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第二巻:夏は、夜
応援×熱演+応援
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『番組の最後に、大事なお知らせがあります。田島!』
『二期生リーダー田島しほは、来月の二期生ライブを最後に卒業します。ファンのみなさま、今までありがとうございました』
『田島くんが卒業すると、寂しくなりますな』
『卒業する田島の特集は、次回以降やりますんで』
『そうなると気になるのは、二期生の次期リーダーですな』
『それも、次回以降に番組でやっていきますんで、お楽しみに!』
『今回はこれまで!バイ!』
「それで?」
あみのマネージャー志方に呼びだされ、今週放映予定のあみが所属するアイドルグループの冠番組の動画を見せられた。
問題があるとは思えないが。
また、脅迫メールかと身構えていたが、違うようだ。
「次期リーダー候補に、あみが選ばれています」
「それで?」
「もし、あみがリーダーになりましたら、仕事も増えますから」
俺に会う時間が減ると?
「でもそれは、事務所にとって、喜ばしいことだろう?」
「はい。そうなんですが」
どうにも要領を得ないな。
「次のリーダーは、どうやって決めるんだ?」
「番組内でのゲーム対決となります。まだ内容は未定ですが」
「ある意味、どれだけ本気でリーダーになりたいかの勝負になるんだろう?あみの意気込みは?」
「リーダーに挑戦してみたい気と、自分の人気ではまだまだ、と半々みたいです」
それこそ、俺が口出しするような状況ではない。
「あみが、気持ちを固めるのが先だろう?」
「い、いえ。沢田さんが、あみにどうしてほしいのかなと」
「あみが決めたことを応援するだけだろう?」
リーダーをしたいなら応援するし、自分がその器でないと思うなら、それを尊重する。
「あ、応援といえば、リーダー選出の対決では、今まで番組に協力いただいた方に『応援団長』を依頼する予定で、あみは佐伯店長を指名したいみたいです」
佐伯は、メイド喫茶さっきゅばすどりーむの全国売上トップ店長でメイドネームはレイチェルだ。
そういえば、彼女が学園で特別講義メイド学の講師をやるのは来週だったか。
聴講する気はないが。
未だに朝晩「開店」「閉店」の連絡は来続けている。
最近更に、「これで本日のメイド業務を終了させていただきます、ご主人様」という、きっと業界でいう「おやすみ」的なメッセージも来るようになった。
既読スルーで返信しないのも怖いので、すべてスタンプのみの対応だ。
「番組に、あんな化け物を呼んだら主役、喰われるんじゃないのか?」
「言い方よくない!」
部屋の片隅に、不自然に置かれた、不自然に大きな段ボールから、あみが飛び出して、叫んだ。
「・・・スカートめくれてる」
「え?あ、きゃ!」
再び段ボールに消えるあみ。
「それで?」
志方に、視線を振る。
「あの、その、ドッキリの練習も兼ねてまして。驚かないですね?」
ドッキリの練習なら、仕掛け人の志方の方に必要だな。
チラチラ段ボールに視線をやりすぎだ。
結局、何の時間だったんだこれ、と俺はため息をついた。
後であみに、レイチェルを化け物呼ばわりしたことで説教されたが、全国売上トップ店長が「いい意味」で化け物だと説明し、あみに内緒で脅迫メールの件で本人に会い、化け物だと思ったことは、バレずにすんだ。
「それで、沢田様とあみさんのご関係は?」
「え?あの、同級生です」
「ああ、鳳凰学園の学生さんでしたわね、あみさん」
俺たちは、メイド喫茶さっきゅばすどりーむの佐伯店長と面会していた。
次期リーダー対決の応援団長になってほしい、という出演依頼のためだ。
最終的には、番組スタッフが契約に来るわけだが、その前に直々に頼み、了承を得ておきたいと、あみが言い出したからだ。
店内には、前にも嗅いだ、香か香水か、独特な、甘いが刺激的、スパイシーと言えばいいのだろうか、不思議な匂いが漂っていた。
なぜこの場に『初対面』の俺がいるのか。
それは、先日のドッキリ練習のとき、佐伯店長を化け物呼ばわりした罰と、直接本人に会えば、どんなに素敵な人かわかるよ、とあみの親切心からでもある。
俺には、すでに十二分に、レイチェルの『素敵』さは、身に染みているのだが。
俺は事前に、スタンプだけで返信していたレイチェルに、今回訪問の事情を説明する長文を送っていた。
それへの返事は、
「ご主人様の『秘密』を守るのもメイドのたしなみですわ。ご安心くださいませ」
一安心したが、なぜかその夜から、「これで本日のメイド業務を終了させていただきます、ご主人様」ではなく、「おやすみなさい、ご主人様」と来て、いつも通りにスタンプで返すと、文字で「おやすみ」と返すまで、同じ文が再び三度送られてきた。
『秘密』を握られてしまったことが、心配だ。
まあ、脅迫メールや、今回のようなイレギュラーなことがなければ、LINEしか接点がないのは、安心材料だが。
「『同級生』ということは、沢田様も鳳凰学園の学生さん、なんですよね?」
「はい、そうです」
「鳳凰学園、楽しそうですわね」
楽しそうもなにも今度、特別講義の講師をやるだろうが。
なにより『今』が、とても楽しそうだぞレイチェル。
「そういえば店長さんは今度、学園で講義しますよね?私、楽しみ」
「はい、まだ仮入学なので、『特別講義』になってしまっていますけれど。間もなく、わたくしもあみさんの同級生ですわ」
なに?
