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第二部 第3章
476.恩返し
しおりを挟む話を聞こうと馬車を降り、スタッフたちの顔を見ると、全員が申し訳なさそうな表情で、わたくしを切実に見ていた。
「帝都の建設業者が、雨季にあった増水の影響で壊れた橋の修理と、レール馬車を通す予定地の整備とで人手不足になり、支援センターまで手が回らない状況なのです」
レール馬車の影響でしたわ!
どうやら皇后様は、ディバイン公爵領の視察の後、帝都の整備を始めたらしい。もちろんレール馬車だけで人手不足にはならないよう調整されていたようだが、橋が壊れてしまった事や、その他通常業務も重なり、支援センターのリフォームが遅れているのだそうだ。
「こちらの屋敷しかありませんでしたの?」
「支援センターの今後の形態を考えると、ある程度の大きさは必要です。ですが、現在庶民街でこの規模と同等の屋敷を別に確保できるかと言えば、難しいのが現状です」
スタッフはそう言うが、大粛清後に空き家が多くみられるのだから、ありそうなものなのに……。
「奥様、大粛清後に空いた屋敷は、全て貴族街にあります。しかし支援センターが必要なのは庶民です。庶民街で大きな屋敷となると、裕福な商人が構える屋敷ぐらいのもの。となると、数は限られます」
ミランダに指摘され、血の気が引いた。
わたくし、貴族街と一緒にしてしまっておりましたわ……!
なぜ今回、ディバイン公爵領地ではなく、帝都へ先に支援センターを開設しようとしたのか。まず領地では、公園やレール馬車の建設で難しかった事、場所の確保が出来なかったというのが大きな理由だ。
そして、帝都ならば、大粛清後に空き家が増えたから、場所には困らないだろうと安易に考えてしまっていた。
なので、大丈夫だろうと人任せにした事が、今回支援センターがお化け屋敷になってしまった一番の原因だろう。
「わたくし、やってしまいましたわ……っ」
「ディバイン公爵夫人のせいではありません! 人手不足はわかっていたので、あらかじめ近隣の領地から、建設業者の派遣要請をしていたのです。しかし、どこかから横槍が入ったようで、来られなくなったと……」
横槍?
「ベル商会とも相談しましたが、何分職人がいないとなると……話は一向に進まず、それでもう、自分たちでやるしかないと頑張ったのですが……」
「外観には手が回らずじまいで……申し訳ありません」
え? 自分たちで、この大きな屋敷をDIYしましたの!?
「外観には手が回らず、という事は、内装は何とかなりましたの?」
「実は、ひと月前では、どんなに頑張っても限界があったのですが……」
スタッフは後ろのお化け屋敷……いえ、支援センターを振り返ると……
「ディバイン公爵夫人! 公子様!」
「お久しぶりですっ」
門の前にいたのは、あの育児ノイローゼ気味に、おもちゃの宝箱へ赤ちゃん用品を探しにきていた、コーラさんと、そのお隣さんのデリラさんだったのだ。
「まぁっ、コーラさん! デリラさん!」
あれから半年ほど経つが、お二人とも元気そうで、コーラさんは同一人物とは思えないほど、顔色も良く、笑顔に溢れているではないか。
「覚えていてくださったのですね」
「こんな光栄な事はないね!」
しかし、コーラさんのお子さんの姿が見えない。
半年前は生まれたばかりだったから、大きくなっているだろうけど、まだ歩く事も出来ない赤ちゃんのはずよ。
「あ、子供は今、主人が見てくれているんです」
顔に出ていたのか、コーラさんが支援センターの玄関を見ながら教えてくれた。
「え? ご主人もこちらに来ていますの?」
「はい。デリラさんの旦那さんも」
「アパートの住人、ほとんどがここにいますよ!」
どういう事ですの!?
「彼らが、ここの事情を聞きつけて、手伝いに駆けつけてくれたのです」
スタッフの言葉に、わたくしは口をあんぐりと開けたまま、支援センターを見つめていたのだ。
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