(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜

文字の大きさ
25 / 67
第一巻:春は、あけぼの

新人-スーツ

しおりを挟む
「新人マネージャーの西原茜です。よろしくお願いします」
 事務所の社長室で、俺に頭を下げたのは、顔立ちはギャルっぽいのに黒髪ショートカットで不思議な雰囲気のスーツの女性だった。
 年は二十代前半、スーツは白で、タイトなミニスカート。
 どういうこと?と社長を見ると、
「まだ、試用期間だけどね。社長業が忙しくなってきたから、沢田専務の面倒見切れなくなってきたのよ」
 俺は、そんなに仕事してないし、かなり雑に扱われている気がするが。
 それはおいておいても、確かに、社長がタレントのスカウトなど、忙しそうにしているのは、わかる。
 こんな俺にも、定期的に仕事がくるのは、彼女の営業の賜物なのだろう。
 あと、俺が「専務」なのは、書類上だけのことで、何の権限もない。
 今まで、タレント事務所セカンドチャンス株式会社は、登記に必要な役員の一部を外部委託していた。
 当然、有料なので、俺に役員手当を値切って支払った方が、安く済むから乗り換えた、というカラクリだ。
 どうにも、某生き残れなかったゲーム機のテレビCMの印象で、専務という呼ばれ方の印象が悪い、と主張したが、理解できたのは同じ年の形山社長だけで、逆に喜んで、専務呼びしてくる。
「茜ちゃんは、元セクシー女優だから、若いのに業界長いけど、テレビやマネージャー業は慣れてないんだから、イジメちゃだめよ、沢田専務」
 さらっと、とんでもない情報をぶち込んできた。

「沢田専務の炭酸水、ここに置いておきますね」
 車の助手席に座ると、ドリンクホルダーにペットボトルが差し込まれた。
「ありがとうございます、西原さん。でも、専務は抜きで呼んでください。」
「それなら、茜って呼んでください。アダルト動画でもアカネだったので」
「・・・はい、茜さん」
 アクセルを踏む、ミニスカートから零れる太ももから目を逸らした。
 ぶっちゃけ、社長よりも運転が丁寧だったし、道中で今日の仕事の詳細説明をしてくれて、とても新人とは思えなかった。
「社長からのメモを丸暗記してるだけですよ」
 褒めるとそう笑うが、事前に覚えているだけ偉い。
 というより、どうして俺には、そういう情報いれなかったんだ社長?
「どうして、アダルト動画に?」
 つい気安い雰囲気に、つい聞いてしまい後悔したが、
「お金ほしくてです。茜、馬鹿だから、お金稼ぐには、アダルト動画くらいしかできなくて。でも、後悔してません」
「お金を稼ぐのは、本当に、大変ですからねえ」
 俺は、長いサラリーマン生活を思い返し、しみじみと言った。
「え?アダルト動画ですよ?」
 俺が、共感したことに驚いたようにで、聞き返してくる。
「はい?アダルト動画でしょうが、サラリーマンでしょうが、大変な思いをして、働いてお金を稼いでいるのは、同じですよ」
「え、はい・・・」
 言葉を飲み込んだ風で、彼女が納得したのかは、わからなかった。

