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CBM-017
しおりを挟む大きい、大きすぎる。そのナニカを見た第一印象はそれだった。壁一面に広がる水晶らしき光沢、その中に何かが埋まっていた。肉と皮、中身はなく……骨、そう……骨だ。
「生き物の骨? それにしてはでかすぎる」
「この距離でこの大きさですからね……お屋敷ぐらいは……」
後ろからの奇襲もなく、安全を確認したうえでみんなでゾロゾロと中に入る。今のところ、変な怪物はいない。冷えた空気と、川の流れがずっと昔からこうだったと言わんばかりだ。
俺も警戒はしつつ、周囲を観察していく。見る限り、この場所でどれだけマナ結晶が得られるのかどうかはわからないが、圧縮を行っていたのは間違いない。それらしいものがいくつも転がっているし、壁際にある物がそういう機材だとわかる。良く見れば中にはマナ結晶がいくつもそのままだ。
松明で照らされた壁際に、人間の骨らしきものがいくつか転がっている。が、ほとんどはもう元の形もわからないぐらい崩壊している。骨になってかなりの時間がたっているようだ。それに、こんな場所で死ぬとなると何かあったに違いない。
(こんな辺鄙で、ある意味安全ではない場所で、重要な研究をする必要がどこにある?)
昔はマナ結晶がそこまで重要ではなかった? いや、それはむしろこの場所の存在を否定する考えだ。なおも考えていくがまとまらない。
「ちっ、やはり借り物の頭だとこのぐらいか。マスター、どういうことだと思う?」
「考えられるのはいくつかありますけど……1つは研究が重要過ぎて狙われた誰かがここでひそかに続けていた……1つはそのぐらいのものが他国にばれないように……そしてもう1つ」
言葉が区切られ、マスターは手にした松明を高く掲げた。そうして広がる光が照らす先は奥の壁の中にいる何か。そう、あれは何の骨なんだ? それに、骨にしては妙な気がする。こう、変わっているように見えるのだ。
体の中にあった骨、ではなく最初からそうある物だった、と主張しているような……。
と、水音。どうやら天井から何か破片が落ちて……!?
「天井! 回避だ!」
空気が動き、それを俺の鼻に届けた。生きているモノの、匂い。咄嗟にマスターの手を引きながら下がればちょうど空間の中央、川の手前に落ちてきたのは……異形。食べる物が無く、仕方なくそれらも取り込んだのか、あちこちマナ結晶で光るスライム。ただし、妙に形がある。
「おい、スライムってあんなに硬そうな感じだったか?」
「叩けば千切れるぐらいだと思う。けどまあ、答えは1つだわなあ」
そう、キラキラ光ってるように、あのスライムは岩や砂を取り込んでいる。もしくは、そうでもしないと本体を維持できないぐらいになってるのかもしれない。どうしてか、外には出ていないようだから。
普通、こういった場所ならいるだろう蝙蝠も全然いない。恐らくは住み着く前にあいつらに食われたのだ。案外、元々いた奴らもスライムの奇襲にあって食われたのかもしれないな。入り口付近に落ちて来たから逃げられなかった、ということだろうか。
「とりあえず、核を砕く! そしたら確認しよう」
誰かの声を合図に、戦いが始まる。と言ってもやることは簡単で俺はスライムの前に躍り出ると、囮となって自分に向かわせるだけだ。後は他の人間たちが武器や魔法で攻撃してくれる。見える限りでスライムは4。広い場所をぐるぐると回って誘導してやればすぐだ。戦えない状態ならともかく、そうでなければ問題ない。
短い時間で討伐は終了し、今度は上も警戒しつつ探索が再開される。スライムの匂いに追加はないし、少なくともそばにはいないようだ。穴の奥の方にはいるかもしれないが……探すのもなあ。
幸いにもというべきか、マナ結晶は圧縮前、圧縮後といくつもみつかる。圧縮後は運び出すためにか、何かの木箱らしき残骸の中に集まっていた。途中、放棄されていた袋の持ち主もここからひとまず持って帰られるだけということで取り出したんだろう。木箱ももうほとんど何だったかわからないぐらいになっている。
「適当に集めただけでも何年分あるんだ? はっ、コボルトのちびとお嬢ちゃんに感謝だな。ぼろもうけだ」
「これを自分達だけで売りさばくことを考えたらみんなと分配の方がましですよ、ええ。下手に宿も借りれやしないですもの」
エルサが心底嫌そうなのが伝わったのだろう、周囲に笑いが広がる。一緒にいる兵士達も同様だ。国だってこれだけのマナ結晶が一度に手に入るのであれば何も問題ない。
後は壁に埋まっているでかい何かだが……んん?
