26 / 53
第一章
26.領主発見
しおりを挟むリッチモンド視点
「リッチモンド様、この地の領主をどうされるおつもりですか?」
「無論、捕縛し罪を償ってもらうつもりだが?」
レオの質問に答えれば、レオは首を横に振る。
「領主を捕縛したとしても、奴は金で己の犯した罪を揉み消し、すぐに釈放されるでしょう。そもそも、捕縛した我々を犯罪者に仕立て上げるかもしれません」
「ふむ……。それでも、国には国のルールがある。わしらが個人的な理由で人を殺めてはならん」
「……」
レオは個人的な恨みがあるからな。どこか納得が出来ぬのかもしれん。だが、
「わしらの目的は何だ」
「はっ 我々の目的は、不遇な環境にいる者達の保護です」
「その通りだ。決して領主への復讐ではない」
「っ……そう、ですね」
俯いたレオの頭をぽんぽんと撫でる。
若い頃は頭に血がのぼりやすいものだ。
「リッチモンド様……。申し訳ありません。貴方様のお陰で冷静になれました」
「うむ。なに、地下にあれだけ拐って来た子供がいる上、それを目撃しておる者も沢山居るのだ。そんな杜撰な者ならば、証拠の書類でも残しているだろう。捕縛した時にその証拠ごと役所に届ければ良い」
「はい」
わしの話に少しは気が晴れたのか、レオはそれから、特に何を言うでもなく、領主を探し始めたのだ。
領主の居所は案外簡単に分かった。
何しろ、護衛が部屋の前に立っていたのでな。なるほどここか、と目印になったので助かった。
「ヒィィッ わ、分かった。何でもやろう! 金ならお前達にいくらでもやる! だから助けてくれ!!」
全く。このように腐った心根の人間など、本当は消してしまった方が良いが……、いや、この者はこの国が裁かねば意味はない。
だからレオよ、剣を下ろせ。
「わしらは金など必要はない。腐る程持っておるしな」
「な、なら奴隷をやろう! 何も知らぬ無垢な子供だ! なかなかの抱きごごち、ぶふぇぁっ!!!!」
いかん。つい顔に蹴りをいれてしまった。
生きておるか?
「た、たしゅけて……っ」
おお、なかなかしぶといな。
「奴隷は全てもらっていく。貴様は犯罪者として騎士団へと放り込んでやるから安心しろ。
ああ、そうだな。金は要らぬといったが、訂正しよう。貴様の金は、今までの奴隷の為に全て使ってやるのでな。金での解決は出来ぬと思えよ」
「しょ、しょんな……っ」
全裸の領主が蹴られた顔を手で覆って泣いているが、自業自得だ。
「レオ、そこの子供らに服を着せてやるのだ。わしはコレと外で転がる者共を縛り上げてくる」
「はっ 承知致しました」
レオはすぐに動き始め、わしも気色の悪い領主達を縛り上げるとそれらを庭へと移動させたのだ。
その際、この部屋の窓から飛び降りただけで領主は気絶してしまった。
おかしな男だ。
「リッチモンド様っ 子供達を連れて一階に下ります」
窓から顔を出し、そう叫ぶレオに頷き、私は地下へと移動する。
残ったこの邸の有象無象は、今のレオならば問題はなかろう。
こうして、領主に奴隷に落とされた者達を助け出し、一階に集めたのだが、人数が思っていたよりも多かった。
「……40人は居るな」
「そうですね。ですが、リッチモンド様でしたらこの数を一気に運ぶ事は可能ですよね」
「勿論可能ではあるが、この子らの親も連れて行くとなると、一度に運ぶ事は難しいな……」
空間魔法も、生き物は入れられぬしな。
「では、先に子供達だけでもカナデ様の所へ連れて行きますか?」
「いや、それだとこの子らの不安が増してしまう……お、そうだ!! 前にカナデに教えてもらった魔法を使うとしよう!!」
丁度良い魔法があった!!
「レオ、今すぐ子供らの親をスラムから……いや、スラムにいる連中をここに集めるのだ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カナデ視点
こんがり狐色に焼けた、出来たてホカホカの食パンは皆に大好評だった。
「ミミリィ、こんなに柔らかいパン初めてぇ!!」
「僕、イヴリンさんのバゲットも好きですし、この柔らかいパンも好きです」
「どっちも、美味しい」
「まぁ、ありがとうございます! ルイ様、アーサー様」
「イヴリンの焼くパンは絶品だからな!」
「どちらも違いがあって美味しいですね」
「私もイヴリンさんのパン大好きです!」
等と会話をしながら、パンを主食にビーフシチューやアスパラとトマトのチーズ焼き、アボカドエッグ等を食べる。オレンジの入ったサラダも絶品だ。
はぁ。全部美味しい!
「カナデ様、あの“ほーむべーかり”というものは素晴らしいですね! 材料を入れるだけでこんなに美味しいパンが出来るだなんて!!」
「ですよね! 他にも、ナッツやレーズンを入れたりも出来るんです!!」
「まぁっ そうだわ! カナデ様、“ほーむべーかり”は村の家にも現れて居るのですよね?」
「はい。基本的には連動しているみたいなので、あると思いますが?」
「でしたら、新たに来る人達の為に、パンを焼いておきませんか?」
イヴリンさんからの提案に、それは良い考えだと大賛成した。
この後、子供達がホームベーカリーに材料を入れる事が楽しくなってしまい、村中のホームベーカリーでパンを焼いてしまったものだから、大量のパンが出来上がってしまって頭を悩ますはめになるのだが、この事が後々とても良い方に転がって行く事を、私はまだ知らなかったのだ。
「この大量のパン、どうしようか…………」
356
あなたにおすすめの小説
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
俺って当事者だよな? 知らぬ間に全てを失いました
碧井 汐桜香
恋愛
格上であるサーベンディリアンヌ公爵家とその令嬢ファメリアについて、蔑んで語るファメリアの婚約者ナッツル・キリグランド伯爵令息。
いつものように友人たちに嘆いていると、第二王子であるメルフラッツォがその会話に混ざってきた。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる