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のらぱーてぃー

ユニーク・マンティコア

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 この街に来て、すっかり自堕落になっていた俺は、いつものように昼過ぎに、ギルドへ向かった。
 こんな時間じゃ、碌なクエストは残っていない。
 まあ、贅沢をしなければ、食べていくのには困らないので、どうでもいい、とも言えるのだが。
 昨日カムイと会ったことで毎朝、早起きをして、ギルドへ向かっていたランドウのことが思い出され、自分を顧みて、つい舌打ちをした。
 その音が聞こえたのか、振り向いたのは、カムイだった。
 お互い、気まずく無言な二人に、ギルド職員が駆け寄ってきた。
「緊急クエストです!」
 やはり、碌なクエストは残っていなかった。

 昼過ぎとはいえ、やけにギルドが空いている、と思ったら、既に別の緊急クエストで、大人数が駆り出された後だったのだ。
 そして、そこに更に別件で、近場にモンスターが現れた。
 ギルドに残っていたのは、俺たち二人だけだった。
 後から増援を送る、という守る気のなさそうな約束で無理やりパーティーを組まされ、送りだされた。
 仕方なく、二人で連れ立って、歩きだす。
 既にガイドカーソルが出て、黄色なので、装備をしておく。
「それ、使ってるんだ?」
 カムイが、俺の腰の龍鱗の剣を見て、言った。
「斬れが良い方が、便利だからな」
 俺は、前を向いたまま、答えた。
「それで、仲間を救えた?」
 俺は立ち止まり、彼女に向き直る、と言った。
「今の俺に、仲間はいない」
 カムイは目を背け、
「ボクやミチルたちは、仲間だった?」
 俺は、躊躇なく答えた。
「仲間だった」
 カムイは俯き、
「でも、ランドウは、死んじゃったよ」
 その時、ガイドカーソルが赤くなり、モンスターの咆哮が響いた。

 モンスターは、老人の顔にライオンの体、蝙蝠の羽にサソリの尾という姿をしていた。
 その姿の上に、「マンティコア」の文字、緑色のバーが現る。
 右目が潰れているので、手負いだろうか?
 それにしては、バーは削れていなさそうだが。
 俺が、ジェネラルになった日、苦戦していたカムイたちを助太刀して倒したモンスターと同じだ。
 あのときは、四人でギリギリだったが、今はレベルも上がっている。
 二人でも、なんとかなるだろう。
 ダメージは、カムイのライフルに頼ることになる。
「俺が盾になるから」
 振り向く、とカムイは、ガタガタ震えていた。
 確かに、二人ではキツいが、それほど脅える相手でもない。
 なのに、目の焦点が合っていない。
 肩を掴んで揺する。
「どうした、何があった?」
「あ、あの右目、あのマンティコア?」
 カムイが呟き、叫んだ。
「ランドウ、あのマンティコアに殺されたの!」

 カムイが使い物にならないので一端、引いて距離をとった。
 とはいえ、街に入る前に倒さなければならないので、さほど時間の余裕はない。
 そして、なんとかカムイが喋ったのは。
 俺が抜けた後、三人で通常とは違う、とてつもない強さのマンティコアに、クエスト帰りに遭遇した。
 そして、ランドウが後に残り、二人を逃がしたのだ。
 彼から距離が離れてしまった彼女らは、自動的にパーティーから離脱させられ、途中で彼のバーを見ることができなくなった。
 カムイたちは、援軍を連れて戻ってきたが、その時には、もうランドウの姿はなく、右目が潰されたマンティコアも追撃を振り切り逃げた。
 ミチルは、ランドウの死のショックと、いつまたどこで逃げたマンティコアに襲われるかもしれない恐怖から、閉じこもりがちになり、ついにはジェネラルを引退を宣言した。
 とはいっても、ジェネラルであることを辞められるわけでもなく、単にクエストに出なくなっただけだが。
 カムイが、無茶なクエストを受けるようになって「死神」と呼ばれるようになったのは、俺とミチルを呼び戻すためだった。
 命の種クエストで、ユウゾウが死んだ後、温泉でミチルに「カムイも消えてほしくない」と言われたことだけを頼りに、「無茶をして消えそうになったら、助けに来てくれるはず」と思ってらしい。
 ランドウが死んだのは、ミチルが心に傷を負って引退したのは、カムイが無茶をして「死神」と呼ばれたのは、俺がパーティーを抜けたせいなのだろうか?
 俺がいれば、龍鱗の剣を使えば、今もまだ、四人で笑っていられたのだろうか?
 それは、わからない。
 ただ、あのマンティコアは、俺が倒す。
「じゃあ、ランドウの敵討ちで、ヤツを倒すか」
 俺の言葉に、一瞬だけ、喜色を浮かべたカムイだったが、強く腕を掴んできた。
「ケイも、消えたら嫌だよ!」
 俺はポンポン、とカムイの頭を叩くと、
「俺は消えない。ヒーローだからな」

