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第1章
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しおりを挟む「俺はただ…争いのない、皆が笑いあえる国にしたかった…」
「っなら、どうして…っ」
燃え盛る城の中で、哀しげに笑う黒髪の男と赤髪の男が対峙している。
黒い煙と真っ赤な炎に囲まれ、それでも美しい夜空の下で。
「ウィキ…どんなに血に塗れても、どんなに己の手を汚しても、俺は後悔なんぞしちゃいねぇよ」
「シン…お前…」
悲しみに彩られた瞳を細め、シンは笑う。
「お前の手で、終わらせてくれ…」
「っばか、やろう…っ」
ウィキは険しい表情のまま持っていた剣をきつく握ると、それをシンの心臓に突き立てたのだ。
「ウィキ…※※※※※」
倒れる間際ウィキの耳元でシンが囁いた音は、ゴウッという炎と共に散っていった。
「シン…※※※※※※※」
胸に刺さった剣をそのままに、ウィキはシンを抱き上げると炎の中へと消えていったのだーーー……
「ッ…」
シンは飛び起き、ドクドクと早鐘を打つ胸を押さえた。
今見た夢は、白黒の城の第一部のラストシーンだ。
何という不吉な夢を見てしまったのだろうか。
「ん…むにゃ…」
それというのも、コイツの寝相が悪いからだと思いながら、シンは自分の体の上にある足を退けた。
「ん~…」
それは足を退けた途端ごろりと寝返りをうってシンの方へ転がってきた。
ぼりぼりと尻をかき、むにゃむにゃと寝言なのかなんなのか分からない声を出しながらシンのベッドを占領しているのはウィキであった。
叔父であるリマインから怪談話を聞いたとかで、独りじゃ眠れないとシンの部屋にやって来たのは数時間前だった。
勝手にシンのベッドに入るなり、5秒で眠りについてしまった幼馴染の姿に呆れながらも自身も布団に潜り込んだのだが、見た夢が“白黒の城”のラストシーンであったのだ。
自分がマヌケ面さらして眠っている幼馴染に刺し殺される夢なんぞ、なんて不吉なのだろう…。
掛布団をはねあげて眠っているウィキへ布団を掛け直してやりながら冷や汗を拭う。
「ん…シン~…?」
目を擦りながらむくりと起き上がった。
「おまえ、なんでおきてんの…? まだ夜だろ…ほら、寝よ」
ウィキはシンを抱き込み、そのまま2人一緒にベッドへダイブしたのだ。
「ちょ、ウィキ?」
「ん~…あったけぇ……くぅ…」
寝惚けていたのであろう。ウィキはそのまま寝息をたて始め、シンは抱き込まれたまま眠る事となった。暫くは戸惑っていたが子供特有の体温の高さは心地好く、いつの間にか眠りに落ちたのだった。
「…眠れねぇ」
先程まで寝息をたてていたウィキであったが、腕の中の大好きな人を前に興奮して眠れなくなっていた。
何せ大好きな幼馴染である彼は、柔らかくて良い匂いで寝顔もとっても可愛かったからに他ならない。
「頬っぺたふわふわ…」
白くふわふわな頬っぺたに意識がいってしまったウィキは、ちゅうしていいかな? と思い、ハァハァと息が上がった。目も血走り立派な変態である。
そぉっと起こさないようにふわふわ頬っぺを指でつつくと、その柔らかさに震えが走る。
ウィキは興奮した心を抑えきれず、ハァハァと唇をそこに近づけ唇を尖らせた。
ぷるぷる震えながら血走っていた目をぎゅっと閉じれば、ふんわりとした感触が唇に触れたのだ。
刹那、ウィキの顔は真っ赤に染まり鼻血を噴いて気絶してしまったのだった。
◇◇◇
朝目覚めるとウィキの抱き枕と化していたシンは、まだ寝息をたてているウィキの顔を見てぎょっとして飛び起きた。
「ウィキ!! お前っ大丈夫か!?」
「ぅう~……むにゃ…何だよ、うるせぇなぁ…」
シンの焦った声に驚き目をあけると、寝ぼけ眼のままのっそり上体を起こす。
「おいっ起き上がって大丈夫なのか!?」
「はぁ? 何言ってんのお前?」
「いや、だってお前…鼻から下、真っ赤に染まってんぞ」
そう、ウィキの顔は鼻から下が血で染まり、さっきまで頭の下に敷いていたまくらも血が滲んでいた。さながら吐血したように。
「……ぎゃーーー!? 何これ何これェェ!!」
「ウィキっ落ち着け! 気持ち悪かったりふらふらしたりしねぇか?」
あわてふためくウィキを落ち着け、身体がどういう状態かを冷静に確認する。
シンの様子に落ち着いてきたのか、「べ、別にどこも調子は…」と答えたが、暫くして急にボンッと音がたちそうな勢いで真っ赤になったのだ。
「ウィキ…? やっぱりお前熱があるんじゃ…」
心配したシンが熱を測ろうと額に手を伸ばすと、ウィキはますます赤くなり、「だ、大丈夫だからぁ!!」と慌てて布団を被ってしまった。
困ってしまったシンは、とりあえず侍女にホットタオルと枕の交換を頼んだのだった。
その後、シンの部屋に閉じ籠ってしまったウィキをからかいにきたリマインに任せて、シンはいつも通りの日常に戻ったのだが、ウィキはその日一日罪悪感と羞恥心に苛まれる事となった。
「そういやぁ、白黒の城のラストシーンでウィキと俺は何て言ってたんだろうか…」
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