「本日の衣装は、こちらになります」
 番組のスタイリストさんが届けてくれたスーツに着替えるため、制服のブレザーを脱ぎ、シャツのボタンに手をかけて、茜が楽屋から出ていかないことに気がついた。
 社長へなら、出ていけと言えるのだが。
 見られたら恥ずかしい、とオッサンが言うのも恥ずかしいので、Tシャツ、トランクス姿になったところで、茜が声をかけてきた。
「沢田さん、椅子に座ってください」
 顔なら、着替えた後に、メイク室でメイクさんに塗ってもらうが?
 とりあえず、新マネージャーがついたことで、システムが変わったのかもしれないので、情けない下着姿で、楽屋の椅子に座る。
 彼女は俺のトランクスのウエストに手をかけ、言った。
「お尻をあげてください」
「ちょっと、まったー!」
 俺は、パンツの前を押さえるという、これまでの人生で初かもしれないポーズで、叫んだ。
「はい?」
 俺の前に跪き、とても不思議そうな顔の茜。
 これ、何のエロゲ?
 こうなっている原因予想をいくつか列挙。
 その中で、とてつもなく確立の高い候補を口にした。
「・・・茜さん、社長に何を言われました?」
「沢田さんは、性欲が強いので、本番前に処理してさしあげろと」
 本番って、収録本番のことだよね?
 違う本番に聞こえますよ?
 少々斜め上ながら、予想通りだったので、なんと言って、説得しようか、考える。
「茜は、そういうお仕事として社長に雇っていただいたので。茜には、そのくらいしか価値がないから」
 あーあ、社長の思惑が透けて見える。
 たぶん今頃、この状況を想像して、ほくそ笑んでいることだろう。
 社長の思う壺だとしても、茜の言葉に、俺は怒り心頭だった。
「やめろ、マネージャー」
 俺の怒りが伝わったのか、怯えた表情になる茜。
「・・・茜なんかじゃ、セクシー女優やってた汚い女だから、ダメですか?茜、魅力ないですか?茜、こんなことしかできないんです」
「俺の優秀な西原マネージャーを馬鹿にするなよ?」
 涙目になった茜の襟首を俺はつかんだ。
「価値がないだと?さっきまで、俺にしてくれていた仕事は、そんなに、価値がない、どうでもいいことだったのか?」
「ひっ、いっ」
 息が苦しいだろうが、容赦しない。
「お前が俺のためを思って用意してくれた飲み物や、教えてくれた情報で、どれだけ俺が喜んで、助かったか。それは、お前の魅力で、こんなことをするより、ずっと上じゃないのか?」
「え?え?魅力?」
「汚い女だ?金を稼ぐために働くのが汚いなら、サラリーマンが長い俺の方が、もっと汚い橋を渡って汚れてる。こんな若い娘が、俺より汚いハズがない。舐めるな!」
「ひっ」
「お前は、お前なりに俺のことを考えてくれる、お前にしかなれない、俺だけのマネージャーなのか?それとも、いくらでも代わりのきく元セクシー女優の性処理係なのか?どっちなんだ?」
 俺は、問うて、手を離した。
 床にへたり込んだ茜は、せき込み、床に涙を落としながら、小さく呟いた。
「・・・性・・・やだ、マネー、ジャーです」
「聞こえない」
 声を振り絞るように、
「茜にしかなれない、マネージャーになりたいです!」
 こんな真昼間から、こんな下着姿で、俺は何を語ってるんだ?
「なら、優秀なマネージャー、衣装をとってくれ」
「・・・はい」
 とってきたスラックスを、椅子に座っている俺の足を持ち、通しだす。
 これ、なんのプレイ?
 止めさせると泣きそうなので、次回から、どうやって自分で着ようか、考えながら、立ち上がるとベルトを緩く締められる。
 シャツを羽織らされたので、急いで自分でボタンをはめだしたら、背中に抱き着かれた。
「・・・どうした?」
「さっき言った、セクシー女優をやって、後悔しなかったって、嘘です」
 車中での会話のことだろう。
「茜が、セクシー女優だって知ると、男の人は、エッチなことしていい女って目で見ました。そういうモノ扱いでした」
 それを受け入れてしまっている彼女を知って、社長は、どうにかしようと思ったのだろうが、思ったんなら自分でやれ。
 俺を巻き込むな、丸投げするな。
 わずかな専務の役員手当には、そんな分は含まれていないぞ。
『沢田先生、そろそろメイク室へお願いします!』
「はい!」
 ノックと共のドアの向こうからのスタッフに、俺は答えた。
「茜のこと、茜って人扱いしてくれたの、沢田さ・・・沢田先生が初めてです」
 また、先生呼びされたか。
 スタッフの呼び方を聞いて、「さん」より「先生」が上位と思ったのかな。
 泣きそうだから、変更を要求するのは、諦めておく。
 社長の方が先に、茜を認めていたのだが、俺への仕打ちを考えると、持ち上げてやらない。
「もう、俺のマネージャーだ。肩書きは、元セクシー女優じゃない。誰かにスケベな目で見られたら、俺に言え」
「はい。沢田先生」
「マネージャー、上着を」
 スーツの上着にさっそうと袖を通し、ドアを開けながら、
「マネージャー、笑顔が足りないぞ?」
 これ言ってから気がついたが、テレビに初出演した後、社長に言われた言葉だ。
「・・・はい、沢田先生」
 涙をぬぐう茜に恰好をつけて楽屋を出たが、ネクタイを締め忘れていた俺は、スタッフに注意された。

「社長!ハメましたね?」
 俺は、収録が終わり、車で事務所に帰ると同時に社長室へ駆け込み、クレームを入れた。
「あら、ハメちゃったの沢田専務?」
「言い方よくない!」
 あみの口癖の丸パクリで申し訳ないが、思いっきり、社長を指さして注意した。
 彼女は、ニヤニヤしながら、デスクに手をついて吠える俺と、ドアの側で佇む茜を交互に見ていた。
 そして、
「それで、元セクシー女優の茜ちゃんは、採用?不採用?」
「なに?」
「茜ちゃんは。沢田専務のマネージャーに。採用なの?不採用なの?」
 意味が分からないのではなくて、何を今更言ってるんだ、の「なに?」だ。
 なに言ってんだお前、これだけ俺に丸投げしておいて、と噛みつこうとして形山が、俺越しに、茜を見ていることに気がついた。
 これは褒めて言っているのだが、俺が所属する事務所の社長は、本当に頭がいいが、馬鹿のようだ。
 もし、ここまで手間をかけて、茜が辞めたいと言ったら、みすみす優秀な人材を失うんだぞ?
 俺は、ため息をつくと、
「それは、俺が決めることじゃない。西原茜が、自分で選ぶことだ」
 茜は、名前を呼ばれて、顔を上げた。
 自分が思い込んでいた、元セクシー女優だからこその採用ではなく、西原茜としての仕事。
 何か、言いたそうに口を開くが、言葉にならない。
 それを見て、くすっと笑った形山は、優しく聞いた。
「茜ちゃんが、どうしたいか、教えて?」
 彼女は、もじもじとし、か細い声で、だが自分の意志で言った。
「・・・沢田先生、末永くお願いします」
 それ、プロポーズへの答え方だろう。

「沢田専務は、思ってた以上に動いてくれたけど、これだと志桜里は大変だし、私もつまみ食いできないわねえ。どこの宗教家ってくらい、欲望を汚いって考えてるわよね」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

処理中です...