継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 ノア3〜4歳 〜

番外編 〜 マディソンが領地に戻って来た日 〜 ノア4歳、イザベル妊娠発覚直後

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タウンハウス侍女長、マディソン視点


「あぁ……っ、何という事でしょうか……!」
「侍女長、領地の邸で何かあったのですか!?」

手の中の手紙を握り締め、息が止まって倒れそうになる私を、他の侍女が支えて不安そうに見つめている。

けれど、私の胸は高鳴り、それどころではない。

「こんな……っ、こんな嬉しい事はありません!!」

“妻が懐妊した。領地の邸に戻り、妻の世話をしてもらいたい。信頼できるのはマディソン、貴女だけだ。妻を助けてやってほしい”

テオバルド坊っちゃまから、早馬でこのような手紙が届いたのは、つい先程の事でした。

「奥様が、ご懐妊……っ」

何という快報でしょうか! イザベル様が、坊っちゃまのお子を妊娠されたというのですか!!

あの女性嫌いな坊っちゃまが……っ

「えぇ!? 侍女長っ、それは本当ですか!?」
「私はすぐに領地へと参ります。私と交代するように、領地から侍女長が来ますから、あなたたちは領地の侍女長の言う事をよく聞いて、今まで通り仕事に励んでください」
「っはい! マディソン侍女長、イザベル奥様をよろしくお願いします!」

タウンハウスにお越しになった時には、この子がミランダと共に奥様のお世話をしているからか、まるで我が事のように頭を下げていますね。良い心がけです。

「もちろんです。奥様がご懐妊された事は、まだ皆には黙っていましょう」

安定期に入るまでは、どこの家でも一部の使用人以外には黙っている事がマナーですからね。

「はい。畏まりました」

部下の返事を聞いてから、私は早速荷造りを始めました。

それからすぐ、坊っちゃまが私の為に用意してくださいました馬車に乗り込み、タウンハウスを後にします。
護衛も付けて下さったようで、馬車と並走して馬が走っている姿が窓から見えました。

「この馬車は、最新型の馬車のようですね……。振動も少なくて、音も静かで、お尻も痛くなりません」

この馬車も、奥様がご考案されたと聞きました。
本当に、坊っちゃまは素晴らしい奥様をもらいましたね。
エスコートをしない姿を見た時は、どうなるかと思っておりましたが、イザベル奥様は素晴らしい方ですから、坊っちゃまが惹かれていく事は想像がついておりましたよ。

坊っちゃまからの手紙を眺めながら、顔が綻んでくるのを引き締めます。

少し前、ノア様が赤ちゃん返りをしてしまったと騒動になっておりましたが、新しいご家族が誕生しましたら、ディバイン公爵家はどんなに騒がしくなるのでしょうか。楽しみで仕方ありません。

イザベル奥様は、悪阻はあるのでしょうか。吐きづわりや食べづわり、色々ありますから、まずはお食事と体調の管理をしっかりしなくてはいけませんね。

そのような事をつらつらと考えつつ、私が奥様にしてあげられる事をメモしていきます。

「そういえば、坊っちゃまも奥様もノア様も、妖精様が見えるのでしたよね……」

そのような事が教会に知られでもしたら大変ですから、使用人な領地もタウンハウスも含め、皆が魔法契約を致しましたが……、奥様のお子様も、聖者なのでしょうか。聖者は血筋ではないらしいですが、ディバイン公爵家のご家族は皆様後天的に見えるようになったという事ですし、可能性は高いかもしれませんね。
その辺りも気を付けなくてはならないでしょう。

「それにしても、今日は何て素敵な日なのでしょうか」


御者に出来るだけ急いでもらってから5日後、やっと着いた領地のお邸は、想像とは違い騒然としていました。

「何かあったのですか」
「侍女長!?」

すぐに顔見知りの使用人を捕まえ、話を聞くと、何と言う事でしょうか! ノア様のお姿が邸のどこにもないというではありませんか。

これは一大事です。

すぐさま心配されているであろう奥様をお探ししました。

「ノアっ、何処なの!? お返事をしてちょうだい!! ノア!!」

真っ青になってノア様を必死に探されている奥様を発見した時、心臓が止まるかと思いました。

今にも倒れてしまいそうではありませんか!

「ミランダ! 奥様をお部屋にお連れしなさい。奥様、ノア様はご無事です。妖精様も付いておりますし、何より坊っちゃまのお子です。誰にも傷つける事など出来ません。ですから、少し落ち着いてくださいませ」
「……マディソン」

私の顔を見た奥様は、安堵されたのか、ほんの少しだけお顔のお色も戻ってまいりました。

それからすぐでした。
皇帝陛下より、ノア様を保護したとご連絡があったようで、奥様は良かったと泣いておられました。

奥様は本当に、ノア様を我が子のように思ってらっしゃるのですね。

私もその様子に、涙が溢れてしまいました。
年を取ると涙脆くなっていけませんね。



「までぃそん、わたち、おかぁさま、なかせちゃの……わるいこちた」

ノア様がお夕食の前に、私にそう、呟くようにおっしゃいました。優しい方にお育ちになっていらっしゃるようで何よりでございます。

「ノア様、悪い事をしたら、ごめんなさいと反省が出来る方は、立派な紳士になれます」
「ちんち……、わたち、おかぁさまのきち!」
「はい。ノア様は、立派な紳士で騎士でございます」
「はい!」
「ふふっ、ノア様はきっと、坊っちゃま……お父様よりも、立派な大人になれますよ」

坊っちゃまのご両親は、とても厳格な方達でしたが、イザベル奥様のお陰でディバイン公爵家は随分と様変わり致しました。
ノア様も将来はきっと、ご令嬢が放っておかない素敵な男性に成長される事でしょう。

坊っちゃま。かけがえのない方と出会ったのでございますね。私の夫も、坊っちゃまの幸せな様子を草葉の陰で喜んでいる事でしょう。

「さぁ、ノア様。お夕食に参りましょう。たくさん食べて、お父様よりも大きく成長してくださいませ」
「はい!」

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