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雪蛍
会いたかったです
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もう三月だというのに、山間の細い道には、除雪車が飛ばした雪が、未だ路肩にうず高く積み上げられていた。
自動車整備工場の従業員から教わった場所に車を停めると、綾音は目を閉じ深呼吸をした。
SNSの投稿を頼りにこんな所まで来てしまったが、果たして良かったのだろうか?
自分の選択が正解なのか、間違いなのか、もはや綾音にはわからなかった。
蛍太に会いたい。
ただそれだけの熱情が、綾音をここまで連れてきたのだ。
「よし!」
自分自身に喝を入れ、綾音は運転席のドアを開けた。
途端に冷たい空気が綾音の無防備な頬を包む。
ひやりとしたその感触にある種の心地良さを覚え、綾音は視線を遠くに向けた。
空は青く澄み渡り、純白の山々は陽の光を浴びてところどころ銀色に輝いている。
見事なまでの青と白のコントラストに目を細めた綾音の耳に、激しく吹かす車のエンジン音が響いてきた。
瞬間、全身に緊張が走る。
コートの襟元をぎゅっと掴むと、綾音は音のする方へと歩を進めた。
前方に、まだ雪の残る横道がある。そこに、一台の軽トラックと、それを押す人影が見えた。
ゆっくりと、綾音は進む。
何度かエンジンを吹かしたあと、軽トラックは勢いよく前進した。
「悪いね! 助かったよ!」
運転席から、初老の男性が顔を覗かせる。
「いいですよ! そのまま行ってください!」
記憶の中にある少し高めの柔らかい声が、それに応えた。
クラクションを二回鳴らし、軽トラックはこちらに向かって走って来る。
横道の手前に佇む綾音の前で一旦止まったあと、車は国道方面へと曲がって行った。
車を見送り、綾音は視線を横道に戻す。
遠目でもわかる彫りの深い大きな瞳が、綾音を捉えて動きを止めた。
「な……んで?」
雪解け水のせせらぎに混じり、蛍太の声が綾音の耳を心地良く揺らす。
「蛍太さん」
ゆっくり蛍太に歩み寄ると、「会いたかったです……」涙を浮かべ、綾音はにっこり微笑んだ。
もう三月だというのに、山間の細い道には、除雪車が飛ばした雪が、未だ路肩にうず高く積み上げられていた。
自動車整備工場の従業員から教わった場所に車を停めると、綾音は目を閉じ深呼吸をした。
SNSの投稿を頼りにこんな所まで来てしまったが、果たして良かったのだろうか?
自分の選択が正解なのか、間違いなのか、もはや綾音にはわからなかった。
蛍太に会いたい。
ただそれだけの熱情が、綾音をここまで連れてきたのだ。
「よし!」
自分自身に喝を入れ、綾音は運転席のドアを開けた。
途端に冷たい空気が綾音の無防備な頬を包む。
ひやりとしたその感触にある種の心地良さを覚え、綾音は視線を遠くに向けた。
空は青く澄み渡り、純白の山々は陽の光を浴びてところどころ銀色に輝いている。
見事なまでの青と白のコントラストに目を細めた綾音の耳に、激しく吹かす車のエンジン音が響いてきた。
瞬間、全身に緊張が走る。
コートの襟元をぎゅっと掴むと、綾音は音のする方へと歩を進めた。
前方に、まだ雪の残る横道がある。そこに、一台の軽トラックと、それを押す人影が見えた。
ゆっくりと、綾音は進む。
何度かエンジンを吹かしたあと、軽トラックは勢いよく前進した。
「悪いね! 助かったよ!」
運転席から、初老の男性が顔を覗かせる。
「いいですよ! そのまま行ってください!」
記憶の中にある少し高めの柔らかい声が、それに応えた。
クラクションを二回鳴らし、軽トラックはこちらに向かって走って来る。
横道の手前に佇む綾音の前で一旦止まったあと、車は国道方面へと曲がって行った。
車を見送り、綾音は視線を横道に戻す。
遠目でもわかる彫りの深い大きな瞳が、綾音を捉えて動きを止めた。
「な……んで?」
雪解け水のせせらぎに混じり、蛍太の声が綾音の耳を心地良く揺らす。
「蛍太さん」
ゆっくり蛍太に歩み寄ると、「会いたかったです……」涙を浮かべ、綾音はにっこり微笑んだ。
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