召喚破棄されたコボルト、お人よしの魔女と出会う

ユーリアル

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CBM-012

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「やあやあ、物好きの集まる前線へようこそ、だな」


「来たからには稼ぎますよー」


「よろしく頼む」


 最前線の1つ、隣国とのきな臭い戦場にいるには少々場違いに思える男がこの場所の指導者ということだった。確かに戦うための体は出来上がってることを感じるが、その割には顔にはやや優男という言葉が似合う者が貼りついている。


 そう、貼りついている。まあ、こんな場所で、色々な出来事に対処しなければならないし、中には荒くれ者だっていることだろう。そんな奴らをまとめるのだから普通じゃ無理だろうなとは思う。第一、俺とマスター自体、普通じゃあない存在筆頭と言えるのだから。


「うむうむ。ここまで流ちょうに話すコボルトは久しぶりだな。なかなか召喚士はコボルトを使い続けないからな。大体はそのうち強い怪物に乗り換えてしまうっと、悪く言うつもりはないんだが」


「構わない。俺自身、コボルトに限界があることはわかっている。だからこそ、今のマスターには感謝しかない」


 わかり切ったことは言われてもそう怒ることではない。気にならないということではないが引っ張り続けるほどでもないのだ。妙にエルサが嬉しそうなのは気になるが……本当に、マスターはわかってるんだろうか? 直に契約のためのマナをつなぐことが危険な行為だと。場合によっては魔法使いとしての力を全部失っていたかもしれないのに、だ。


「なるほどな。2人には他の奴らと同じように動いてもらう。と言っても決まりは多くない。もし隣国の兵士と出会ったら直接相手にはするな。でないと怪物の討伐中に攻撃を受けた、とか難癖がついてくる。ただ、近くに怪物がいた時は……まあ、任せる」


「うっかり落とし穴に巻き込んだぐらいにしておきましょうかね、ルト君」


 軽く頷き、報酬の話をして建物を出る。基本的に外に行くのなら日当は出る。怪物退治は相場よりマシマシ、ついでに隣国の兵士と戦うことがあれば要相談、か。どうもこちらに攻め入られているというのは本当らしいなあ。


 陣地を見て回るが、湖のそばということで水には困っている様子はない。目ざとい商人やその関係者が臨時の店舗を開いているのが見える。有用な部位の買取や、日用品の売買も行っているのだろう。もちろん、割増しに違い無いが……というか、支払いができるだけの金が持ち込まれてるということは、国はこの状況を想定していたということだろうか。


「マスター、思ったよりも厄介なのかもしれない。前線と言ってもこんな僻地に、十分な量の貨幣が運び込まれている。奪いに来る可能性も考えてのことだろう」


「敢えて隙を見せたのかもしれませんね。例えば……地方の統治者の1人が病気で倒れたことをわざと流すとか……想像ですけどね」


 何もないよりは何かを想定しておいた方が良い、と感じる。今のところはどっちもどっちで、片方が正義ということはなさそうだということで十分だろうか?


 今日は一度見てみたいということで湖へと行くことにする。水薬を作るのに適した水かどうかも確認したいだろうし、何よりマスターも人間の女だ。たまには水浴びもしたいだろう。俺はあまり好きではない……なんだか泡の出る実を使い、わしゃわしゃと洗ってくるからだ。なんだか子ども扱いされてるようで悔しいのである。


 と、そうこうしているうちに陣地からしばらく歩いた先にある湖が見えて来た。一応湖から怪物が来るのを恐れてだろうか? 途中には柵がいくつもあった。まだ小規模だが畑のような物も見える。ここに長期滞在してる連中が勝手にやってるのかもしれないな。


「大きいですね……街がすっぽり入りそうです」


「恐らくかなり深いんだろうな。色も濃い……魚もいるんじゃないだろうか」


 水汲みがしやすいようにと工事された場所には小舟も止まっている。そのまま周囲を観察しつつ、マスターが少しだけ水をくむのを見守る。召喚獣はそうした雑事をさせられることも多いはずなのだがマスターはそれを好まない。もちろん、やることもあるのだが自分の手でやりたいと言われることの方が多いのだ。


「変な味はないですね。十分使えそうです」


「それはよかった。次は周囲の薬草の分布か……これは先達から学ぶか、自分達でというところか」


 念のためにと湖を回るようにして遠回りの帰り道。鳥のさえずりや虫の声、そよ風が吹き抜けるあたりは完全に僻地の田舎、そのものである。何もなければここで住もうかと思うぐらいだ。人ごみは駄目ではないがさすがに息が詰まる。音も大きいし、ざわめきばかりだ。それと比べ、この場所は自然の命に満ちている。


「ねえ、ルト君。もし、もしもですよ。契約が無くてもマナが、」


 そこまで言いかけたマスターに飛びつくようにして俺はその危険から彼女を逃がす。その結果、背中に何かがぶつかったが今は我慢、2人で生き残るほうが大事だ。


「敵襲! くそっ、厄介な相手だ」


「糸!? あ、あんな場所に!」


 左肩から腕あたりが白い何かで覆われて動かせなくなった。その正体は、木の上にいたでかい芋虫だ。これが成虫でなくてよかったと心から思う。もし成虫なら、とっくに捕らわれていた可能性の方が高いのだ。


 左腕を動かそうと試みるが、マナが通っているのか妙に弾力があるし、硬い。マスターに切ってもらうにも戦いながらでは厳しいように思える。となると魔法で撃ってもらうか、直接切り付けるか……。


 と、警戒しつつも考え込んでいた俺が抱きかかえられた。他でもない、マスターであるエルサにだ。苦情を口にする前に、すぐ背中で彼女のマナが膨らむのを感じた。岩でもぶつけるのか? それとも木の力を借りるか? まさか火は使わないよな?


「冬の荒々しさよ、吹き荒れろ!」


 大きな音を立て、周囲に真冬の吹雪のような風が吹き荒れた。木々を揺らし、草花を押し倒し、そして芋虫を転がしていく。そしてマスターは駆け出した。俺はその間、彼女の腕の中で彼女が動きにくくなることが無いよう、じっとしていた。


「マスター、すまない」


「いえ、飛び込んでくれなかったら危なかったです。あの糸、毒があるはずなんですよ。さあ、治療しますよ」


 言われてみれば、左腕がかなり痛くなってきた。なるほど、捕えて動けなくなった相手をさらに毒で弱らせて食べるのか……確かにこれがマスターに当たっていたら、彼女はかなり危なかったかもしれない。守れなかったが、守れた……そう思うことにしよう。


 時間がたつと糸に込められたマナは減るのか、今度はあっさりと刃物で糸をきることができた。そしてマスターお手製の薬を塗られ、飲まされ……回復していくのを感じる。


「稼ぐにも、本気で行きましょうか」


「ああ、そうしよう」


 前線での最初の1日はそんな少しばかりほろ苦い思い出から始まった。


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