継母の心得

トール

文字の大きさ
169 / 369
第二部 第2章

385.ナイトレイ子爵 〜枢機卿視点〜

しおりを挟む


ウィーヌス・ウラヌ・ディオネ枢機卿視点



「───そうか……、子供の性別について知ってしまったのか」

ポレットの父親で、私の父の親友でもあったナイトレイ子爵は、子供の時から私を本当の息子のように可愛がってくれていた、優しい人だ。
そんな子爵は、記憶にあるよりも年を取っていて、目元や口元の皺も深くなっていた。ただ、覇気はなく、だからこそなのか、より老け込んで見えるのだろう。

「やはり、私の子供は娘ではなく、息子だったのですね……」
「……」

ナイトレイ子爵は瞬きよりも少しだけ長く目を閉じ、ゆっくり開く。

「……子爵は、私に会ってくださらないかと思っていました」

ディバイン公爵夫人に、父がなぜ子供を養子に出すような行動をとったのか調べるべきだ、とアドバイスされてからすぐ、ナイトレイ子爵に連絡を取り、こうして会いに来たが、私はこの人の大事な娘を奪い、挙げ句病気で死なせてしまった愚かな男だ。子供……この人にとって孫は未だ行方知れずで、ルネまでも教会へ来てしまった。
だからこそ、面会は叶わないかもしれないと半ば諦めていた。

「……そうだな。君はポレットだけでなく、ルネまでも私から奪っていった男だ」
「申し訳ありません……」

椅子に座って深い溜め息を吐く子爵から、目をそらす。

「お父さん、私がウィーヌス様に無理を行って付いて行ったの! 姉さんだってそうよっ、ウィーヌス様は何も悪くないわ」

ルネの言葉にもう一度溜め息を吐いた子爵は、ゴホッと咳をして、深呼吸すると、私たちに向き直った。

「わかっている。ずっと……、そんな事は最初からわかっていた」
「なら……っ」
「だがな、私はポレットとお前の父親だ。恨めしいと思う気持ちも、わかってほしい」

それはそうだ。私だとて、もし子供が私のような者を追いかけて行ってしまえば、当然恨むだろう。

「だがな……、だが、ウィーヌス、本当は君を息子として迎えたかったのも事実だ」
「ナイトレイ子爵……?」
「ポレットが魔栓症でなければ、問題はなかったのに……っ」

深い皺が刻まれた手をぐっと握り、何かに耐えるように唇を噛むその姿に、心が痛んだ。

「君の父親であるディオネ辺境伯に、ポレットと君の子供を養子に出すよう頼んだのは、この私だ」
「!? なぜ、そのような事を……っ」
「魔栓症は遺伝性の病気だ。それを心よく思わないディオネの一族から、恐ろしい事に、子供を殺せと声が上がった……っ」

一族が……!?

「もちろんディオネ辺境伯は拒んだが、長男を失い、古傷のせいで体力も失いつつあったアイツでは、抑えられなくなっていたんだ」

父は、一族の暴走を懸命に抑えようとしてくれていたのか。

「……ディオネ辺境伯は、君とポレットの仲を認めなかっただろう。あれも、私がそうするよう言ったからだ……」
「どうして……っ」

ナイトレイ子爵の告白に、驚きが隠せない。

「君は、ディオネ家の次期当主である兄の婚約候補と、何の報告もなく駆け落ち同然に家を出ただろう」

ポレットが勝手に付いてきた事が、大事になってしまっていたのだ。

「ディオネ辺境伯は、我が家の名誉を気にしてくれていた。そして、頭を下げ、ポレットの婚約者を君に変更したいとまで言っていたんだ」
「父が……!?」

そんな事は、全て初耳だった。
私は、父を誤解していたようだ……。

「だが、君のお兄さんの手前、すぐに鞍替えするような事は避けるべきだ、と……君やポレットがアカデミーを卒業するまで待つ事にした。だが、娘は魔栓症を発症してしまった」

子爵は、ディオネ家の為に結婚を反対したのだ。そして私たちの子供の命を救う為に、養子に出す決意をしたのだ。

しおりを挟む
感想 11,970

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。