聖女と呼ばれても、そこそこ暮らしが一番です~秘密の種は異世界お婆ちゃんの知恵袋~

ユーリアル

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GMG-045「塩はどこまでいっても塩である」

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 今回の旅は、交易の旅。
 私が考えた形のあれこれを含め、売りつけるための旅。
 だから、お金の話が始まると思っていた。

 思っていたのだけど……何か違うような?

「やはり、あちらの穀倉地帯が打撃を……」

「こちらも怪物の増加が著しく……」

 部屋の隅に、マリウスさんと一緒にいるように言われたけれど、漏れ聞こえてくるのは商売とは別の話。
 と言っても、気にならないということじゃなく、むしろ気になって仕方がない。

(これって……商売をする前の探り合い? それとも少し違うような……)

 私は当然のことながら、お婆ちゃんだって大きな商売の話なんてしたことが無い。
 だから、今日ばかりはその記憶にも頼れない。
 静かに話し合いを見守って……っと!

 咄嗟に飛び出した先で、テーブルから落ちたカップがふわりと減速し、床に着地する。

「失礼しました。落ちそうだったので」

「話に夢中になりすぎたか、うむ。ありがとう」

 何かといえば、テオドール様の腕がカップに当たり、落ちそうになったのを魔法で支えたのだ。
 攻撃魔法ではないこの程度の魔法なら、大した魔素も使わないし、素早く使える。
 ちょっとだけ風が欲しい時なんかには、半ば無意識に使う重宝する魔法だ。

 床に静かに落ちたカップを拾い上げ、せっかくなので改めて別のカップにお茶を注ぐ。

「気の利いた侍女ですな。手荒れも少なそうだ。それだけ、良い物ということですかな」

「国の母親たちに、笑顔が増えることは保証しましょう」

(来た! 本題……洗濯板からかな? どれからかな?)

 少し下がりながら、どきどきしていた。
 なにせ、全くの他人に評価されるのはこれが初めてだからだ。
 ワンダ様や王様は、事前に何かしら話を聞いたうえでの評価。
 今回はそうではなく、何かいい物をというぐらいしか話に出ていないはずなのだ。

 部屋を移り、物の紹介が始まる。
 当然と言えば当然だけど、全部私の関係する物じゃない。
 むしろ、私のは少ない方だろうか?

「なるほど……半島は野蛮な土地。そう今だにうそぶく物もおりますが……これは」

 量は多くないけれど、用意されたあれこれに、相手側の顔色が変わっていく。
 恐らく、国同士の交易となったらどうするのかとかを考えてるんだと思う。
 お婆ちゃんの記憶からは、かんぜいって話が出てくるけど、どうなんだろう。
 でも多分、税金はかかる……はず!

「こちらが洗濯板というものだ。自分も、試しに使ってみたが内緒に洗濯するにはもってこいだ」

「自ら洗濯を? それは興味深い話ですな」

 私もびっくりだ。
 よりにもよって、王様の従弟なんて人が自分でお洗濯してた、なんて初耳すぎる。

 結局、どれもがそんな調子で話が進み、私はそばで聞いていて驚きばかりだった。
 もちろん、慌てて止めに入るなんて出来ないから聞かされるままで……ちょっと恥ずかしい。

「本当は塩を買いたいところですがね。さすがに距離がありすぎる」

「魚人の襲撃でもありましたか」

 空気が、変わった。ぴりりとした物に……そりゃあ、そうだ。
 テオドール様の魚人の一言に、相手側の態度も真剣な物になるのを感じる。
 ため息1つ、お互いがソファに座り直してからの話は、どこかで聞いたようなものだった。

 塩を作っている場所が謎の襲撃から打撃を受け、塩不足になりかかっているということ。
 そのせいで、他国を見ている余裕があるのかと少しつつかれれていることまで教えてくれた。

「失礼……ターニャ、こちらへ」

「はい」

 名前を呼ばれた、ということは私関係の何かで話があるということだ。
 ただの侍女のはずの私が名前で呼ばれたことを不思議がる相手の視線を感じつつ、テオドール様の元へ。

「母の笑顔に、国の違いあるかね」

「……いえ、どの国の母も、笑顔であるべきかと」

 どうせというと変だけど、私のこれもある意味借り物。
 その知識で出来た物なんだから、独占するつもりもない。
 そう、テオドール様は塩造りの技術を手札に使うつもりなのだ。
 ただし、代償はあまり求めなさそうな方向で。

(王様から、そう言われてるのかな?)

 私としては、もう十分儲かってるから後のことは王様たちが決めてくれればいい。
 代わりに、技術なんかを使って変な交渉にならないほうが望ましいぐらいだ。

「祖の国サンデリアが困っているならば、協力は惜しまない。そうシーウェイルが王、ジークフリートより預かっております。塩を産み出す新しい術、格安でお譲りしましょう」

「なんと……!」

 この瞬間、今回の交易の話は一気に進むなと感じた。
 実際、それからすぐに実演して見せると、本格的な値段交渉などに移ったからだ。

 私の方は逆に暇になり、エリナ所長と一緒に建物や街を見回る時間を得ることができたのだった。
 マリウスさんも、私の護衛としてついてこれるようになったらしい。
 テオドールさんのほうはいいのかと気になるけれど、私が気にすることじゃないかな?


「シーベイラと結構違いますね」

「まあ、あっちは港町でも半島にあるから……」

 基本の造りは似てるような気がしないでもないけど、雰囲気がだいぶ違う。
 どっちかというと、ゆったりした感じだ。
 大きな違いは、すぐにわかった。

「マリウスさん、金属製品が多くないですか?」

「そのようですね。近くに鉱山でもあるのか……」

 そうなのだ。馬車を引く馬、その馬車自体にもシーベイラなんかと比べると金属が目立つ。
 そうなると、金属加工の技術なんかはこっちのほうが上の可能性が十分ある。
 向こうじゃ出来なかったものも、こっちだったら作れるかも……。

「ターニャちゃん、ここは他国だからね。一応、好き勝手には実験できないわよ?」

「ですよねえ。あははは……」

 むくむくと、あれこれやってみたいという欲求が湧いてきたけれど、ひとまずは我慢だ。
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