聖女と呼ばれても、そこそこ暮らしが一番です~秘密の種は異世界お婆ちゃんの知恵袋~

ユーリアル

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GMG-043「海の上でもいつもの暮らしを」

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(うーみー!)

 別に叫んでも怒られはしないけれど。
 風と海を切り、船が進むのを前の方で感じていた。

 今までも、漁のためにちょっとだけ乗ったことはあったけどね。

 他の人も暇なときには甲板に出てきている。
 そんな中には、王様によく似た感じのおじ様も。

 今のところ、この船にいるのは交渉事をするお偉いさんと、護衛だろう兵士の人。
 他にはエリナ所長、そして私たちだ。
 逆に言うと、身分を偽る相手はいないということになる。

 先ほどから潮風に当たっている一番上の立場のお偉いさんは、なんでも王様の従弟らしい。
 自己紹介した時には、そんなに厳しくなさそうな感じだった。

「ターニャちゃんは、外に出てくるのは初めてだっけ」

「そうですね。近くに陸が見える距離ばかりでした」

 エリナ所長の声に振り返れば、見えるのは3本の大きな柱。
 詳しくないけれど、かなり大きくて外洋ってのにも一応出れる船らしい。
 海面までの高さは、家が一軒入りそうなぐらいはある。

 今のところ、航海は順調。
 何事もなければ2週間ほどで目的地が見えてくるらしい。

(道理で、釣り道具も持ち込むように言われるわけね)

 旅の準備を色々していた私に、エリナ所長はせっかくだからと釣り道具の積み込みを提案して来た。
 そんなに食料が怪しいのかと思ったけれど、いい暇つぶしになるということだったのだろう。

「へー……でもあれは航海用のよね?」

「ええ、そうです。漁師のお爺ちゃんたちに使ってもらってるから、実戦経験はありますよ」

 2人の視線の先には、私が積みこんだ大きく長い、竹を使った釣り竿だ。
 色々弄ってあるし、大人何人かでようやくといった長さのソレは、少しばかり異質だったようだ。

「使い方を教えてもらってもいいかい、お嬢ちゃん」

「ええっと、はい」

 船乗りなおっちゃんに頷き、釣り竿の先に釣り糸代わりの丈夫な糸というか縄を結び……疑似餌も付ける。
 釣り糸も、怪物素材で何とかできたらいいんだけど、それはそれ。

 小魚なんかを模した疑似餌と針のセットを結び、後は後方に投げて固定するだけ。

「最初見たときは、なんだこのおもちゃはと思ったが……なるほど」

「ターニャ様、魔法を使わなくても大丈夫な相手なのですね?」

 今回の釣り上げ担当者でもあるマリウスさんに頷き返す。
 実際、数名でやるのがいいのだけどメインは誰かが持っている必要がある。
 そのうえで、彼は言うのだ。しびれさせなくても大丈夫な相手か、と。

「たぶん? エリナさん、この辺に釣れてしまう怪物っています?」

「区別がつかないってとこかしら……食べて当たったって話も聞かないし」

 なら、大丈夫そうである。
 暴れて、危なそうなら私の出番だ。

 そう伝えてしばらく、大きく竹竿がしなりだした。
 同時に入れておいた他の竹竿もそうだ。どうやら群れに上手く当たったらしい。

「よーし、気合入れろよてめえら! 聖女にいいとこ見せてやれ!」

「「おおー!!」」

 どうやら、この船の人たちも私のことを聖女扱いするらしい。
 その理由は、やや使い古された感のある海水ろ過樽君のせいだろう。
 改良を重ねて、フィルターである泳ぐ水筒の皮を交換しやすくしたそれは今では国内ほとんどの船に積まれてるとか。

(ワンダ様や王様が噛んでなかったら、利権が大変だったなあ)

 幸い、国主導でなんていったっけ、いんふら?という意味と同じ扱いになったから変なやっかみは少なかった。
 一部地方だと、私の肖像画みたいなのが樽に描かれてるというからそれはちょっとと思わないでもない。

「よっしゃ、大物だ!」

「こっちもだ!」

 しっかりと竹竿は力を発揮したようで、そのうちに3匹の大きな魚が釣りあがった。
 角みたいなのはないけど、なんだか見覚えのある長ぼそい感じだ。

 見事な手際で捌かれていき、そのまま釣りたてならではと生で食べる……というのはお婆ちゃんの記憶ぐらいなもの。
 さすがに新鮮とはいえ、寄生虫とかが怖いのは受け継がれているのだろうか?

 一度干してからにするんだという船乗りさんたちを前に、私は小腹が空いてきた。
 だから……。

「魔法で、熱湯出していいですか? 煮て食べたいです」

「「その手があったか!」」

 そういうことになった。


「あれね、ますます生活に便利な魔法の使い方、覚えたみたいね」

「なかなか討伐する機会はありませんから。それに、意外と使い道あるんですよ」

 結局、お湯を出すだけじゃなく、念のためにと持ち込んだお風呂セット(木桶と配管)を使った。
 薪を燃やす場所は、火事にならないように器みたいになってるからちょうどいい。
 鍋を置いて、その下で魔法で炎を出した。
 中身もお湯、であればすぐに湧きだしたお鍋でお魚を調理。

 木桶側に産まれるお湯は掃除に使われる予定だ。

 太陽が出ていると言っても、潮風に当たりっぱなしだと意外と体が冷える物。
 大好評のうちに食事は終わったのだった。

 家にいたなら、試作品で魔法を使い続けなくても炎が出るのもあったのだけど……ね。
 まだ完成してないから、外に持ち出すのは危ない気がした。

「ピィ!」

「おはよう、シロ。ご飯あるよ」

 船に乗る頃からずっと、なぜか寝たままだったシロがようやく起き出してきた。
 袋から顔を出した限りでは、特に病気とかじゃなく、たまたま寝る気分だったようだ。

 見知らぬ土地に連れていくことを少し悩んだけれど、留守番させるわけにもいかなかった。
 普段は卵袋と同じように入ってもらうとして、必要な時は外に出す予定だ。

「色々持ち込んでるのは、お土産なのかしら」

「そうなるかもしれないなってのもありますし、念のためのもありますよ」

 私自身の荷物は、なんと馬車半分ほどになっている。
 本当はもっと少ないはずなんだけど、気になる物は全部持っていくようにと言われたのだ。
 一応、国の代表の1人としていくから、足りないがあっちゃまずいんだとか。
 だからといって、作る前の石鹸の材料、つまりは灰2種類と香りを付けた油は邪魔だったような気がしないでもない。

(実際に石鹸にしちゃうと、雨とか湿気で溶けるかもしれないからなあ)

 そんな悩みも抱えつつ、私の海の旅はしばらく続いた。
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