聖女と呼ばれても、そこそこ暮らしが一番です~秘密の種は異世界お婆ちゃんの知恵袋~

ユーリアル

文字の大きさ
42 / 64

GMG-042「新たな旅路の誘い」

しおりを挟む

「そうそう、そこでこう、こねるんですよ」

「こうかしら? なかなか難しいわね」

 女3人集まればとは言うけれど、2人ならまだなんとか、かな?
 王都で出会った時のような威厳が、散歩にいっているような彼女の姿を見て思ったりもする。

 視線の先で、王都からやってきたエリナさんが何やら悪戦苦闘である。
 お菓子はあんなに美味しかったのにって、もしかして簡単なのしか出来ないとか?

(あり得る……なんだか手つきが危なっかしいもの)

 どうやら、エリナ所長は仕事人間の部類だったようだ。
 お婆ちゃんの記憶からも、そのことが推測できる。

 お仕事に関することは上手くできても、プライベートの面ではそうではないらしい。

「後はこれで伸ばして切るだけです」

「……水薬の材料も、こうして練りこんだら安定するかしら」

 やっぱり、仕事人間だった。それがいいとか悪いとかは今は言えないけど……。
 今はご飯ですよとだけ告げて、うどんもどきを作ってしまう。

 そう、来ないなとかマリウスさんと言っていたエリナさんが、突然シーベイラにやってきた。
 来ること自体は、そのうち来ると聞いていたので驚かないけど、昨日の今日ってやつなのだ。

 一緒に来た兵士の人は、町の宿に行って……なぜかエリナさんは私の家だ。

「あれもこれも、なんだか見知らぬものばかり! やっぱり王都で研究しない!?」

「それはちょっと……こもりきりって言うのも困りますし、人が多すぎるのも……」

 お誘いは嬉しいけれど、実際問題王都、そして研究棟で過ごすのは少し大変そうだ。
 私が大人になっていたなら、話は別かもしれない。
 だけど、まだまだ子供だという自覚もある状態でそうなるのはもったいないと思うのだ。

 もっと、色んなものを経験して、多くの未来を選びたい。

「そうよねえ。私も本当は戦いとか遠征なんてのは嫌なのよ? だけど、そうでもしないとついこもっちゃうのよね。あっ、この子が不思議生物ね。なるほどなるほど……」

 興味は不思議生物、シロに移ったようだ。
 さりげなく手袋をしてから触るあたり、さすがと思う。
 私なんか、そのまま触っちゃったもんね……あはは。

 考えてみれば、未知の生物なんだからお互いに変な病気にならないように気を付けるべきだったのだ。
 今のところは、そういった変化はなさそうだから大丈夫そうだけど……。

「体のつくりはトカゲに近いわね。でも、鱗がしっかりしてる……それに、歯並びも見えるってことは雑食ね。はいちょっとあーんってして……ああ、でも草食寄りかしら? ほら、歯が平たいでしょ。こういうのは、すりつぶすためにあるのよ」

 さすがの知識だった。確かに、シロはお肉とかはほとんど食べずに木の実や薬草、あるいは若芽だとかを好んで食べる。
 放っておけば、原っぱの野草も食べてしまうほどだ。エサ代がかからないっていえばかからないのだけど。

「今のところ、かまれたりとかはないのね? なら、そういう種族なのか、性格なのか。でも間違いなく、ターニャちゃんを親だと思ってるわね。こういう卵からの奴は、そういう習性があるのが多いのよ。魔素を注いでたのも決定的ね」

「そういうことですか……そんなに大きくならないと良いんですけど」

 例えばそう、見上げるような状態になったらさすがに一緒には暮らせない気がする。
 でも、外で飼うならありなのかな?

「魔法生物、えっと昔いたらしい特別なのを除けば、生き物が急に大きくなるってことはないだろうから大丈夫じゃないかしら? それより、ちょっとお願いがあるの」

 姿勢を正し、こちらを向く姿は駄目駄目なお姉さんじゃなく、所長のエリナさんだった。
 自然と私もシロを抱きかかえつつ、真面目な気分で向き直る。

「何か月かね、付き合って欲しいの。西の、正確には北西の国との交易についてきてほしくて」

「私が、ですか? 外向きにはただの小娘だと思いますけど」

 特別怪物を倒せる勇者!だとか、そういう強さは私にはない。
 敢えて言うなら、聖女呼ばわりされてるぐらいだけどそれにしたって病気を治す旅に出てるとかじゃない。

「ええ、それはそう。身分的には私の部下というか、雑用ってことになるんだけど……まあ、貴女の考えたあれこれを売り込んでいる最中なのよね。交渉自体はこっちでするつもりだけど、考えた本人じゃないとわからない問題が出たりしたら困るわけ。何もなければ観光旅行、何かあっても裏で助言をする程度、なんだけど」

 話自体は悪くない。むしろ、そうでもしないと私みたいな身分じゃ外国に旅になんて無理だ。
 幸い、薬草小屋はもう人を雇っているぐらいなので、兄さんのいる店に在庫として売っていけば消費できる。
 兄さんに頼んでおけば、買取の目利きが可能な人もよこしてくれるだろう。

「よろしいのではないでしょうか。私も無論、ついていきますよ」

「マリウスさん……ええ、そうですね。前向きに考えます。でも北西ってことは、この国の王様の……ご先祖というか出身というか、そういう場所ですよね」

「そうなるわね。もうだいぶ前なのだけど」

 言われて、ふと思うのだ。これは厄介事の予感だと。
 何もなければいいし、あるいは好意的に進めばいい。
 でも……僻地に追い出した、あるいは独立した関係者が、自分に売り込みに来る。
 受け取り方によっては、もめそうだ。

「じゃあ準備はしますね。出発の日は?」

「近いうちに、かしら。船がここに寄るわ。それからね」

 内心の不安を、口にすべきかは悩みながらだった。
 それに、考え方を変えればいい。
 どうにか出来るようなあれそれを、準備していけばいいのだと。

「わかりました! それまでに色々考えておきますね」

 そこそこ暮らしをするために、ちょっとした手品や魔法もどきを使うのも、ありだとは思うのだ。
 ひとまずは、いつだったかやった炎の色が変わる仕組みなんかも仕込んでおこうかな……。

 新しい土地への楽しさと不安、それらが入り混じって気分が妙に高揚するのを感じるのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...