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第一巻:春は、あけぼの
タオル=看病
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登校すると、いつもは俺が座っている一番後ろの席に、あみが陣取っていた。
不思議に思いつつ、その前の席に座る。
「おはよう」
「おはよう先輩、くしゅんっ」
顔を手で覆って、くしゃみをするあみ。
「風邪か?」
「ううん、熱とかないんだけど、滝行したら、くしゃみが止まらなくって。うるさいから隅っこにした」
どうやら、アイドルグループの冠番組の企画で、二人組ユニットで歌うアニメ主題歌のヒット祈願に、滝行を行ったらしい。
「下にドライスーツ着てたんだけど、先に私が滝に入ったから、髪の毛濡れてる時間が長くて、くしゅんっ」
「まあ、無理するなよ」
「うん。明日、土曜日はお仕事ないから、念のためにゆっくり休む」
「だから、会えなくてごめんね」と言うが、そもそも学生あみの仕事が多い土日は会う約束をしていないし、俺はジムの予定だ。
聴講中、何度か背後からくしゃみが聞こえて、少し心配だったが、
「・・・食欲は、あるようだな」
温かいもの食べたい、と言っていたあみは、学食で濃厚トンコツラーメンを注文していた。
「こういうときこそ、食べなきゃ」
「事情を知っていても、替え玉の食券二枚に、志桜里は若干、引いています」
小きつねうどんを食べている志桜里の方が、その線の細い雰囲気もあって、風邪っぽく見えなくもない。
猫舌なので、ふーふーうどんを吹きながら、眼鏡を曇らせているのが、年相応に見えてカワイイ。
教室に戻る途中で、俺は自動販売機で、いつもの炭酸水を買った。
ついでに、隣の自販機で紙コップのホットのレモンティーを買い、あみの机に置いた。
「今更効くか分からないが、紅茶もレモンも喉にいいからな」
紅茶には殺菌作用があるし、ビタミンCはメタアナリシスで風邪への予防効果がわかっている。
紙コップを両手で持ち、呟くあみ。
「・・・先輩、今日は優しい」
今日『は』とはなんだ、今日『は』とは。
翌日、土曜日の午前中、ジムへ行く用意をしていたら、ママから電話がかかってきた。
やはり風邪だったようで昨夜から、あみが熱を出して寝ているのだが、自分は店があるので、一人にするのが心配で、看病にきてほしい、という。
どうりで、「おやすみ!」LINE後の連打がなかったわけだ。
どうやら、マネージャーの志方も風邪をもらったらしく、頼れないようだ。
使えないな。
ミホや志桜里に頼もうか?と提案したところ、
「よそ様の娘さんに、風邪移したら、どうするんだい?」
と怒られたので、俺はいいのか、と言ってやると、
「・・・身内みたいなもんだろ」
その言葉は、少々照れ臭かったので、ごまかすように、
「二人きりをいいことに、俺が手をだしたら、どうするんです?」
「それは、あたしが信用した男が、その程度だったってことさ」
ママは鼻で嗤い、
「あんた刺した上で、自分の喉つくよ」
どこの時代劇だ。
薬は飲ませたとのことなので、ドラッグストアで必要になるかもしれないレトルトのお粥やスポーツドリンクなどを買い、あみの実家に来た。
入れ替わりに、店へ仕込みに向かいながらママは、
「あの子、熱出るともうろうとして、アホになるけど、適当にあしらっておいて」
アホ?
