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15. やっと来た週末
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木曜日、僕は大学からまっすぐ実家に帰った。
僕はバイトはしていない。
高校までは、『そんな暇があったら、お金はあげるから研究を手伝え』って言われそうだから、したいと言ったこともない。
春人や一平の話を聞いて、そのうち社会勉強としてしてみようかなとは思ったりはするんだけど…
「ただいま~!!武田~?」
高級住宅街に建つ洋館のような佇まいの我が家。
1週間で変わるはずないけど、庭の草花も変わらず元気に咲いていて、家族が誰もいないのに、使用人達がキチンと手入れをしてくれてるのがよくわかる。
「おかえりなさいませ。坊ちゃん!暑かったでしょう?ご連絡いただけたらお迎えに上がりましたのに…」
玄関を開けたら武田が出迎えてくれた。
武田は、最近流行りの執事ってやつかもしれない。本当は母さんの会社の秘書課に所属してるらしいけど、両親が留守がちな僕の世話係として高校までは住み込みで働いてくれてた。
「子供じゃないんだから、大丈夫だよ。1人で帰れる」
「連絡もせずに帰宅するのが、すでにお子様かと…」
「え?なに?」
「いいえ…何も。お久しぶりですね」
「最近帰れなくてごめんね!ずっとマンションの方にいたんだ…」
リビングの革張りのソファに腰掛けると、武田が冷たいレモネードを持ってきてくれた。
夏って感じの懐かしい味がする。
「奥様から聞き及んでおります。dom様が見つかったとか…」
「そっか…母さん知ってたのか…そりゃそうだよね。父さんはアメリカにいても、母さんに毎日連絡取ってるし何でも話すもんね…」
「先週、いきなり調理器具を用意しろと言われた時は驚きましたが、dom様のために料理をされたのですか?」
「そうなんだ!すっごく喜んでくれたよ。まだカレーライスしか作れないけどね…でも、春人が料理上手だから、マンションでの食事は心配いらないよ…」
「さようでございますか…それはよかったです。まさか、私が生きてる間に、理人様がお相手を見つけられる日が来るとは…嬉しい限りです。」
武田は、ハンカチで涙を拭うフリをした。
「大袈裟だなぁ…って言ってあげたいところだけど、僕以外全員諦めてたよね…まったく…」
ここの使用人の人達は、すごい人が多いらしい。昔退職する使用人が辞める前に挨拶に来て話してくれたんだけど、母さんの会社の中で、僕の家の使用人というのは凄く人気の業務らしくて、自然に特殊技能があったり優秀な人が勝ち残るんだとか…そのやめた人は空手の世界チャンピオンとかで僕を護衛できる事をアピールして採用されたって言ってた。
この仕事が人気な理由の1つは、両親に会って話が出来ること。父も母も忙しいから、普段は滅多に会えないらしいんだけど、僕の生活の報告だけは両親は直接話を聞くようにしているらしい。
もう一つの理由は、僕が特殊能力者だという噂のせいだ。眉唾じゃないかと思うんだけど、僕の傍にいたら癌が治ったとか、腰痛が消えたとかそんな噂があって傍に行きたい人が多いんだって。
でも、武田はそのどちらでもなく、ただ僕の幸せを願って行動できるから、世話係にしたって母さんが、前に言ってた。
僕にとっては、もう武田は第二の父か歳の離れた兄って感じだ。まぁ、見た目は上品なちょい悪オヤジだけども。
それでも曲者の使用人達をまとめてる武田はきっとすごい人なんだと思う。
「これからは、向こうを拠点にして、たまにこちらに帰省する形にしようと思うから、荷物を向こうに運んでおいてくれる?」
「かしこまりました。…武田はものすごーく寂しくなりますが、ご両親にもそう報告しておきますね…」
「うん…頼むよ。トラはどうしようかな…できれば連れて行きたいけど、猫は家に棲みつくっていうし、しばらくは様子見でこちらにたまに会いに来るよ。淋しがるようだったら連れて行くけど…」
「承知いたしました…淋しがったら連れて行くのはトラですか?武田ですか?」
「トラだよ!もうふざけないでよ(笑)っていうか、荷物の手配とか掃除洗濯の手配とか称して、しょっちゅうマンションに来てるでしょ!コソコソ尾行しないで!ちゃんと春人にも紹介するから、ちゃんと出て来てよ。」
「気づいておられましたか…立派になられて…武田は嬉しゅうございますよ…坊ちゃん…」
「誤魔化したってダメだよ!プレイ中までいたんじゃないでしょうね?!」
「いやいや!お二人がマンションに入ったら帰りましたよ!通学中の護衛とハウスクリーニングだけです。domと subの間の事に口を挟むつもりはありません…」
「春人と帰ってるのに護衛なんて必要ないじゃん。絶対見たかっただけでしょ…」
「手を触れただけで蕩けちゃう理人様は可愛いかったですねぇ~」
「な!いつ?大学内はいないよね?」
え?春人に告白されたのも聞いていたのか?こいつ?!
