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第1章
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しおりを挟む「ウィキ、お前いつから知ってた」
侍女達に王宮にあるシンの部屋の風呂場まで連行され、放り込まれてから仕方なく汗を流し出ると、室内にはウィキが一人、無駄に豪華な椅子に座ってニヤニヤとシンを見ていた。
「俺だって知ったのは昨日だっての」
「テメェ黙ってやがったな」
ウィキを睨むシンだが、お風呂上がりで上気した顔と濡れた髪があまりに艶やかで、ウィキは鼻血を垂らしながら「サプライズなんだから仕方ねぇだろ」と答え凝視してくる。
「ったく、成人のパーティーなんて実質後継者の御披露目会だろうが。俺は次期国王なんて御免だ」
「あ、そっか。お前そんな成りして王太子だもんな」
忘れてたわ。と鼻血を垂らしたままヘラヘラ笑うウィキに焦燥感を覚えたシンは、眉間にシワを寄せた。
「いいか、俺が今夜のパーティーで参加する貴族共に御披露目されたら、計画していた旅も全て白紙に戻るんだぜ。お前はそれでいいのか?」
もうそろそろ旅に出ようと計画していたシンだったが、エモルトにまんまと乗せられたウィキ達に心の中で溜め息を吐いた。
父であるエモルトは、前々から旅に出る計画を立てていたシン達の行動に気付き、阻止しようとしているのは明らかだ。多分チュウの父親が計画を洩らしたに違いないとシンは思っている。
しかし、すでにシンの御披露目パーティーの招待状は有力貴族達の手に渡っている為今更無かった事には出来ない。
シンがこのまま姿を眩ませば、王家の面子は台無しになってしまうのだから。
家族を大切にしているシンにはそれは出来ないだろうと知ってのエモルトの暴挙であった。
「え? 何で」
自分の家族枠に入っている人間はとことん信用してしまうきらいのあるウィキは、ただ単に自分の大好きなシンの成人を盛大に祝うだけだと思っていた。
このパーティーが旅を阻止する為に仕組まれたものだとは夢にも思わなかったのである。
「俺が王太子だと貴族達の前で正式に紹介されれば最後、俺はこの城に閉じ込められる。旅には出れなくなるんだ」
「何でだよ…っ」
「次期国王を他国に旅に出させるわけにはいかねぇだろうが」
淡々と説明するシンに、ウィキの顔が真っ青に染まっていく。
「あ…そんな…っお、オレ、今から親父さんにパーティーは止めてもらうよう言ってくる!!」
慌てて部屋を出て行こうとするウィキを止めるシン。
「父上は俺達を旅に出させる気がないんだ。お前だって父上のお気に入りなんだぜ。どうせ俺の側近として騎士にしようとでも考えてるに決まってる」
齢15ですでに騎士団よりも腕っぷしの強いウィキは、最近頻繁に騎士団の訓練に引っ張り出されていた。
「だったらどうすりゃいいんだよ!!」
「……俺に考えがある。協力しろ」
◇◇◇
「ーー…シン、綺麗すぎて貴方を見慣れてる私も気絶しそうよ」
「おい、チュウまで気絶しちまったら困るんだが?」
鼻血を噴いて足元に転がっているウィキを足蹴にしながら、服装や髪型を整えてくれているチュウに眉を下げる。
「ウィキでさえコレなんだから、絶対成功するわ」
「ああ。チュウが魅力的にしてくれたからな。全貴族を虜にするぐれぇな気持ちでいるよ」
「フフッ貴方なら全貴族が虜になる事間違いなしよ。きっと今夜のパーティー会場は血の海ね」
嬉しそうに笑うチュウだが、絶対にシンの顔を見ようとしないのは見たら最後、自分もウィキのようになってしまうからだと自覚しているからだった。
「物騒な表現だなぁ」
「本当の事でしょう。さ、馬鹿は放っておいて行きましょう。あ、移動中ローブは被っててよ」
いつもより上等な生地のローブを手渡されたシンは素直に頷いてローブを被った。
幸せそうな顔をして床に転がっているウィキを一瞥すると、丹田に力を入れて一歩を踏み出したのだ。
父の思う通りにはさせないと思いながら。
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