 とは言ったものの、不意を打って蝙蝠の羽を斬り落とし、サソリの尾をライフルで吹き飛ばすまでは、順調だったが、そこからは、死闘だった。
 カムイのライフルがダメージ源なので次弾が撃てるようになるまで、俺がヘイトを稼ぐ。
 当然、スモールシールドでは、攻撃を受けきれず、怪我が増えていく。
 ライフル射撃で、一気に稼がれたヘイトで、カムイへ向かおうとする間に強引に割り込み、更にダメージが増える。
 このままでは、ジリ貧だ。
 もう、必殺技にかけるしかないか。
「カムイ、ライフル撃てるようになったら、教えてくれ!」
 頷く彼女に、マンティコアを蹴って、挟んだ位置に距離をとる。
 微妙なヘイトのバランスで、どちらを狙おうかウロウロ、と頭を巡らすマンティコア。
「チャージ!」
「よし、カウントスリーで撃て!スリー、ツー、ワン」
 足に力を込める。
「ゼロ!」
 放たれた銃弾で、マンティコアのバーが大きく削れ、カムイを狙うべく俺に背を向けた。
 その背に、龍鱗の剣を突き立て、
「燃えろ!」
 血の気が引くような脱力感とともに、俺のバーが減り、マンティコアのバーが削れ、どちらも僅かに残して、止まった。
 倒しきれなかった!
 もう一度、「燃やす」と確実に俺は死ぬ。
 躊躇した隙に、マンティコアが身体を振り、俺は力の抜けた手から剣を放してしまい、地面に転がった。
 必死に予備の剣を抜こう、とするが力が入らない。
 カムイが、マシンガンを撃っているが、ダメージは微か。
 ライフルを撃てるようになるには、間に合わないだろう。
 マンティコアが、ライオンの右前足を振り上げニタリ、と嗤ったように見えた。
 ヒーロー発言は、死亡フラグだったか。
 もう、背に刺さったままの龍鱗の剣を「燃やす」しかない!
「ファイアー・ボール!」
 火球が、潰れた右目側から、マンティコアの顔面に叩き込まれた。
 マンティコアの半面が嗤ったまま、バーが黒くなり、龍鱗の剣が落ちて地面に刺さるサクっ、という音が響いて聞こえた。

「もう、ミチルがいない、とダメなんだから」
「ミチル!」
 死にかかって、地面に大の字になる俺の側にきた人影に、カムイが飛びつくようにして抱きついだ。
「ミチル!ミチル!ミチル!!」
「ごめんねカムイ、ごめんね!でも、無茶ばっかりして!」
「ごめんミチル!でも、来てくれるって信じてた!」
「遅くなって、ごめんねカムイ」
 感動の再会中に悪いが、動けないので回復してくれる、と助かるしろください。
 あと、下から中、見えるぞ。

 下から覗けそうだったのがバレた顔面への踏み付けで、危うく昇天しかかった俺だったが、なんとか回復してもらった。
 そして、平手打ちを喰らった。
「これは、ミチルの分!」
 ヴォーパルバニーなら死ぬ攻撃だ。
 更に、拳を強く握る。
 俺は、歯を食いしばった。
「これは、ランドウの分!」
 衝撃は、軽く胸にきた。
「ランドウの分、ランドウの分、ランドウの」
 ポカポカ、と胸が両手で叩かれる。
「ランドウの、うわーん!」
 俺の胸に顔を埋めて泣き出した。
 俺は、その後頭部を見ながら、躊躇していた。
 ランドウが死んだのも、ミチルがショックで引退したのも、俺がパーティーから抜けたせいだ。
 龍鱗の剣のせい、とも言えるが、使う覚悟も、装備しない決断もできなかったのは、俺だ。
 そんな俺に、ミチルを抱きしめる資格はあるのだろうか?
 腰に手がまわされた。
 カムイが、必死に手を伸ばして、俺たちを抱きしめていた。
 俺もオズオズ、と二人の身体に手をまわした。
 温かいな。
 自然、と涙が流れ、二人の髪を濡らした。
 後悔も、躊躇も、諦念も、忘れて、口から漏れた。
「ランドウ、すまん。ありがとう」

 星海の中ザワザワ、と声が聞こえる。
「結局、どちらを選んだのか・・・・・・です・・・・・・・」
「・・・・・・その方が、・・・・・には期待感が・・・・・」
「彼らには・・・・・・・もう少し・・・・・・・・・・・・」
「引退されたときには・・・・・・・・・・・これなら・・・」
「これだから集合・・・・・・・・・・演出が・・・・・・・」
「肉体を持つのだから・・・・・・・・・・・・・仕方が・・」
「・・人類の・・・・・進出を阻む・・・・有効利用・・・・」
「精神の方が肉体から影響を受・・・・矯正・・・・強制・・」
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