「学内は入らない約束ですから、おりませんよ」
よかった…あの時じゃないみたいだ…
さて、引っ越しの話も済んだし、春人の画像でも楽しみながらゆっくり過ごそう…
僕は自分の部屋に戻って明日から数日分の着替えだけ鞄に詰めると早めに夕飯とお風呂を済ませた。
やっぱり食べ慣れた料理は美味しくて、お風呂も広くてサイコーだ。たまにはこうして帰ってこよう。武田にも会いたいしね。
でも、早く春人に会いたいな~
うん、今度は春人も連れて来よう…
夜に春人と電話で少し話して、僕は眠りについた。
***
いよいよ金曜日、僕は朝からそわそわしている。昨日1日会えなかっただけだけど、今夜から2泊3日はみっちり一緒にいられると思うとワクワクが止まらない…
最近はdomの抑制剤を飲んでいるから、春人といても蕩ける事がないので、今日は午前の授業も春人の隣で受けられるし、お昼も一緒に食べられる。その上で、夜もバイト終わりに会えるのだからとても嬉しい。
セーフワードの時みたいにグレア欠乏も起こしていないので、精神もとても安定している。
僕は約束のカレーライスを作りながら春人の帰りを待った…
「ただいま~」
春人が帰ってきた!
「おかえりなさい!カレー食べる?それともお風呂にする?それともプレイ?」
「ふふ…じゃ、プレイしながらカレー食べようか…」
プ…プレイしながらご飯ですと!?
どんなことするのかな…ワクワクしちゃう…
春人はうちで1番大きな皿にご飯とカレーを一皿だけよそうと、僕を膝の上に横抱きにして席に付いた。
春人に抱っこされてキュンとしたけど、抑制剤のお陰でまだ蕩けてはいない。
「じゃ、いただきます」
フワッと春人からグレアが流れだした。
うわ~気持ちいい!
春人はスプーンにご飯とカレーを乗せて僕の口の前に差し出した。
「まずは理人からどうぞ【eat】」
パクんとカレーを口に入れた。
うん、ちゃんと美味しくできてる…
春人はまた僕の口にスプーンを運んだ。
「じゃ、今度は【open】」
さっきとちょっと違うコマンドだ…僕は戸惑いながら、さっきと同じように口を開く。
春人が僕の口の中にカレーライスを入れた。
でも、閉じるコマンドをもらっていないので、僕は口を開けたままだ。
「こっちを向いて【look】」
僕は振り返って春人の目を見つめた。
春人の顔がゆっくり近づいて、唇どうしが重なると春人の舌がカレーライスを半分だけ攫って行った。
「うん、理人が俺のために作ってくれたカレー、とっても美味しいよ…理人も口閉じていいよ。【eat】」
僕も照れながら半分になったカレーを咀嚼した。
春人は今度は自分の舌にカレーをポタリと垂らした。
大好きな春人の舌にカレーが乗っていてとても美味しそうだ…その牛タンカレーのような光景を見つめて、僕はごくりと唾を飲み込んだ。
「理人、これ欲しいんでしょ…【lick】」
僕は夢中で、春人の舌の上のカレーを舐め回した。カレーの味がしなくなっても、春人の舌はずっと美味しくて、僕はいつまでも舐め続けた。
春人の舌は最高のお皿だと判明した。だって、食べ物がなくなってもまだ美味しいんだもの。
今度から食欲がない時はこうして食べさせてもらうのもいいかもしれない…
あんまり僕が春人の舌を舐めてるものだから、春人がカレーを指ですくって僕の鼻に付けた。
びっくりして離れると、今度は春人が僕の鼻のカレーを舐めとった。
こうしてカレーがなくなるまでイチャイチャしながら食事をして、最後に春人がrewardをくれた。
「理人、美味しかったし、楽しかったよ。【good boy】ありがとう…」
春人の追加のグレアに、抑制剤を飲んでいる僕もとうとう蕩けてしまった。
僕はバイトはしていない。
高校までは、『そんな暇があったら、お金はあげるから研究を手伝え』って言われそうだから、したいと言ったこともない。
春人や一平の話を聞いて、そのうち社会勉強としてしてみようかなとは思ったりはするんだけど…
「ただいま~!!武田~?」
高級住宅街に建つ洋館のような佇まいの我が家。
1週間で変わるはずないけど、庭の草花も変わらず元気に咲いていて、家族が誰もいないのに、使用人達がキチンと手入れをしてくれてるのがよくわかる。
