか疲れたような表情でって後ろにいるのは!
「まさか王様っ!?」
「よいよい、膝が汚れるだろう。共にこの国に生きる者同士、違いはあるまい」
そう簡単に考えられたら、誰も苦労しない。
お婆ちゃんはお婆ちゃんで、いわゆるお上にって感じ方だし……。
それでも、もう一度言われれば立ち上がるしかない。
視線を横に向ければ、立派な造りの馬車が数台。
お忍びで来たって感じとは少し違うみたいだ。
「陛下、視察ということでしょうか」
「マリウス、だったな。ああ、その通りだ。民の頑張りもあり、国に余力も出て来たと聞く。直にそれを確認するべく、各地を回っているのだよ。もっとも、直接話を聞くのはここぐらいなものだが」
ですよねー! 明らかにお付きの人とか、それこそワンダ様がワンダ様じゃない感じだもん!
というか、実質一人暮らし状態のこの小屋?に王様を招くなんてこと考えられない。
町の人は、また私かって感じで放っておいてくれそうだけどさ……。
「ただの小娘ですから、おもてなしはできませんよ?」
「何を言う、あるらしいではないか……贅沢な湯あみの術とやらが」
(ああ、そういう……)
最初から、豪華なもてなしとかは期待されていなかったらしい。
まあ、それはそれでありがたい。
確かに今日は、先週と比べれば急に冷え込んできたと言えば冷え込んできた。
「でも、よろしいんですか? こんな場所で無防備な姿になるだなんて」
「なんだ、私を害する予定でもあるのか? ないならいいではないか」
勢いよく首を振れば、つまらないことを聞くなとばかりに言われてしまった。
なんだか納得いかないけど、お付きの人たちのあきらめの表情に、納得するしかなかった。
駆けつけて来た町長のお爺ちゃんに、王様とお付きの人以外のお世話を任せて、家に招く。
そりゃ、知り合いが訪ねてくるぐらいの準備は怠りませんよ、はい。
「王城ともなれば、お風呂の1つや2つ、あると思ったんですけど」
「私ほどとなれば、熱すぎるお湯も問題だと思われている。入る頃には、温いものよ。なあ、ワンダよ」
「まあ、そうですな」
あれか、料理も毒見が入るから冷めた物になるとか、そういうのに近いのかな?
そのうち、見知らぬ料理も作って見せよとか言われそうで怖いなあ。
内心でそんなことを思いながら、最近完成したばかりの私専用みたいだったお風呂場に案内する。
そこには、私ならそのまま沈めそうな、大の大人でも足まで延ばせる大きさの湯舟がある。
「思ったより大きいではないか」
「弟たちとも入りたいなと思ったもので。ええっと、温まったらそこにお召し物を脱いでいただければ」
ずっと黙ってるけど、お付きの侍女さんが2人いる。
着替えなんかも彼女たちがするのか、と思いきやいきなり王様は自ら薄着になった。
豪快というべきか、なんというべきか……。
案外、細かい事には手を出すなとか言われてるのかも?
(というか、早くしろってことよね。しょうがないなあ)
最初は、いつも通り薪を燃やして暖めようと思ったけど、薄着の王様は放っておいたらまずい。
風邪をひくような寒さじゃないけど、待たせるというのが、ね。
「王様は慣れてる温さの方がいいですか? それとも熱いのに入ってみたいですか?」
「勿論、熱いものだ。待て、それはなんだ」
王様が指さすのは、私の手元にある金属板。
薪を確保しに行くのが少し面倒になった私が考えた、ちょっとした新作だ。
「魔素を吸ってですね、魔法の補助をするやつです。まだ研究中なんですけど。薪は薪で燃やすとして、こうやって入れてっと」
銅板にくぼみを作り、魔石をはめ込んである。そこに同じく銅の棒。
そうだなあ、舟をこぐやつに近い形かな?
これを握って、魔素を込めてぐるぐる湯舟をかき混ぜるのだ。
先端では魔素から魔法もどきが発動し、かなり発熱してるはず。
鼻歌1つ歌いながら混ぜていけば、すぐに暖かくなるって寸法。
実は最近、魔素が何かを通る時に発熱するパターンがあるのを見つけたんだよね。
電気、に近い性質があるのかもしれないんだけど、まだまだ研究中。
最初は、熱っってなって手を放しちゃったっけか。
「さあ、どうぞ!」
「それのことも気になるが……まあいい」
ちなみに、入浴中に冷やしておいた果汁の水割りを飲むなり、王城でも作れるように!と言われたのは私の反省材料である。
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