それはそれで、重篤な症状なのでは、と心配ではある。
考えてみれば、ちゃんとあみの部屋に入るのは、初めてだ。
酔った志方を布団に運ぶ一瞬に入って以来だ。
寝ているあみを起こさないように、そっとドアを開ける。
ベッドに勉強机、壁の棚にはぬいぐるみと漫画、ドラマなどの台本。
自分の少年時代の床が見えないほどに散らかった部屋とは、大違いだ。
その棚の一角に、俺が以前、手土産で持ってきた小さな花束をドライフラワーにしたものが、置かれていた。
ジップロックに入っているのが、事件の証拠品のようだが、大事にしてくれているからなのだろう、きっと。
その隣には、同じように、ジップロックに入った空のペットボトルがあった。
コーラらしいが、このメーカーは、コラボの限定パッケージ版などを出しているので、アイドルグループに関したものなのかもしれない。
どうやら、コレクター気質があるようだ。
机の上には、これまたジップロックに入ったハンカチがあった。
映画館のときに貸した俺のハンカチだ。
勝手の持って帰るのはマズいだろうが、封印されているのが、汚いモノのようで、ちょっと嫌だ。
返してくれるときには、この状態であってほしくない。
勉強机の椅子に座って寝顔を見ていると、
「・・・喉、渇いた」
と声がしたので、買ってきたスポーツドリンクをコップに入れて持って来て、上体を起こしてやる。
ごくごく、と飲み、
「わー、先輩だ」
今、俺だと気がついたのか。
アイスノンがぬるくなっていたので、買ってきたのと入れ替える。
ちゃんと冷凍したアイスノンを売っているのだから、すごいなドラッグストア。
「つめたーい、きもちいー」
頭をすりつけて、ごろごろしているうちに、うとうとしてきたようだ。
これは、アホというより、幼児化なのか。
「・・・お腹、へった」
しばらく寝ると、今度は空腹を訴えたので、レトルトのお粥を温めた。
「食べられるか?」
聞くと、俺に向けて口を開け、
「あーん」
まあ、仕方ないだろう。
スプーンですくい、口元へ近づけると、
「ふーふー、して!」
と怒られた。
数回で気がついたが、この「ふーふー、あーん」は、とても疲れる、精神的にも。
が、三分の一も食べずに、
「もう食べられない」
いつもは、腹ペコ女王なのに、少し心配になる。
その表情を、怒ったと勘違いしたのか、
「残して、ごめんなさい」
と涙目になる。
「お腹がいっぱいになれば、いいんだ。怒ってない」
「ほんと?」
「本当だ」
ベッドに横にさせ、布団をかける。
キッチンで余ったお粥にラップをして戻ってくると、あみが布団から、目から上だけ出して言った。
「手、握って」
布団の端から、ちょこんと手が出ているので、握った。
「手、冷たくて、きもちいー」
スプーンを洗うのに、水を使ったからな。
「手が冷たい人は、心が温かいんだって」
あみの手が、熱で熱いからだ、と少し心配になる。
そして、俺の心に温かい部分はあるのだろうか、と疑いたくなる。
あみが、手を握ったまま眠ってしまったので、手を解かないように、少々アクロバティックな体勢で、ベッドの下に、座りこんだ。
「・・・気持ち悪い」
布団をはだけたので、吐きそうなのか、と思ったが、違った。
「べとべとする」
どうやら、寝汗でパジャマが湿って気持ち悪いようだ。
俺は、ほっとして、ぎょっとした。
アホの子と化したあみが、自分で着替えられる可能性は極小だ。
仕方ない。
看病だ。
心配や体調を気遣う心が、賢者タイムを召喚してくれるはずだ。
机に、ママが用意して置いてあった着替えのパジャマをとり、念のために聞く。
「自分で、着替えらえるか?」
ボタンをもじもじといじっているので、部屋から出た方がいいか、と枕元にパジャマを置いた俺に、涙目のあみが言った。
「・・・できない」
ぽろっ、と涙がこぼれたので、
「大丈夫、大丈夫だ。ちょっと待ってろ」
机に置いてあったタオルをキッチンへもっていき、湯沸かし器のお湯で濡らし、絞って戻る。
タオルまで用意されてるって、この事態を想定済みだったのかママは?
それで手を出すなって、俺をどこかの修行僧とでも勘違いしているんじゃないか。
深呼吸を、みっつ。
それを見て、なぜかマネして深呼吸しているあみ。
漫画なら、目隠しをして、余計に触ってしまうとかな展開だよな、と現実逃避気味に考えた。
俺は、パジャマの前ボタンを外すと、素早く脱がせて、胸元に抱えさせ、背中をタオルで拭いた。
寝るときは、ブラジャーをしない派らしい。
「つめたーい、きもちいー」
上を着替えさせ終える。
下着まで脱がせてしまわないように、慎重に下を脱がせ、パジャマで隠す。
下着は、シルク派、なのか?