特別講義は、外部の講師が単発で行う場合の名称だ。
だから、レイチェルは入学したわけではないと思っていたが。
『秘密』を守るのがたしなみって、思っていた以上に長期戦ということか。
「でも、佐伯店長は、こちらのお仕事も大変でしょうから、学園にはなかなか登校できないのではありませんか?」
「いいえ。優秀なスタッフが育っていますから、ご心配ありませんわ。沢田様」
俺の心配が、そっちじゃないのを知った上での回答。
「わー、楽しみ!」
「ええ、楽しみですわ」
本当に、楽しみで気が遠くなりますね。
「それで店長さん。応援団長は、引き受けてくれますか?」
「もちろん。お受けいたしますわ。メイドとして全力をつくします」
「嬉しい!番組が楽しみになってきちゃった」
「ええ、楽しみですわ」
楽しみなのは、本当に番組のことだよなレイチェル?
帰り際に、
「今度は、『お客様』として、ご来店くださいね?沢田様」
借りは、身体で返せ、という意味だろう。
そういえば、仕事の話なのに、一言もしゃべらなかったな、志方マネージャー。
ボロが出なくてよかったけど。
あみは、年上で自分よりも人気のあるリーダー候補を推すことを決心した上で、対決に真剣に臨んだ。
そして、負けた後のコメントは、
「ゆいさんは、私よりリーダーに向いていると思っていて。だから、全力で戦いましたけど、勝てませんでした。これからも全力で協力して、二期生みんなでがんばっていきます」
本気の言葉で、晴れやかだった。
ただ、番組では、やはりレイチェルの存在感が大きすぎて、次期リーダー「ゆい」の影を薄くしたのは、残念だった。
「ねえ、志方さん。隠し撮りしたドッキリ練習の動画。先輩が写ってるからほしいんだけど」
「え?パンツモロ見えで、もう消しちゃいましたよ」
『ゆいゆい、二期生リーダーになったのに、全然目立ってないじゃんか!なんだよ、このメイドも、クソ生意気にリーダー候補になりやがったあみも!』
『二期生リーダー田島しほは、来月の二期生ライブを最後に卒業します。ファンのみなさま、今までありがとうございました』
『田島くんが卒業すると、寂しくなりますな』
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『そうなると気になるのは、二期生の次期リーダーですな』
『それも、次回以降に番組でやっていきますんで、お楽しみに!』
『今回はこれまで!バイ!』
「それで?」
あみのマネージャー志方に呼びだされ、今週放映予定のあみが所属するアイドルグループの冠番組の動画を見せられた。
問題があるとは思えないが。
また、脅迫メールかと身構えていたが、違うようだ。
「次期リーダー候補に、あみが選ばれています」
「それで?」
「もし、あみがリーダーになりましたら、仕事も増えますから」
俺に会う時間が減ると?
「でもそれは、事務所にとって、喜ばしいことだろう?」
「はい。そうなんですが」
どうにも要領を得ないな。
「次のリーダーは、どうやって決めるんだ?」
「番組内でのゲーム対決となります。まだ内容は未定ですが」
「ある意味、どれだけ本気でリーダーになりたいかの勝負になるんだろう?あみの意気込みは?」
「リーダーに挑戦してみたい気と、自分の人気ではまだまだ、と半々みたいです」
それこそ、俺が口出しするような状況ではない。
「あみが、気持ちを固めるのが先だろう?」
「い、いえ。沢田さんが、あみにどうしてほしいのかなと」
「あみが決めたことを応援するだけだろう?」
リーダーをしたいなら応援するし、自分がその器でないと思うなら、それを尊重する。
「あ、応援といえば、リーダー選出の対決では、今まで番組に協力いただいた方に『応援団長』を依頼する予定で、あみは佐伯店長を指名したいみたいです」
佐伯は、メイド喫茶さっきゅばすどりーむの全国売上トップ店長でメイドネームはレイチェルだ。
そういえば、彼女が学園で特別講義メイド学の講師をやるのは来週だったか。
聴講する気はないが。
未だに朝晩「開店」「閉店」の連絡は来続けている。
最近更に、「これで本日のメイド業務を終了させていただきます、ご主人様」という、きっと業界でいう「おやすみ」的なメッセージも来るようになった。
既読スルーで返信しないのも怖いので、すべてスタンプのみの対応だ。
「番組に、あんな化け物を呼んだら主役、喰われるんじゃないのか?」
「言い方よくない!」
部屋の片隅に、不自然に置かれた、不自然に大きな段ボールから、あみが飛び出して、叫んだ。
