召喚破棄されたコボルト、お人よしの魔女と出会う

ユーリアル

文字の大きさ
8 / 37

CBM-007

しおりを挟む

 召喚獣と主は契約によって結ばれる主従の関係だ。残念なことに、破棄の権利は召喚獣側には無いというある意味とんでもない仕組みだ。どうやってこんな仕組みが世の中に産まれたのかは刻まれた知識は教えてくれない。


 多くの召喚獣は呼び出した主のため、戦い、あるいは日常を共にし、そして……死ぬ。それも当然かもしれない。召喚獣は失われれば新しく呼び出すか、現地で相手と契約してしまえばいいのだ。だから、今のマスター、エルサのように俺を道具扱いしないのは珍しい……はずなのである。


「父親はもう見つからないと考えていそうだな」


「あるいはひょっこり戻ってくると思ってるかですねえ。なんとなく戻ってきそうな気もしますけれど」


 猫探しから戻った俺たちは、猫自体はいたが目的の猫じゃなかったことを告げ、部屋に戻った。残念そうな娘の顔がどうも気になったがこればっかりは仕方がない。人間一人追うのとはまた話が違うのだから。


 品の良いと感じる部屋で、俺は汚さないようにと床に座り込みながらエルサから受け取った妙な石……アクサームのそばにある森の中、そこにある泉近くで何かが掘られた跡に残っていた小石だ……を眺めていた。


 ただの石とは思えないし、猫がこれを目当てによってくるとなると……はて?


「爪でつついたら削れそうだな。マスター、噂に聞いたように薬になるんじゃないのか?」


「かもしれませんね。少し割ってみますか」


 薬師の作る薬、軟膏や飲むタイプとあるがどちらも主には植物、あるいは俺のようなというと問題があるが動物の一部を使ったりすることが多い。そんな中に、たまにこういった石を削った物が混じるのも知っている。どちらかというと石の方は毒になることが多いようだが……今回のそれは普通の石ではなかったようだ。


「柔らかい……これなら軟膏に練りこんでも、水薬に混ぜてもそのままわからなくなりそうですね」


 試しにと小皿に削り出されたその石の破片に……気が付けば俺はふらふらと手を伸ばしていた。エルサが俺の手を掴んでそれにようやく気が付いたほどだ。はっとなり、顔を振りぼんやりした何かを追い出す。


 改めて小皿を見ると、妙に感じる物がある。なんというか、美味しい匂いのする何か、というべきか。


「詳しい効能はわかりませんけれど、ルト君や猫さんを惹きつけるだけの何かがあり、それは人が摂取すると元気を取り戻せそう……これ、多分巨人胆ですね」


「きょじんたん……狩り尽くされたんじゃないのか?」


 昔この世界にいたという種族、巨人。名前の通りその背丈は巨木を超えるという。伝説では山1つをまたぐ奴もいたらしいが、逆にその大きさが災いして他種族から恐れられ、ついには討伐されたという。


 刻み込まれた記憶はそう言っている……とそこまで考えてこれがあった場所を思い出した。


 森の中、そこにある泉のそば……少なくとも昨日今日という話じゃあ、ない。


「私の知ってる話だと、200年前には目撃情報がありますね。倒された跡は、不思議と緑あふれる大地に変わったそうです。森が、巨人族の体の形に生い茂ったとか」


「ということは……」


 思い出すのは泉のそばにあった穴。もう穴というより堀と言った方が良いぐらいの大きさだった。馬車が数台入ってもまだあまりそうだった。あの場所はアクサームの人間にとってそれなりに出入りのある採取場所の1つだ。となるとよほどの大人数で、一気に作業しなくては見つかってしまうだろう。


「なあ、マスター。人間1人を癒すのにあれだけ掘って見つけた物全部を使うとは思えないんだが」


「奇遇ですね。私もそう思いますよ。恐らく、まだ中央の倉庫にでもあるか、どこかに献上でもされようとしているか」


 人間的な言葉でいうと、陰謀の匂いがした。ただ欲しければ、依頼として正式に掘ればいいのだ。それをしなかったのは、泉の秘密が恐らく巨人胆であることを知っている誰かが反対を恐れてこっそりと実施したからだ。


 なにせ、世界最強の種族とうたわれる巨人族の肝だ……干し肉ほどの破片でも魔法の触媒としては最上級、3日3晩走り回っても大丈夫なほどの水薬を作ったりできるとも噂があるらしい。そりゃあ、本物なら病人が飛び起きるぐらいはあるだろうな。


「積極的には関わらない、ということをお勧めする」


「ルト君はマスター想いですね。一応、猫さんは探しますが、それ以上は面倒ごとは嫌ですね」


 マスターもさすがにこうなると話が大きすぎるし、自分の領分ではないと考えているようだ。もし、もしも巨人胆が馬車数台ほどの大きさそのままの量があるとしたら、国規模の金額になる。さすがにそんなことはないと思うのだが……俺の願望でしかないのかもしれない。


 世の中、大体悪い予想は当たると、経験も、刻まれた記憶も教えてくれる。



 翌日、猫探しのついでに仕事があればと酒場をはしごした俺たちは、地下の見回りを受けた。大雨の時にため池に水を誘導する水路のような物がいくつか街の中を走っているらしいのだ。その中の1部は地下にあるらしい。途中、ゴミがたまっているようなら報告を、とのことだった。


「うう、さすがになんだか匂いますね」


「1日いたら鼻が曲がりそうだ。先に行くぞ、マスター」


 召喚獣として危険に飛び込むのは当然のこと。まずは俺が先に入り口から地下に降りる。光源は少なく、今は陽光が照らしてくれているが……なるほど、酒場にいた人間たちが松明とランタンの両方を持っていきなという訳だ。


 片手は剣の代わりに松明を持ち、前後を照らす。ついでに上も……今のところは問題ない。入口へ向け、松明をぐるぐる回す。大声を出して問題があってもということでの合図だ。


「階段が急ですねえ。どっちから行きましょうか」


「そうだな……あっちが良さそうだ」


 俺が指し示すのはそのまま行くと中央区に行きそうな方向。何も適当に決めたわけじゃあない。偶然、本当に偶然だろうが……感じるのだ。例の宿屋の猫の匂いを。


 出来れば別であってほしかった話だが、目の前に転がってきたのならばどうしようもない。マスターにもそれを伝え、何かあってもいいようにと警戒はしつつ……水の流れていない地下を歩く。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

処理中です...