足をタオルで拭いて、着せて、着替え完了。
仕上げに、顔を拭いた。
「さらさらするー」
あみは、ベッドでごろごろしているうちに、眠ってしまった。
俺は、疲れ切って、ぐったりとベッドの下に座りこんだ。
そういえば、自分の食料を買ってこなかったなとか、勝手に人の家の冷蔵庫あされないよなとか、アイスとかあみの好きな甘いもの買ってきておけば食欲なくても食べられたのに、などと考えているうちに、眠ってしまったらしい。
物音で目が覚めた。
もう、夕方だ。
「ごめん、起こしちゃった?」
あみが、昼のお粥の残りをベッドに座って食べていた。
パジャマも更に着替えていた。
「いや、看病にきていて、寝てごめん」
「そんなのいいよ。もう熱も下がったし」
そして、手の中の食器を、少しだけ情けなさそうに見て、
「でも、おかわりほしい」
かなり回復したらしい。
俺は頷いて、キッチンに向かった。
二杯目のお粥を食べるあみは、まだ熱があるせいか、顔が赤いし、無言だ。
食べ終えた食器を受け取ると、更に顔を赤くして聞いてきた。
「・・・あの、着替えさせたの先輩?」
「・・・ママだろ」
再び、熱が上がらないように、すっとぼけておいた。
いつもより早く店じまいして帰ってきたママに、後は任せて、俺は帰った。
あみは、「泊まって欲しい」とゴネたが、俺がいると彼女が寝ないので、拒否して帰った。
日曜日は、「退屈だよー」「暇だよー」と連打がくるが、「ジム行くから返事できない、LINEしてないで寝てろ」でかわした。
月曜日、登校したあみは、俺の顔を見るなり、「えっち」と呟き午前中、口をきかなかった。
どうやら、俺が着替えさせたことを、ママがバラしたらしい。
しかし、追求してくる気はないらしく、俺も「看病だノーカンだ」とか、「病人に欲情するか」などと言えば、騒ぎになるだけなので、沈黙は金だとばかりに口をつぐんだ。
ただ、あみが友人連中に「裸みられちゃった!」と連絡していたのを、俺はしばらく知らなかったので、なんでミホにニタニタと、志桜里に非難めいた目で見られたのかわからなかった。
ちなみに、あみに風邪をもらっていた志方マネージャーは、
「ずーーーーっと一人で部屋で寝てました。心細かったです。一人で死ぬんだと思いました」
うん、住んでるとこ知らないし、女性の一人暮らしを訪ねるわけにもいかないし、彼氏つくろうね?
などと他人事のように考えたが、俺も部屋で倒れたり、と万が一を考え、部屋の合鍵を事務所に渡しておくことを考えた。
「あの先輩、私の部屋の勉強机に置いてあった、紙コップ知らない?」
「うん?もしかしたら、アイスノンの袋とかと捨てたかもしれないな、どうした?」
「・・・ううん、なんでもない」
不思議に思いつつ、その前の席に座る。
「おはよう」
「おはよう先輩、くしゅんっ」
顔を手で覆って、くしゃみをするあみ。
「風邪か?」
「ううん、熱とかないんだけど、滝行したら、くしゃみが止まらなくって。うるさいから隅っこにした」
どうやら、アイドルグループの冠番組の企画で、二人組ユニットで歌うアニメ主題歌のヒット祈願に、滝行を行ったらしい。
「下にドライスーツ着てたんだけど、先に私が滝に入ったから、髪の毛濡れてる時間が長くて、くしゅんっ」
「まあ、無理するなよ」
「うん。明日、土曜日はお仕事ないから、念のためにゆっくり休む」
「だから、会えなくてごめんね」と言うが、そもそも学生あみの仕事が多い土日は会う約束をしていないし、俺はジムの予定だ。
聴講中、何度か背後からくしゃみが聞こえて、少し心配だったが、
「・・・食欲は、あるようだな」
温かいもの食べたい、と言っていたあみは、学食で濃厚トンコツラーメンを注文していた。
「こういうときこそ、食べなきゃ」
「事情を知っていても、替え玉の食券二枚に、志桜里は若干、引いています」
小きつねうどんを食べている志桜里の方が、その線の細い雰囲気もあって、風邪っぽく見えなくもない。
猫舌なので、ふーふーうどんを吹きながら、眼鏡を曇らせているのが、年相応に見えてカワイイ。
教室に戻る途中で、俺は自動販売機で、いつもの炭酸水を買った。
ついでに、隣の自販機で紙コップのホットのレモンティーを買い、あみの机に置いた。
「今更効くか分からないが、紅茶もレモンも喉にいいからな」
紅茶には殺菌作用があるし、ビタミンCはメタアナリシスで風邪への予防効果がわかっている。
紙コップを両手で持ち、呟くあみ。
「・・・先輩、今日は優しい」
今日『は』とはなんだ、今日『は』とは。
翌日、土曜日の午前中、ジムへ行く用意をしていたら、ママから電話がかかってきた。
やはり風邪だったようで昨夜から、あみが熱を出して寝ているのだが、自分は店があるので、一人にするのが心配で、看病にきてほしい、という。
どうりで、「おやすみ!」LINE後の連打がなかったわけだ。
どうやら、マネージャーの志方も風邪をもらったらしく、頼れないようだ。
使えないな。
ミホや志桜里に頼もうか?と提案したところ、
「よそ様の娘さんに、風邪移したら、どうするんだい?」
と怒られたので、俺はいいのか、と言ってやると、
「・・・身内みたいなもんだろ」
その言葉は、少々照れ臭かったので、ごまかすように、
「二人きりをいいことに、俺が手をだしたら、どうするんです?」
「それは、あたしが信用した男が、その程度だったってことさ」
ママは鼻で嗤い、
「あんた刺した上で、自分の喉つくよ」
どこの時代劇だ。
薬は飲ませたとのことなので、ドラッグストアで必要になるかもしれないレトルトのお粥やスポーツドリンクなどを買い、あみの実家に来た。
入れ替わりに、店へ仕込みに向かいながらママは、
「あの子、熱出るともうろうとして、アホになるけど、適当にあしらっておいて」
アホ?