「おかえりなさいませ。坊ちゃん!暑かったでしょう?ご連絡いただけたらお迎えに上がりましたのに…」
玄関を開けたら武田が出迎えてくれた。
武田は、最近流行りの執事ってやつかもしれない。本当は母さんの会社の秘書課に所属してるらしいけど、両親が留守がちな僕の世話係として高校までは住み込みで働いてくれてた。
「子供じゃないんだから、大丈夫だよ。1人で帰れる」
「連絡もせずに帰宅するのが、すでにお子様かと…」
「え?なに?」
「いいえ…何も。お久しぶりですね」
「最近帰れなくてごめんね!ずっとマンションの方にいたんだ…」
リビングの革張りのソファに腰掛けると、武田が冷たいレモネードを持ってきてくれた。
夏って感じの懐かしい味がする。
「奥様から聞き及んでおります。dom様が見つかったとか…」
「そっか…母さん知ってたのか…そりゃそうだよね。父さんはアメリカにいても、母さんに毎日連絡取ってるし何でも話すもんね…」
「先週、いきなり調理器具を用意しろと言われた時は驚きましたが、dom様のために料理をされたのですか?」
「そうなんだ!すっごく喜んでくれたよ。まだカレーライスしか作れないけどね…でも、春人が料理上手だから、マンションでの食事は心配いらないよ…」
「さようでございますか…それはよかったです。まさか、私が生きてる間に、理人様がお相手を見つけられる日が来るとは…嬉しい限りです。」
武田は、ハンカチで涙を拭うフリをした。
「大袈裟だなぁ…って言ってあげたいところだけど、僕以外全員諦めてたよね…まったく…」
ここの使用人の人達は、すごい人が多いらしい。昔退職する使用人が辞める前に挨拶に来て話してくれたんだけど、母さんの会社の中で、僕の家の使用人というのは凄く人気の業務らしくて、自然に特殊技能があったり優秀な人が勝ち残るんだとか…そのやめた人は空手の世界チャンピオンとかで僕を護衛できる事をアピールして採用されたって言ってた。
この仕事が人気な理由の1つは、両親に会って話が出来ること。父も母も忙しいから、普段は滅多に会えないらしいんだけど、僕の生活の報告だけは両親は直接話を聞くようにしているらしい。
もう一つの理由は、僕が特殊能力者だという噂のせいだ。眉唾じゃないかと思うんだけど、僕の傍にいたら癌が治ったとか、腰痛が消えたとかそんな噂があって傍に行きたい人が多いんだって。
でも、武田はそのどちらでもなく、ただ僕の幸せを願って行動できるから、世話係にしたって母さんが、前に言ってた。
僕にとっては、もう武田は第二の父か歳の離れた兄って感じだ。まぁ、見た目は上品なちょい悪オヤジだけども。
それでも曲者の使用人達をまとめてる武田はきっとすごい人なんだと思う。
「これからは、向こうを拠点にして、たまにこちらに帰省する形にしようと思うから、荷物を向こうに運んでおいてくれる?」
「かしこまりました。…武田はものすごーく寂しくなりますが、ご両親にもそう報告しておきますね…」
「うん…頼むよ。トラはどうしようかな…できれば連れて行きたいけど、猫は家に棲みつくっていうし、しばらくは様子見でこちらにたまに会いに来るよ。淋しがるようだったら連れて行くけど…」
「承知いたしました…淋しがったら連れて行くのはトラですか?武田ですか?」
「トラだよ!もうふざけないでよ(笑)っていうか、荷物の手配とか掃除洗濯の手配とか称して、しょっちゅうマンションに来てるでしょ!コソコソ尾行しないで!ちゃんと春人にも紹介するから、ちゃんと出て来てよ。」
「気づいておられましたか…立派になられて…武田は嬉しゅうございますよ…坊ちゃん…」
「誤魔化したってダメだよ!プレイ中までいたんじゃないでしょうね?!」
「いやいや!お二人がマンションに入ったら帰りましたよ!通学中の護衛とハウスクリーニングだけです。domと subの間の事に口を挟むつもりはありません…」
「春人と帰ってるのに護衛なんて必要ないじゃん。絶対見たかっただけでしょ…」
「手を触れただけで蕩けちゃう理人様は可愛いかったですねぇ~」
「な!いつ?大学内はいないよね?」
え?春人に告白されたのも聞いていたのか?こいつ?!
