聖女と呼ばれても、そこそこ暮らしが一番です~秘密の種は異世界お婆ちゃんの知恵袋~

ユーリアル

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GMG-040「過去の呼び声・後」

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 ぽっかりと穴の開いた洞窟の一角。
 ただの自然にできた物と思いきや、ちらりと見えた壁には何かの模様が見える。

 お婆ちゃんの記憶は、昔お芋を保存するのに掘った穴に似てるっていうけど……うーん?

「誰かが手を入れた場所……だね」

「ちっ、ここから照らしただけじゃ、全部は見えないな」

 ひとまず入り口部分を少しずつ広げ、たまに奥の方を松明とかで照らすけど奥はまだありそう。
 大人1人がぎりぎり通れそうな幅に入り口を広げた後、みんなで相談となった。

 と言っても、私は付き添いだから決めるのはアンリ兄さんたちだけど。
 突入の準備だけはしておこうと思い、荷物の中から薄い木板に銅板を貼った物を取り出す。
 これを組み立てて、傘をさかさまにしたみたいにかぶせると先の方まで見えるようになるのだ。
 お婆ちゃんの記憶でいうと、投光器ってやつである。

(魔素の量は……かなり、あるかな? なんていうか、濃さが違う気がする)

 まだ中に入ってないのに、違いが判るぐらいだ。
 運が良ければお宝が、悪ければこの魔素の中で暮らす何かが生きている。

「兄さん、中は魔素が濃いみたい。何かいるなら、厄介よ」

「ふむ? よし、今見える範囲にはひとまず入ってみよう。それ以上は状況次第だ」

 好奇心はって言葉が、お婆ちゃんの記憶から浮かぶ。
 それでも、やはりこういう時に少しは何かをというのが人間なんだろうか?

 外で待つのも逆に危険がありそうだと思い、後衛としてついていくことにした。
 しんがりをマリウスさんに任せ、どうにかして隙間を通る。

 中は……意外と広い?

「見えない毒の空気があるかもしれないわ。兄さん、これを」

「棒? これでつつくのか?」

 首を振り、毒治療用の水薬を使った軟膏が塗り込んであり、毒に触れると色が変わることを伝える。
 本当はもっとしっかりしたのを作りたいけど、今はこれが精一杯だ。

「用意が良い妹さんだな」

「だろ? 自慢の妹さ」

 そんな褒める言葉を聞きながら、周囲を観察する。
 怪物からの襲撃は、マリウスさんに任せる形だ。
 その分、私は私で何かを見つければいい。

 幸い、逆さ傘の投光器は思ったよりも明るく照らしてくれる。

「ピィ……」

「シロ? うん、何かあるのかな」

 なぜか、ここに入ってからシロの元気が少しない。
 嫌な匂いでもするかと思ったけど、今のところは不明。

 壁の模様は……なんだろうなあ。少なくとも、災厄を将来に伝える!みたいな雰囲気じゃない。
 どちらかというと、部屋を飾り立てているような感じだ。

 今見えている範囲は、大体私が20歩ってとこだろうか。
 奥にまだ何か……ん?

「何かあるな。つっても岩の塊にしか見えん」

「積み上げたって感じがするわ」

 私たちの前に見えてきたのは、ちょっとした広間の中央に積みあがる何かの塊。
 感じからして、上から落ちてきたような……上?

 確認を取り、松明を上に向ける。明るさが集中できる投光器による灯りは、しっかりと天井を照らした。
 そこにあるのは、草木が重なり合った天井。

(もしかして、この先って……)

「元は、穴が開いてたか?」

「っぽいな。だが、だとするとこれは……」

 危険の確認をしているアンリ兄さんたち。
 今のところ、変なのはいない。

 でも、魔素はこの塊のせいだ……となると、この塊は魔石だろうか?
 ゆっくりと近づくと、シロが嫌がり始める。
 というか、小さい手を器用に振って、どこかに行けと言わんばかり……。

「変なことを言うんだけど」

「どうした、ターニャ」

 なんとなく、ほんとうになんとなくなんだけどと前置きして、塊を指さす。
 魔石のようにも見える塊、魔素がたくさんで、不思議生き物のシロが嫌がる。

 つまり、その……。

「これ、でっかい何かのフンなんじゃない?」

 瞬間、みんなが塊から離れる。
 私も数歩下がった、そりゃあ、下がる。

 1つ1つが、私の頭ぐらいはあるのだ。それが、フンとなれば生み出した相手も大きさが知れようという物。
 何でこんな場所にあるかは別にして、仮説だけならいくつかできた。
 そのぐらい大きな何かが、生きていく中で自然に生み出す魔石もどき。
 それを、人間が上手く利用としていたなら?

 同じ場所に生きていて、ここで出してくれればいいよと場所を用意、綺麗に飾る。
 天井に乗っかり、中に出され、他にもあるかもしれない穴から、それを取り出して使う。

「というお話はどうかなあと」

「あり得ない!とは言いにくいなあ」

「確かに、王がこの地域を制圧する前に、人が住んでいたって話は聞くんだよな」

 そうなのだ。今の王様のご先祖様が、この地域を支配下に置いたときには、先住民がいたらしい。
 今となっては、区別がつかないぐらい混血は進んでいるはずだけど……。

 おとぎ話にちらりと聞いた、竜と共に生きる民族……まさかね?

「ひとまず、一抱えほど持って帰るか。ターニャや関係者なら、価値がわかるだろ」

 兄さんの言葉が決め手となり、ひとまず探索はそれで切り上げとなった。
 匂いはないし、見た目にも触っても大丈夫なのだけど……なんだか遠慮しちゃうわよね。

 そのまま、麻袋に入れて外に持ち出して見ると、その塊の不思議さが感じられるようになった。
 中が魔素の気配濃厚だったせいでわからなかったけど、確かに魔石だ。
 それも、かなり上等な。

「これは、また兵士を派遣してもらわないといけないかな?」

「価値が付いたら、またシーベイラが潤いますね。良い物も、悪い物も惹きつけそうです。ワンダ様も笑って泣いて、といったところでしょう」

 お金は儲かるけれど、お金は悪い物も惹きつける力がある。
 何も起きないといいのだけど……ね。

 平和な町が見えてきたころ、そんなことを心から思う私だった。

 
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