それはそれで、重篤な症状なのでは、と心配ではある。
考えてみれば、ちゃんとあみの部屋に入るのは、初めてだ。
酔った志方を布団に運ぶ一瞬に入って以来だ。
寝ているあみを起こさないように、そっとドアを開ける。
ベッドに勉強机、壁の棚にはぬいぐるみと漫画、ドラマなどの台本。
自分の少年時代の床が見えないほどに散らかった部屋とは、大違いだ。
その棚の一角に、俺が以前、手土産で持ってきた小さな花束をドライフラワーにしたものが、置かれていた。
ジップロックに入っているのが、事件の証拠品のようだが、大事にしてくれているからなのだろう、きっと。
その隣には、同じように、ジップロックに入った空のペットボトルがあった。
コーラらしいが、このメーカーは、コラボの限定パッケージ版などを出しているので、アイドルグループに関したものなのかもしれない。
どうやら、コレクター気質があるようだ。
机の上には、これまたジップロックに入ったハンカチがあった。
映画館のときに貸した俺のハンカチだ。
勝手の持って帰るのはマズいだろうが、封印されているのが、汚いモノのようで、ちょっと嫌だ。
返してくれるときには、この状態であってほしくない。
勉強机の椅子に座って寝顔を見ていると、
「・・・喉、渇いた」
と声がしたので、買ってきたスポーツドリンクをコップに入れて持って来て、上体を起こしてやる。
ごくごく、と飲み、
「わー、先輩だ」
今、俺だと気がついたのか。
アイスノンがぬるくなっていたので、買ってきたのと入れ替える。
ちゃんと冷凍したアイスノンを売っているのだから、すごいなドラッグストア。
「つめたーい、きもちいー」
頭をすりつけて、ごろごろしているうちに、うとうとしてきたようだ。
これは、アホというより、幼児化なのか。
「・・・お腹、へった」
しばらく寝ると、今度は空腹を訴えたので、レトルトのお粥を温めた。
「食べられるか?」
聞くと、俺に向けて口を開け、
「あーん」
まあ、仕方ないだろう。
スプーンですくい、口元へ近づけると、
「ふーふー、して!」
と怒られた。
数回で気がついたが、この「ふーふー、あーん」は、とても疲れる、精神的にも。
が、三分の一も食べずに、
「もう食べられない」
いつもは、腹ペコ女王なのに、少し心配になる。
その表情を、怒ったと勘違いしたのか、
「残して、ごめんなさい」
と涙目になる。
「お腹がいっぱいになれば、いいんだ。怒ってない」
「ほんと?」
「本当だ」
ベッドに横にさせ、布団をかける。
キッチンで余ったお粥にラップをして戻ってくると、あみが布団から、目から上だけ出して言った。
「手、握って」
布団の端から、ちょこんと手が出ているので、握った。
「手、冷たくて、きもちいー」
スプーンを洗うのに、水を使ったからな。
「手が冷たい人は、心が温かいんだって」
あみの手が、熱で熱いからだ、と少し心配になる。
そして、俺の心に温かい部分はあるのだろうか、と疑いたくなる。
あみが、手を握ったまま眠ってしまったので、手を解かないように、少々アクロバティックな体勢で、ベッドの下に、座りこんだ。
「・・・気持ち悪い」
布団をはだけたので、吐きそうなのか、と思ったが、違った。
「べとべとする」
どうやら、寝汗でパジャマが湿って気持ち悪いようだ。
俺は、ほっとして、ぎょっとした。
アホの子と化したあみが、自分で着替えられる可能性は極小だ。
仕方ない。
看病だ。
心配や体調を気遣う心が、賢者タイムを召喚してくれるはずだ。
机に、ママが用意して置いてあった着替えのパジャマをとり、念のために聞く。
「自分で、着替えらえるか?」
ボタンをもじもじといじっているので、部屋から出た方がいいか、と枕元にパジャマを置いた俺に、涙目のあみが言った。
「・・・できない」
ぽろっ、と涙がこぼれたので、
「大丈夫、大丈夫だ。ちょっと待ってろ」
机に置いてあったタオルをキッチンへもっていき、湯沸かし器のお湯で濡らし、絞って戻る。
タオルまで用意されてるって、この事態を想定済みだったのかママは?