「・・・スカートめくれてる」
「え?あ、きゃ!」
再び段ボールに消えるあみ。
「それで?」
志方に、視線を振る。
「あの、その、ドッキリの練習も兼ねてまして。驚かないですね?」
ドッキリの練習なら、仕掛け人の志方の方に必要だな。
チラチラ段ボールに視線をやりすぎだ。
結局、何の時間だったんだこれ、と俺はため息をついた。
後であみに、レイチェルを化け物呼ばわりしたことで説教されたが、全国売上トップ店長が「いい意味」で化け物だと説明し、あみに内緒で脅迫メールの件で本人に会い、化け物だと思ったことは、バレずにすんだ。
「それで、沢田様とあみさんのご関係は?」
「え?あの、同級生です」
「ああ、鳳凰学園の学生さんでしたわね、あみさん」
俺たちは、メイド喫茶さっきゅばすどりーむの佐伯店長と面会していた。
次期リーダー対決の応援団長になってほしい、という出演依頼のためだ。
最終的には、番組スタッフが契約に来るわけだが、その前に直々に頼み、了承を得ておきたいと、あみが言い出したからだ。
店内には、前にも嗅いだ、香か香水か、独特な、甘いが刺激的、スパイシーと言えばいいのだろうか、不思議な匂いが漂っていた。
なぜこの場に『初対面』の俺がいるのか。
それは、先日のドッキリ練習のとき、佐伯店長を化け物呼ばわりした罰と、直接本人に会えば、どんなに素敵な人かわかるよ、とあみの親切心からでもある。
俺には、すでに十二分に、レイチェルの『素敵』さは、身に染みているのだが。
俺は事前に、スタンプだけで返信していたレイチェルに、今回訪問の事情を説明する長文を送っていた。
それへの返事は、
「ご主人様の『秘密』を守るのもメイドのたしなみですわ。ご安心くださいませ」
一安心したが、なぜかその夜から、「これで本日のメイド業務を終了させていただきます、ご主人様」ではなく、「おやすみなさい、ご主人様」と来て、いつも通りにスタンプで返すと、文字で「おやすみ」と返すまで、同じ文が再び三度送られてきた。
『秘密』を握られてしまったことが、心配だ。
まあ、脅迫メールや、今回のようなイレギュラーなことがなければ、LINEしか接点がないのは、安心材料だが。
「『同級生』ということは、沢田様も鳳凰学園の学生さん、なんですよね?」
「はい、そうです」
「鳳凰学園、楽しそうですわね」
楽しそうもなにも今度、特別講義の講師をやるだろうが。
なにより『今』が、とても楽しそうだぞレイチェル。
「そういえば店長さんは今度、学園で講義しますよね?私、楽しみ」
「はい、まだ仮入学なので、『特別講義』になってしまっていますけれど。間もなく、わたくしもあみさんの同級生ですわ」
なに?
特別講義は、外部の講師が単発で行う場合の名称だ。
だから、レイチェルは入学したわけではないと思っていたが。
『秘密』を守るのがたしなみって、思っていた以上に長期戦ということか。
「でも、佐伯店長は、こちらのお仕事も大変でしょうから、学園にはなかなか登校できないのではありませんか?」
「いいえ。優秀なスタッフが育っていますから、ご心配ありませんわ。沢田様」
俺の心配が、そっちじゃないのを知った上での回答。
「わー、楽しみ!」
「ええ、楽しみですわ」
本当に、楽しみで気が遠くなりますね。
「それで店長さん。応援団長は、引き受けてくれますか?」
「もちろん。お受けいたしますわ。メイドとして全力をつくします」
「嬉しい!番組が楽しみになってきちゃった」
「ええ、楽しみですわ」
楽しみなのは、本当に番組のことだよなレイチェル?
帰り際に、
「今度は、『お客様』として、ご来店くださいね?沢田様」
借りは、身体で返せ、という意味だろう。
そういえば、仕事の話なのに、一言もしゃべらなかったな、志方マネージャー。
ボロが出なくてよかったけど。
あみは、年上で自分よりも人気のあるリーダー候補を推すことを決心した上で、対決に真剣に臨んだ。
そして、負けた後のコメントは、
「ゆいさんは、私よりリーダーに向いていると思っていて。だから、全力で戦いましたけど、勝てませんでした。これからも全力で協力して、二期生みんなでがんばっていきます」
本気の言葉で、晴れやかだった。
ただ、番組では、やはりレイチェルの存在感が大きすぎて、次期リーダー「ゆい」の影を薄くしたのは、残念だった。
「ねえ、志方さん。隠し撮りしたドッキリ練習の動画。先輩が写ってるからほしいんだけど」
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