「ルト君?」
「見てくれ、この骨……周囲に隙間がある。まるで縮んだみたいだ」
危険はなさそう、そう判断し水晶の壁に近づく。まるで飾りのように埋まっている巨大な何かの骨。近づくとようやくわかったのだが、骨の周囲にわずかにだが隙間がある。最初はもっと骨は太かったのではないだろうか? では、どうして細くなったのか?
「この骨、古代の強力な怪物の物だったのだろうな。それがこうして形を残し、周囲にマナを溶け込ませている。ここでやっていたのは、この壁を砕いてマナ結晶としていたんだろうか? となるとこれ全部がマナ結晶なのか?」
「なるほど……確かに壁全体に感じます」
人間の中にいる魔法使いの一人、随分と年寄り……が顔をしかめながらつぶやいた。もうシワなのかしかめているからシワが寄ったのかわからないぐらいだが、言われたことには説得力があった。
「何年もマナを外に出し続けることでいつかこの骨も無くなるのか? それは……」
なんだか寂しい事、そう思った。しかし、それにしてもでかい。こんな場所にあるのも不思議だ。それに、いつか動き出しそうな感じを受ける。直前まで動いていた物が急に閉じ込められたような……。
視線が行く先は、何かの頭らしき場所。というかこの形、この大きさ……。
「マスター、まさかと思うけど、この骨……ドラゴンじゃないのか?」
ざわめきが広がる。俺も口にしてから少し後悔した。ドラゴンという言葉の持つ強さ、重みはどこにいってもすごい物だ。
「まさか……いえ、でも確かにこの手足、口元……ワイバーン種ではありえない」
これ以上の研究は後のほうがいいか、そう思った時……大地が揺れた。足元がおぼつかず、天井からはぱらぱらと破片が落ちてくる。
「地揺れだ! 少し戻ろう。ここだと危ない!」
「私が自然魔法で崩落を防ぎます! みなさん急いで!」
走り出す人間たち。俺もマスターも最後に広間から飛び出、少しでも崩落を防ごうとマスターが周囲に魔法を使おうとした時だ。
「……まさか!?」
悲鳴のような声に俺の足が止まる。人間たちは我先にと駆け出して既にそこそこの距離まで遠ざかっている。もちろん俺たちは一緒に仕事をしている間柄であるが、それだけだ。
マスターの視線が向かう先は壁、そこにあったドラゴンらしき生き物の骨。それが、光っている。骨を1本1本覆うように……俺ですら素でわかるほどのマナが覆い始めていた。
「冗談だろ……マスター、俺の目が変じゃなけりゃ、あの骨……動いてないか!?」
「私にも同じものが見えますよ。ドラゴンや巨人のような強い種は、死してなお別種としてこの世に再度生を受けると言います。まだ前兆でしょうけども放っておけば……」
世界最強の種族が1つ、ドラゴン。マナを取り込む限りひたすら強く、大きくなると噂される生き物。既に生き物と言っていいのかすらわからない奴ら。
その1匹が、骨となって蘇ろうとしている……!?
「とにかく逃げよう。このままじゃ……マスター?」
改めて逃げようと彼女の袖を引いた俺が見た物は、その場にとどまり杖をドラゴンに向けるマスターの姿だった。
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