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GMG-042「新たな旅路の誘い」
しおりを挟む「そうそう、そこでこう、こねるんですよ」
「こうかしら? なかなか難しいわね」
女3人集まればとは言うけれど、2人ならまだなんとか、かな?
王都で出会った時のような威厳が、散歩にいっているような彼女の姿を見て思ったりもする。
視線の先で、王都からやってきたエリナさんが何やら悪戦苦闘である。
お菓子はあんなに美味しかったのにって、もしかして簡単なのしか出来ないとか?
(あり得る……なんだか手つきが危なっかしいもの)
どうやら、エリナ所長は仕事人間の部類だったようだ。
お婆ちゃんの記憶からも、そのことが推測できる。
お仕事に関することは上手くできても、プライベートの面ではそうではないらしい。
「後はこれで伸ばして切るだけです」
「……水薬の材料も、こうして練りこんだら安定するかしら」
やっぱり、仕事人間だった。それがいいとか悪いとかは今は言えないけど……。
今はご飯ですよとだけ告げて、うどんもどきを作ってしまう。
そう、来ないなとかマリウスさんと言っていたエリナさんが、突然シーベイラにやってきた。
来ること自体は、そのうち来ると聞いていたので驚かないけど、昨日の今日ってやつなのだ。
一緒に来た兵士の人は、町の宿に行って……なぜかエリナさんは私の家だ。
「あれもこれも、なんだか見知らぬものばかり! やっぱり王都で研究しない!?」
「それはちょっと……こもりきりって言うのも困りますし、人が多すぎるのも……」
お誘いは嬉しいけれど、実際問題王都、そして研究棟で過ごすのは少し大変そうだ。
私が大人になっていたなら、話は別かもしれない。
だけど、まだまだ子供だという自覚もある状態でそうなるのはもったいないと思うのだ。
もっと、色んなものを経験して、多くの未来を選びたい。
「そうよねえ。私も本当は戦いとか遠征なんてのは嫌なのよ? だけど、そうでもしないとついこもっちゃうのよね。あっ、この子が不思議生物ね。なるほどなるほど……」
興味は不思議生物、シロに移ったようだ。
さりげなく手袋をしてから触るあたり、さすがと思う。
私なんか、そのまま触っちゃったもんね……あはは。
考えてみれば、未知の生物なんだからお互いに変な病気にならないように気を付けるべきだったのだ。
今のところは、そういった変化はなさそうだから大丈夫そうだけど……。
「体のつくりはトカゲに近いわね。でも、鱗がしっかりしてる……それに、歯並びも見えるってことは雑食ね。はいちょっとあーんってして……ああ、でも草食寄りかしら? ほら、歯が平たいでしょ。こういうのは、すりつぶすためにあるのよ」
さすがの知識だった。確かに、シロはお肉とかはほとんど食べずに木の実や薬草、あるいは若芽だとかを好んで食べる。
放っておけば、原っぱの野草も食べてしまうほどだ。エサ代がかからないっていえばかからないのだけど。
「今のところ、かまれたりとかはないのね? なら、そういう種族なのか、性格なのか。でも間違いなく、ターニャちゃんを親だと思ってるわね。こういう卵からの奴は、そういう習性があるのが多いのよ。魔素を注いでたのも決定的ね」
「そういうことですか……そんなに大きくならないと良いんですけど」
例えばそう、見上げるような状態になったらさすがに一緒には暮らせない気がする。
でも、外で飼うならありなのかな?
「魔法生物、えっと昔いたらしい特別なのを除けば、生き物が急に大きくなるってことはないだろうから大丈夫じゃないかしら? それより、ちょっとお願いがあるの」
姿勢を正し、こちらを向く姿は駄目駄目なお姉さんじゃなく、所長のエリナさんだった。
自然と私もシロを抱きかかえつつ、真面目な気分で向き直る。
「何か月かね、付き合って欲しいの。西の、正確には北西の国との交易についてきてほしくて」
「私が、ですか? 外向きにはただの小娘だと思いますけど」
特別怪物を倒せる勇者!だとか、そういう強さは私にはない。
敢えて言うなら、聖女呼ばわりされてるぐらいだけどそれにしたって病気を治す旅に出てるとかじゃない。
「ええ、それはそう。身分的には私の部下というか、雑用ってことになるんだけど……まあ、貴女の考えたあれこれを売り込んでいる最中なのよね。交渉自体はこっちでするつもりだけど、考えた本人じゃないとわからない問題が出たりしたら困るわけ。何もなければ観光旅行、何かあっても裏で助言をする程度、なんだけど」
話自体は悪くない。むしろ、そうでもしないと私みたいな身分じゃ外国に旅になんて無理だ。
幸い、薬草小屋はもう人を雇っているぐらいなので、兄さんのいる店に在庫として売っていけば消費できる。
兄さんに頼んでおけば、買取の目利きが可能な人もよこしてくれるだろう。
「よろしいのではないでしょうか。私も無論、ついていきますよ」
「マリウスさん……ええ、そうですね。前向きに考えます。でも北西ってことは、この国の王様の……ご先祖というか出身というか、そういう場所ですよね」
「そうなるわね。もうだいぶ前なのだけど」
言われて、ふと思うのだ。これは厄介事の予感だと。
何もなければいいし、あるいは好意的に進めばいい。
でも……僻地に追い出した、あるいは独立した関係者が、自分に売り込みに来る。
受け取り方によっては、もめそうだ。
「じゃあ準備はしますね。出発の日は?」
「近いうちに、かしら。船がここに寄るわ。それからね」
内心の不安を、口にすべきかは悩みながらだった。
それに、考え方を変えればいい。
どうにか出来るようなあれそれを、準備していけばいいのだと。
「わかりました! それまでに色々考えておきますね」
そこそこ暮らしをするために、ちょっとした手品や魔法もどきを使うのも、ありだとは思うのだ。
ひとまずは、いつだったかやった炎の色が変わる仕組みなんかも仕込んでおこうかな……。
新しい土地への楽しさと不安、それらが入り混じって気分が妙に高揚するのを感じるのだった。
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