それで手を出すなって、俺をどこかの修行僧とでも勘違いしているんじゃないか。
深呼吸を、みっつ。
それを見て、なぜかマネして深呼吸しているあみ。
漫画なら、目隠しをして、余計に触ってしまうとかな展開だよな、と現実逃避気味に考えた。
俺は、パジャマの前ボタンを外すと、素早く脱がせて、胸元に抱えさせ、背中をタオルで拭いた。
寝るときは、ブラジャーをしない派らしい。
「つめたーい、きもちいー」
上を着替えさせ終える。
下着まで脱がせてしまわないように、慎重に下を脱がせ、パジャマで隠す。
下着は、シルク派、なのか?
足をタオルで拭いて、着せて、着替え完了。
仕上げに、顔を拭いた。
「さらさらするー」
あみは、ベッドでごろごろしているうちに、眠ってしまった。
俺は、疲れ切って、ぐったりとベッドの下に座りこんだ。
そういえば、自分の食料を買ってこなかったなとか、勝手に人の家の冷蔵庫あされないよなとか、アイスとかあみの好きな甘いもの買ってきておけば食欲なくても食べられたのに、などと考えているうちに、眠ってしまったらしい。
物音で目が覚めた。
もう、夕方だ。
「ごめん、起こしちゃった?」
あみが、昼のお粥の残りをベッドに座って食べていた。
パジャマも更に着替えていた。
「いや、看病にきていて、寝てごめん」
「そんなのいいよ。もう熱も下がったし」
そして、手の中の食器を、少しだけ情けなさそうに見て、
「でも、おかわりほしい」
かなり回復したらしい。
俺は頷いて、キッチンに向かった。
二杯目のお粥を食べるあみは、まだ熱があるせいか、顔が赤いし、無言だ。
食べ終えた食器を受け取ると、更に顔を赤くして聞いてきた。
「・・・あの、着替えさせたの先輩?」
「・・・ママだろ」
再び、熱が上がらないように、すっとぼけておいた。
いつもより早く店じまいして帰ってきたママに、後は任せて、俺は帰った。
あみは、「泊まって欲しい」とゴネたが、俺がいると彼女が寝ないので、拒否して帰った。
日曜日は、「退屈だよー」「暇だよー」と連打がくるが、「ジム行くから返事できない、LINEしてないで寝てろ」でかわした。
月曜日、登校したあみは、俺の顔を見るなり、「えっち」と呟き午前中、口をきかなかった。
どうやら、俺が着替えさせたことを、ママがバラしたらしい。
しかし、追求してくる気はないらしく、俺も「看病だノーカンだ」とか、「病人に欲情するか」などと言えば、騒ぎになるだけなので、沈黙は金だとばかりに口をつぐんだ。
ただ、あみが友人連中に「裸みられちゃった!」と連絡していたのを、俺はしばらく知らなかったので、なんでミホにニタニタと、志桜里に非難めいた目で見られたのかわからなかった。
ちなみに、あみに風邪をもらっていた志方マネージャーは、
「ずーーーーっと一人で部屋で寝てました。心細かったです。一人で死ぬんだと思いました」
うん、住んでるとこ知らないし、女性の一人暮らしを訪ねるわけにもいかないし、彼氏つくろうね?
などと他人事のように考えたが、俺も部屋で倒れたり、と万が一を考え、部屋の合鍵を事務所に渡しておくことを考えた。
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