聖女と呼ばれても、そこそこ暮らしが一番です~秘密の種は異世界お婆ちゃんの知恵袋~

ユーリアル

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GMG-039「過去の呼び声・前」

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「シロ、行くよ」

「ピィ!」

 あの日から、私の生活にまた1つ、増えた物。

 それは、トカゲのような鳥のような、不思議な生き物。
 全体的には、白に青が少し混じった感じ。
 背中には小さいけれど折り畳み式の翼。

 くりっとしたお目目が可愛い、小さいお友達だ。
 シロ、と名付けたそれは胸元にぶら下げた袋の中で、顔を出していい返事だ。

 エリナ所長には、手紙を出してあるからそのうち来るんじゃないかなと思う。
 それまでは、何を食べるのかとか調べながらの日々だ。

 今日は、アンリ兄さんとその友人たちと一緒に、少しだけ遠出である。
 一応、私の護衛ということでマリウスさんもついてきている。

「よう、今日は頼むぞ」

「足手まといにならないようにはしたいけど……そんな変なのがあったの?」

 私は探索者でもなければ、討伐者でもない。
 多少魔法は使えるけど、戦えるかと言われると不安は残る。

 そんな私を、兄は誘ってきたのだ。
 見つけた物が、魔法関係っぽいというだけで。

「洞窟なんだがな、入ってすぐに行き止まりなんだよな」

「それはただの獣の巣穴なのでは?」

 マリウスさんが、口を挟むのも無理はない。
 私からしても、そう思えるものだ。

 でも、兄さんだけでなく、仲間の人たちも同じように、となると話が少し変わってくる。
 幸い、場所はシーベイラからそう遠くない岩山にあるらしいのだけど……。

「とりあえず、行ってみましょ。駄目でも、何か怪物の素材は持ち帰って研究したいわ」

 ここだけ聞くと、なんだか危ない気もするけど……泳ぐ水筒もそうだけど、怪物素材は面白い。
 お婆ちゃんの知識で言えば、かがくとかいうものでも、作れない物だったりする。
 かがくも、自然の動物に学んでってこともあるみたいだから、そういうことなのかもね。

 そんなことを思いながら、シーベイラを出て探索の旅へ。
 実験として、薪を使わない湯沸かし器の試作品なんかを使うことにした。
 休憩の度に、薪を集めて火を起こして、ってのもちょっと大変だもの。

 短いと言えば短い距離の移動なのだけど、思ったより怪物に出会う。

「街道から少し外れてるけど、こんなに出てくるのね」

「いや、出すぎだな。もう少し奥に行かないとこうはならないはずだ……」

 一体、どういうことなんだろうか?
 怪物がたくさん増えている? それとも、別の理由だろうか?

 少しの不安を抱えつつ、進む私たちの前に、岩山が見えて来た。

「もうすぐ日が傾きだす。今日はこの辺で野営をして、明日朝から突入しよう」

 私は旅では素人同然だ。マリウスさんも同意しているし、その通りにしよう。
 荷物はたき火のそばに集めて、円陣を組むようにして、各自が待機。
 見張りを順番にってとこなんだけど、今回はひと工夫した。

 荷物から板切れを取り出し、周囲に1枚ずつ置いていく。
 魔素を込めるのを忘れずに、だ。

「ピィ?」

「ふふ、これはね、見張りくん試作1号なのよ」

 我ながら、その名前はどうかと思うけどわかりやすさが一番だ。
 仕組みは簡単で、板同士が魔素の流れでつながっているのだ。そこに何かが入って遮ると……。

 アンリ兄さんにそれを伝え、わざと外に出てもらう。
 すると、甲高い音が響き渡った。

「なるほどな……罠の鳴子みたいなもんか」

「うん。これなら一瞬だけど、先に覚悟が出来ると思うわ」

 問題は、鳥みたいな小さいのでも乗っかったり、通過すると鳴ることだけど……。
 これから要改良なのは間違いない。

 思ったより緊張していたのか、先に横になっていいと言われた私は、すぐにうとうとしだした。
 兄さんたちの雑談を耳にしつつ、ぼんやりと火を眺める。
 手元では、袋から顔を出したままのシロもうつらうつらだ。

「君、なんなんだろうね。翼があるし……ドラゴンかな」

 指先で撫でてやれば、そのまますやすやである。
 その姿を見て、ドラゴンと思う人はたぶん、いない。
 だけど、普通のトカゲでも、鳥でもないのはその吸い取っていく魔素でわかる。
 既に私3人人分ぐらいはありそうな気配なのだ。

 食べる物は、主に草花と果物だった。意外と、肉は食べない。
 好き嫌いがある可能性はあるけど……。

 ぼんやりとそう考えていると、次に目覚めたときは朝だった。

「飯を食ったら、行こうか」

「起こしてくれればよかったのに」

 口ではそう言いながらも、ありがたかった。
 マリウスさんですら、何日もは大変というのだから、見張りって大変だろうな……。

 身支度を終え、みんなして件の洞窟らしき物へと向かう。
 なるほど、確かにすぐ行き止まりだ。
 なにせ、外から見えるような構造なんだもの。

「何もないですな」

「ですねえ……あ、でも……」

 私には出来るけど、兄さんたちには出来ない探し方で探せばいい。
 両手を広げ、その先で魔素を練る。
 その魔素を、ゆっくりと洞窟の壁に当てていく。

 お婆ちゃんの記憶で言う、ちょうおんぱってのに近いかな?
 壁に、魔素を通して手ごたえを見るのだ。
 1歩ずつ横に動きながら壁に魔素を伸ばし……んん?

「この辺、壁が意外と薄いわ」

 薄いと言っても、拳3つ分ぐらいは厚みがありそうである。
 でも確かに、他の場所が腕1本伸ばしたぐらいまでは詰まってるのに、この辺だけスカスカ。

 どうする?と相談すると、そこを砕いてみることになった。
 こういう場合、封じていた危ないのが出てくることもあるので、慎重にとのこと。

 とりあえずは、投擲から始めた。
 手ごろな石ころを投げつけてみる。
 へこみがわずかにできただけだった。

 仕方ないので、力技だ。
 みんなで警戒はしつつ、ごりごりと壁を削っていく。
 そしてしばらく後……。

「これでっ」

 兄さんの一撃がトドメになったのか、音を立てて土壁が向こう側の空間に崩れていった。
 ぽっかりと空いた穴。ここで喜んでつっこむようでは探索者は務まらない、なんて兄は言う。

 私も素早く中に魔素を飛ばして見るけど、少なくとも魔法を使おうとする誰かがいたってことはなさそう。

(でも、魔素の濃さが違う……)

 試しにと、魔法で灯りを産み出して中に投げ込むと……。
 明らかに誰かが作っただろう壁の装飾が目に入り、否応なしに私たちの好奇心を刺激してくるのだった。

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