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GMG-051「聖女とは」
しおりを挟む助けた船は、マリウスさんの予想通り、サンデリアのさらに西にある国の物だった。
ちなみに、その国とサンデリアは普通の関係らしい。
(敵対関係じゃないだけ、運がいいよね)
これで、敵対だったりしたら……どこまでできたか。
ここは海の上、出来ることに限界があるけれどお互いに修理の時間だ。
幸いにもというべきか、相手の船は動くには問題ない程度に修復が可能だった。
問題は、海神の矢による突撃で、物資が結構駄目になったことだ。
それと、人の被害も。こちらは軽傷ですんだけど、あちらはそうでもないようだ。
「一番近いのは、私たちの国ですか?」
「そうなりますね。出来るなら王都そばまで行けた方が色々楽でしょうが……」
物資は、まあ何とかなると思う。
こっちは食料に余裕があるし、水だって色んな意味で大丈夫だ。
でも、あちらはそうでもない。今すぐは大丈夫だけど……。
あちらの船は、このまま私たちと別れて最寄りの陸地の町を目指すらしい。
「ターニャちゃんは、戻ってた方がいいわ。嫌な物を見ると思うから」
「それは……」
エリナさんが何を言いたいかは、すぐにわかった。
海神の矢で、大怪我を負った人がいるんだ……たぶん。
手術なんて出来るわけもなく、道具だってない。
そんな状況なら……苦しんで死ぬなら、というのも理解は出来る。
「ピィ?」
「大丈夫……大丈夫」
それはシロへ向けた声なのか、自分へ向けた物なのか。
とぼとぼと、自室へと戻ろうと振り返って……そのまま、私はテオドール様の前にいた。
「ふむ? どうした、ターニャ嬢。おお、海神の矢撃退の褒美も、戻ったらあげればならないな」
「あの……そのご褒美、今貰っちゃだめでしょうか?」
不思議そうな顔をするテオドール様に、自分の望みを告げた。
それがどういう意味か、何度も問われながら……。
結局、テオドール様は許可を出してくれた。
そうとなれば、後はマリウスさんやエリナさん、それに船長にも話をしないといけない。
見捨てられようとしているけが人を、引き取るなんてご褒美の話を。
そうして、相手の船から預かったのは、大人が2人、まだ子供っぽい子が1人、だった。
一応、こっちには余裕があるから治療できるかもしれないというのが表向きな理由だ。
「ターニャちゃん、気になるのはわかるけど、人体実験は止めた方がいいわよ?」
「人聞きの悪い事言わないでくださいよ! そりゃあ、あまりやったことないことをしようとしてますけど」
付き添ってくれているエリナさんがそんなことを言うものだから、寝かされている3人もぎょっとした様子でこちらを見た。
今のところ、3人とも意識はある。でも、元気はなさそうだし、出血が激しい。
夜までは、持つかどうか怪しい。あまり時間はないから、早く片付けよう。
深呼吸をして、意識を集中させる。
ちなみに、シロは匂いが嫌かもしれないなとマリウスさんに預けてある。
「まずは、3人の体の魔素を確認して、怪我の具合を把握します」
「なるほど、そういう使い方……」
壁の向こうや中を確認するのに使う魔法を、生き物に向けて使うだけと言えば使うだけ。
そうすることで、大体の体調だとかが見えてくるのだ。
例えば、風邪を引いたりしてると独特の乱れ方を魔素が見せてくれるのだ。
今回は……単純に怪我からの流出。
それに加えて、ちょっと違うのもある。
これ……毒かな?
(刺さったら死んじゃうし、かすっても死ぬかもしれない……結構危なかったのか)
今さらながら、私のやったことの危なさを感じるけどそれは後回しだ。
3人の怪我のひどい部分を確認し、覚悟を決める。
出来るけど、余りやらない方がいい事。
でも、いざとなったらやれた方が後悔しないだろうこと、つまりは……癒しの魔法。
「寄り添う優しさを……光にして……」
癒しと言えば、白い光だ。
これは私の元々の記憶でもあるし、お婆ちゃんの記憶でも一緒。
暖かい太陽の光は、それだけでもなんだか癒されるし、元気になる感じがある。
その力を、手の中にぎゅっと集めて注ぐイメージだ。
「ターニャちゃん……」
「エリナさんの言ったことは、ある意味正しいんですよ。ごめんなさい、なかなか大きな怪我を治す機会なんてないから」
一番丈夫そうな大人の人、良く日焼けした海の男って感じの人は、笑みを浮かべた。
「恨むなんてとんでもない。わかるよ、お嬢ちゃんの魔法が入ってくるのが。すげえな、癒しの魔法なんて初めて見た。休みに日向で寝てるみたいだ……」
「動いちゃだめですよ、なんならそのまま寝ててください」
残念なことに、失われた血までは復活させられない。
だから、怪我は治せても命が繋げられるかは何とも言えなかった。
それでも、両足に巻いた包帯が真っ赤になっていたおじさんの表情が和らぐのを感じてこちらも笑みを浮かべる。
ひとまずの傷がなんとかふさがったことを感じた私は、残り2人も同じことをする。
こっちは骨折してるし、少年は……あ、これは危ない、毒っぽいのが回り始めてる。
「やれるかな……ううん、やるしかない。エリナさん、私が倒れたらその辺に寝かせておいてください」
「はい? もう、だったら魔石持ってくるわね。こんなこともあろうかと、常備してるのよ」
頼もしい声を背中に聞きながら、魔法を発動させた。
今度は、左右の手でそれぞれ違う物を。
目に見える色々がごちゃ混ぜになりそうだけど、頑張って分別する。
骨折も、放っておけばそのまま死んでしまうことだって結構あるのだ。
毒っぽいほうは言うまでもない。
「アンタ、神様か?」
「私が? ふふっ、人間よ。まあ、町のお爺ちゃんとかは聖女だとか呼ぶけどね」
弟たちより少し大きいかなってぐらいの少年の言葉に、元気づけようとそんなことを口にする。
私みたいな、欲望のままに動く聖女なんていてたまるか、とも思う。
聖女って言うのはこう、もっと見返りを求めずに献身的な物だ、と勝手に思っている。
私なんかは、これが縁でまた何か儲かればいいなと思ってるぐらいなのだ。
(だから、気にせず治されてればいいの)
その一言は口にせずに、治療を続けた。
魔法頼りの、治療と呼ぶのはどうかなと思うような時間。
途中、エリナさんの持ってきてくれた魔石から魔素を吸い取り、なんとか意識を保った。
日が暮れる頃には、私の魔素はすっからかんになってたけど、治療も成功した。
今は3人とも、疲労もあってか熟睡だ。
「お疲れ様でした、ターニャ様。あの3人、引き取られるのですか」
「うーん、そこまで考えてなかったです。薬草小屋とかで働いてもらおうかなあとは思ってるんですよね」
なんとなくだけど、戻ったら私はシーベイラにいないことも増えるんじゃないかなと思うのだ。
エリナさんと一緒に何かを研究したり、王様に言われていろんな場所に……そんな予感もある。
とりあえずは、神父様にお話をして、教会に通ってもらうことからかな?
魔法の使い過ぎで、ぼんやりする頭のまま空を見上げ、星を見る。
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