継母の心得

トール

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第二部 第4章

516.ももんちゅの攻撃

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あの風を、侍従が巻き起こしたものなら、王女はあの大男に何を指示しておりましたの!?

「───ドルン、助かった! ありがとね」
「うす……」

すぐ近くでウォルトに拘束されていたはずの少女の声が、なぜか王女様側から聞こえてくるではないか!

「床が……っ、奥様、ノア様、殿下方もそこを動かないでください! 床に穴が空いています!」

ミランダが声を荒げ、わたくしたちに注意を促す。

床に穴!?

「あの大男の仕業よ! さっき言ったでしょっ、アタシはモグラみたいに地面の中を通ってここまで来たの!」

先ほどよりも風が弱いとはいえ、薄目を開けるのがやっとだ。そんな中で皇后様がそう言って、イーニアス殿下とノアを守るように抱きしめている。わたくしの腕の中にはぺーちゃんとフロちゃんがいるが、油断すると子供たちは飛ばされてしまいそうだ。

「やめろ……っ、何だ、この動物は!?」
『かぜのちゅんじゅうである、あっちゅに、かてるとおもったで、ござんちゅか!』
「ふはっ、待て! 身体に纏わりつくな! くすぐった……っ、動き回るなー!!」

場にそぐわない、大笑いが聞こえてきたものだから、強風の中、何事かと顔を上げれば、ももんちゅが侍従の身体を高速で駆け回り、そのふわふわな体毛でくすぐっているではないか。

「ももんちゅ、しゅっごい、はやいの!」
「うむ。あれは、かぜのまほうを、りようしているのかもしれない」
「かじぇの、まほお……。わたちも、できるかちら?」
「もちろんだ。ノアも、かぜのまほうが、つかえるのだから、おなじことができる!」

などと、皇后様の腕の中でお話しているノアとイーニアス殿下ですけれど、ノアがあのももんちゅと同じ事をするのは、ちょっとおすすめできませんわよ。

「何を遊んでいる……」

王女は侍従の失態を見て、大きく溜め息を吐く。しかし、侍従は未だにももんちゅに、身体中を這い回られており、笑いが絶えない愉快な事になっている。

そういえば、擽りも拷問の一つだと聞いたことがあるような……

「うわー、クソ侍従引くわ~」
「うす……」

少女は侍従を見て冷たい視線を送っており、それに大男が同調しているのが、なんともかわいそうになってくる。

「透明になってるから……、存在感がないのはわかるけど、それにしても私、忘れられている……?」

ボソッと聞こえた声に、そういえば、ステルス魔法を使う女性がもう一人いたんだった! と、子供たちを強く抱きしめる。

「かぁちゃ?」
「よーてーたん、ぎゅーっ」

偶々声が聞こえてきて良かったですわ……、もし忘れたままだったら、子供たちを誘拐されていたかもしれませんもの。

ぺーちゃんが不安そうに見上げてくるので、背中をぽんぽんする。

あらあら、フロちゃんったら、相変わらず抱っこが好きですのね。可愛らしいですわ。

『どうでござんちゅか! まいったで、ござんちゅか!?』
「ぅ、ハハハハ……ッ、ぐ、クソッ、なんだこの小動物は!? 風の魔法を、上手くコントロールできない……っ」
『かぜのちゅどうけんは、あっちゅが、にぎっている、でござんちゅ!』

どういう仕組みかはわからないのだけど、もんちゅの声は侍従たちには聞こえていないようで、当然会話は成り立っていない。風もやみ、ノアたちは「ももんちゅ、かっこいー、でござんちゅ」と声援を送っている。

「皇后と公爵夫人を手中に収める事ができないのは残念だが、仕方がない。そろそろあの氷の大公が、帰ってくる頃だ。早々に退散するぞ」
「退散はいいけど、クソ侍従はどうするの?」
「ドルン、アイツを抱えろ」
「うす」

マズいですわ……これだけ騒ぎをおこしておいて、何事もなかったかのように去って行く気ですわ。

わたくしが焦っていたその時だ。ノアが王女たちの前に立ちはだかったではないか。

「にげちゃ、めっ!」

ノアの後ろには、ウォルトとミランダの姿もあり、まるでテオ様のように、堂々と影を従えていた。

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