聖女と呼ばれても、そこそこ暮らしが一番です~秘密の種は異世界お婆ちゃんの知恵袋~

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GMG-056「空へと届け」

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「竜……りゅう……ドラゴン、か」

 与えられた個室は、一人で寝泊りするには少し広すぎるかな、というもの。
 以前と比べると、私の扱いというか、価値がそれだけ変わっているという証拠だろうか?

 ちなみに、マリウスさんは私の護衛ということですぐ隣に部屋がある。
 声をあげれば、すぐに来てくれるというのだから、ありがたいことだ。

「なんだか、神様みたいだよね」

 私以外には知らない、別の世界の記憶。
 思い出そうとしなければ、表に出てこない色んな記憶と知識。
 今回は、よくわからない存在への接し方、だった。

 つまりは、北にいるという白竜、それと語り合ったという場所での伝承の再現。
 そのためには、何が必要だろうかということだった。

(王様は、一応準備はしてくれるって言ってたよね)

 だから、私がやることはその日まで待つこと……なんだけど。
 私の中の、お婆ちゃんが訴えてくる。
 お話をするなら、こちらも相応に対応すべきだ、と。

「まだ日にちはあるはず……よしっ!」

 そうと決まれば話は早い方がいい。
 今日はもう夜も遅いから無理だけど、明日朝一でシーベイラに頼りを出そう。
 なんなら、お金を使って早い奴で……。




「それで俺たちが呼ばれたのか」

「ごめんね。普通に注文すると、不思議がられると思って」

「なあに、可愛い妹の頼みです」

 しばらくして、王都にやってきてくれたのは、アンリ兄さんとカンツ兄さん。
 手紙で、王都に運んでほしい諸々を書いたのが届いたのだ。
 持ってきてもらったのは、私が開発中だった色々と、竜に捧げる物。

 お酒や織物、それに干物とかの保存食な食べ物、他にも変わったところだと花の苗や種もある。
 大体揃ってるところを見ると、とてもうれしくなる。

「何があったかは、聞かないでおく。こういうのは、知る人が知ってればいいからな」

「そうですね。せっかくですから、しばらくは王都にいます。もし一緒に戻れるなら、戻りましょう」

「うんっ。これだけあれば完璧だと思う。ありがとう!」

 後はこれを、マリウスさんたちに伝えて荷物に一緒にしてもらう必要がある。
 たぶん、そんなにかさばらないから大丈夫だと思うんだけど……不思議に思われるかな?

 王様は、もしかしたら竜はいないと思ってるかもしれない。
 だから、国内への言い訳に使いたいだけかも。
 でも、私は信じている。この世に、竜も神様もいるって。

「だから、私がここにいるんだもんね」

「? 何か言ったか?」

 アンリ兄さんに首を振り、ひとまずのお別れの挨拶。
 そうして、2人を見送った後、戻って来たマリウスさんと一緒に、荷物を運ぶ。

 そして数日後、私は竜と語ったという遺跡へ向けて出発していた。
 この日に備えて、エリナさんからもらった服に身を包み、である。
 なんだかデザインは少し古い気もするけど……と思って聞いたら、当時の物を再現したそう。

(これはますます、手を抜けなくなってきた気がする)

 実のところ、私は自分の考えをマリウスさんとエリナさんにしか話していない。
 2人とも私の考え……竜を神様と思って、本気で対応することに同意してくれた。
 形だけのものじゃなく、本心からの物。

(後は、私の行動次第)

「シロのお父さんか、お母さんに会えると良いね」

「ピィ?」

 体は大きくなってきたけれど、鳴き声は相変わらずのシロ。
 でも、そんなシロにも卵を産んだ親がいる。
 会えないだろう私と違い、多分、親がいるのだ。

 だったら、一度は会わせるべきだと思ったのだ。

 町を過ぎ、村を過ぎ……段々と人気のない地域を進む。
 道も舗装なんてされてなくて、かろうじてそうだとわかる場所。
 2度の野営を過ごした頃、ようやく見えて来た。

「すごい……これ、人が作ったんでしょうか?」

「見事な物ですね。こんな一枚岩……魔法か、竜のような存在が作ったとしか」

 私たちの前に広がっているのは、岩でできたテーブル。
 ただし、町の広場ぐらいある大きさ。
 それが、一枚の岩で出来ているんだ。

 中央には祭壇っぽい何か。
 なるほど、確かに遺跡だ。

「研究し甲斐があるのかないのか、わからない光景ね」

「エリナさん、ここって普段は誰もいないんですよね?」

 私の疑問に、そうよなんて答えるエリナさんは興奮した様子だ。
 普段来ない場所というのは、間違いないみたい。
 だとしたら、おかしい。

「当然私も初めてきました。なのに、なんで草花も生えてなくて、木が貫いてるとかもないんでしょう」

 そんなつぶやきに、2人や護衛の人たちにもざわめきが広がる。
 荷物を運んでいた人の手も止まるほどだ。

 そう、きれいすぎる。
 毎日、誰かが手入れしているかのように。

「本物、そう思う他ないでしょうな。さあ、そうとわかれば逆にやりやすいと言えるでしょう。しっかりと、準備しましょう」

 今までは、そういういわれのある場所でそういうことをしてきました、と証拠を残すためだけだった。
 でも、伝承が本当かもしれないということが目の前にある。
 私も、なんだかドキドキして来た。

 浮つきそうになる気分を、深呼吸をして整える。
 ぶら下げたままの袋から、シロは顔を出しているけれど静かだ。
 じっと、テーブルの中央にある祭壇を見つめている。
 そのことが、妙に本物を感じさせる。

「竜に……会えるかな」

 まだ残る不安を飲み込むように、そんなことをつぶやいて、準備が終わるのを待った。
 そして、日暮れが近づいたころ、一通りの準備が終わる。
 私は祭壇の前に立ち、捧げものとして用意されたあれこれを前に、目を閉じて祈る。

 小さな、静かな祈り。

 自然と、口からは声が漏れていた。
 それは私の記憶。小さい頃に、お母さんに教えてもらった、竜への唄。
 共に自然に、この世界に生きようという唄だ。

 静かな場所に、私の声が響き続けた。



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