「学内は入らない約束ですから、おりませんよ」
よかった…あの時じゃないみたいだ…
さて、引っ越しの話も済んだし、春人の画像でも楽しみながらゆっくり過ごそう…
僕は自分の部屋に戻って明日から数日分の着替えだけ鞄に詰めると早めに夕飯とお風呂を済ませた。
やっぱり食べ慣れた料理は美味しくて、お風呂も広くてサイコーだ。たまにはこうして帰ってこよう。武田にも会いたいしね。
でも、早く春人に会いたいな~
うん、今度は春人も連れて来よう…
夜に春人と電話で少し話して、僕は眠りについた。
***
いよいよ金曜日、僕は朝からそわそわしている。昨日1日会えなかっただけだけど、今夜から2泊3日はみっちり一緒にいられると思うとワクワクが止まらない…
最近はdomの抑制剤を飲んでいるから、春人といても蕩ける事がないので、今日は午前の授業も春人の隣で受けられるし、お昼も一緒に食べられる。その上で、夜もバイト終わりに会えるのだからとても嬉しい。
セーフワードの時みたいにグレア欠乏も起こしていないので、精神もとても安定している。
僕は約束のカレーライスを作りながら春人の帰りを待った…
「ただいま~」
春人が帰ってきた!
「おかえりなさい!カレー食べる?それともお風呂にする?それともプレイ?」
「ふふ…じゃ、プレイしながらカレー食べようか…」
プ…プレイしながらご飯ですと!?
どんなことするのかな…ワクワクしちゃう…
春人はうちで1番大きな皿にご飯とカレーを一皿だけよそうと、僕を膝の上に横抱きにして席に付いた。
春人に抱っこされてキュンとしたけど、抑制剤のお陰でまだ蕩けてはいない。
「じゃ、いただきます」
フワッと春人からグレアが流れだした。
うわ~気持ちいい!
春人はスプーンにご飯とカレーを乗せて僕の口の前に差し出した。
「まずは理人からどうぞ【eat】」
パクんとカレーを口に入れた。
うん、ちゃんと美味しくできてる…
春人はまた僕の口にスプーンを運んだ。
「じゃ、今度は【open】」
さっきとちょっと違うコマンドだ…僕は戸惑いながら、さっきと同じように口を開く。
春人が僕の口の中にカレーライスを入れた。
でも、閉じるコマンドをもらっていないので、僕は口を開けたままだ。
「こっちを向いて【look】」
僕は振り返って春人の目を見つめた。
春人の顔がゆっくり近づいて、唇どうしが重なると春人の舌がカレーライスを半分だけ攫って行った。
「うん、理人が俺のために作ってくれたカレー、とっても美味しいよ…理人も口閉じていいよ。【eat】」
僕も照れながら半分になったカレーを咀嚼した。
春人は今度は自分の舌にカレーをポタリと垂らした。
大好きな春人の舌にカレーが乗っていてとても美味しそうだ…その牛タンカレーのような光景を見つめて、僕はごくりと唾を飲み込んだ。
「理人、これ欲しいんでしょ…【lick】」
僕は夢中で、春人の舌の上のカレーを舐め回した。カレーの味がしなくなっても、春人の舌はずっと美味しくて、僕はいつまでも舐め続けた。
春人の舌は最高のお皿だと判明した。だって、食べ物がなくなってもまだ美味しいんだもの。
今度から食欲がない時はこうして食べさせてもらうのもいいかもしれない…
あんまり僕が春人の舌を舐めてるものだから、春人がカレーを指ですくって僕の鼻に付けた。
びっくりして離れると、今度は春人が僕の鼻のカレーを舐めとった。
こうしてカレーがなくなるまでイチャイチャしながら食事をして、最後に春人がrewardをくれた。
「理人、美味しかったし、楽しかったよ。【good boy】ありがとう…」
春人の追加のグレアに、抑制剤を飲んでいる僕もとうとう蕩けてしまった。
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