聖女と呼ばれても、そこそこ暮らしが一番です~秘密の種は異世界お婆ちゃんの知恵袋~

ユーリアル

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GMG-048「世界は知らない物ばかり」

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「春の終わりの風は強く、けれども荒々しくはなく……」

 使い手に、結果をイメージさせるためのもの。
 それがこの世界の、魔法における詠唱だ。
 つまり、熟練者が簡単な魔法を使うなら詠唱はいらないのだ。

 手をかざした視線の先で、手が切れるほどじゃないけれど、力を感じる風が吹いていく。
 それは、記憶にあるようなお水を高速で出して掃除する道具みたいに、港の壁に迫る。
 細かい音を立てながら、風は一面貼りついていた貝殻をどんどんはぎ取っていった。

「見てる分には、なかなか爽快感がありますな」

「やってる方も結構気持ちいいですよ。お掃除のし甲斐があるというか、でも受けててよかったのかな」

 何をやってるかと言えば、酒場での騒動の後、奢り奢られの食事会みたいになったのだ。
 その間に、いろんな話を聞いた。この町でのお仕事や、最近の出来事について。
 そんな中に、単発のお仕事としてこの港の清掃作業があったのよね。

「実際の協議は終わりましたからね。後は国同士の交流、歓待ということでしょう。明日はターニャ様も出席になると思いますが」

「うっ、失礼のないような態度って疲れるんですよね」

 言いながらも、岩ガキっていうのかな?が貼りついた壁を掃除していく。
 と言っても海に落とすだけなので、一時的な物なんだけどそれでも大事らしい。
 さすがに全部陸地に上げていくのは、手間もかかるしそこまではやらなくていいようだった。

 これも帰ったら、シーベイラで試そう。貝殻はいくらあっても足りないもんね。
 浄化樽の材料でもあるし、燃やして灰にしたり、色々だ。
 どんどんと作業を続けていくと、ちょうど貝殻のあまりついていない場所に出たので作業を止める。
 でもなんでここだけ貝がついてないんだろう? ちょうど真っ赤な塗料が塗られ……じゃないな、こぼれたのかなこれ。

 でも待って、こんな感じのものを見た覚えがある、お婆ちゃんがだけど。
 なんだったかな、そう……船だ。船の貝殻対策がやってたてれびってやつだ。

「すげえな、もうこんなに掃除できたのか」

「何とかうまく行きました。あ、ここにこぼれてる塗料ってなんだかわかります?」

 依頼主であるおじさんと一緒に覗き込む先には、先ほども見た色鮮やかな赤の塗料。
 状況的に、船から運ばれるときにこぼれたんだと思う。量からすると大樽1個分ぐらいは。

「なんだったかな……ああ、結構前にあったな。荷物が崩れてよ、その中にあった染料がこぼれたんだ」

「それ、買えますか」

 食い気味に言った私に、おじさんは驚きながらも教えてくれた。
 実験するのは、シーベイラに帰ってからだと思うけどこれは良い物の予感だ。

 販売先と、その値段、試しにと小樽でその塗料、じゃなく染料を買い込んだ。
 なんでも、どこかの山にこればかりが出る場所があって、それを砕いたんだとか。
 そのあたり、川が大変なことになってそうだなあ。
 混ぜ込んだ水でも飲めるような装置が……って、今の浄化樽だと足りない。

(改良を辞めたら、駄目……か)

 別に私は発明家というわけでも、世界の救世主になるつもりもない。
 ただ……どこかで見知らぬお母さんが苦労してるなら、助けてあげたいななんて思うのだ。

「それは立派な考えだと思いますよ」

「ありがとうございます。でも、ただじゃあいけませんよね。ちゃんと対価は貰わないと」

 帰ったら実験するリストに新しい浄化樽を書き加え、停泊したままの船に荷物を積み、戻る。
 7日後には、帰国予定だ。それまで、色々見て回りたい。

 お屋敷に戻った私は、そのまま釣瓶井戸の設置に立ち会うことになった。
 やはり、やったことのある人間がいる方が話が早いということだった。
 何度もやったように柱を設置し、棒を通し……完成。

「やはり、両国は仲良くいかねばならないと確信したよ」

「水は、どの土地でも重要ですからなあ」

 ある意味白々しさを感じたのは、私が成長した証だろうか?
 こういうのを成長とは、呼びたくはないけれど……ね。
 そこでようやく、私がただの侍女ではないこと、子供視点でアイデアを出した子だという紹介になった。

 嘘は言ってないけれど、全部を言ってはいないそれを相手は信じた……ように見える。
 自分で言うのもなんだけど、子供の無邪気な要望が、意外と本物になるってあるあるらしい。
 そこで、物を知らずになんて叱らず、出来たらいいなが話を円滑に進めるコツだとお婆ちゃんも言っている。

 それから、いくつかのお話を振られたけれどなんとかごまかせたと思う。
 いざとなれば、わからない子供を演じればいいのだから楽な物だ。

 夜、部屋に戻った私はようやくというべきか、シロを表に出してじゃれ合う。
 少しずつ、シロは大きくなっている。そろそろ、前に袋でというのは厳しい。
 背負い袋であったり、もう表に出していかないと……でもなあ。

「お前、本当になんなんだろうね? やっぱりドラゴンなのかな?」

 翼の生えたトカゲ、なんてドラゴンしかいない!わけではない。
 聞いた話によれば、いくつかの種類は確かにあるのだ。
 でも、どれもこれも、怖い奴ばかりなんだよね。

「ピィ?」

「シロは可愛いもんね、乱暴しないし」

 そう、シロは雑食だけど草食寄りだ。果物が大好きで、放っておくとそこらの野草も食べてしまう。
 ドラゴンと言えば、大きな相手も食べてしまうどう猛な種族として知られてるけど……うーん。

 戻ったら、また文献とかを探してもらうことにしよう。
 上手く行けば、表に出して暮らせるかもしれないし、それこそ見上げるような大きさになる可能性だってある。

「シロの小屋とか、土地を買えるように頑張ってみようかな」

 神父様やマリウスさん、それにワンダ様……場合によっては王様もかな?
 頼れる大人はいるんだし、しっかり相談していいところを探ることにしよう。

 そう決めて、それからの日々を過ごせば帰国の日はあっという間だった。


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