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第2章
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しおりを挟むこの世界でいうスタンピードとは、何らかの理由で増えすぎたダンジョンの魔物が外に溢れだし、周辺の町や村に大挙して押し寄せる現象の事を言う。
もし仮に、そんな事が起これば小さな町や村は壊滅するだろう。さらに規模が大きければ、最悪それによって国すら滅びる可能性もあるのだ。
それが今、ヒルデン公国の“ミスリーオの迷宮”で起ころうとしている。
「何故、そのような事に?」
冒険者や騎士団が定期的に迷宮へと潜り討伐していれば、スタンピードなど起こらないはずだとシンはギルドマスターを問い詰める。
なにより討伐は冒険者や騎士の義務でもあるのだ。ある程度のランクの冒険者は怪我や病気をしない限り、必ず年に数回はダンジョンに潜らなくてはならないし、騎士団も年に一度は大規模なダンジョンでの討伐が組まれる。
全てはスタンピードを阻止する為に行っている事なのだ。
「…実は“ミスリーオの迷宮”には買取価格の低い魔物しかいないという事で冒険者にまったく人気がないものでね…騎士団にしても年に一度の討伐の手を抜いていたらしく…」
しどろもどろに説明するギルドマスターだが、つまりめぼしい魔物がいないダンジョンという事で誰も討伐に行きたがらず、騎士団はサボっていたという事かとシンは理解し呆れてしまった。
いくらその辺にいるような魔物でも数が多ければ自衛出来ない人々は簡単に殺されてしまうのだ。冒険者はまだしも、騎士団がサボるなど愚の骨頂であった。
「で、その魔物がウヨウヨいる迷宮へ俺ら3人だけで行けってか?」
勝手な言い分にウィキも苛立ったのか目が据わっている。チュウに至っては相手にしてられないわという表情を隠そうともしていない。
「い、いや、それはもうじき騎士団もやって来るので…」
ハンカチで汗を拭いだすギルドマスターは、先程の威厳のようなものは全く無くオロオロするばかりである。
「なら騎士団にやらせろよ。俺らは全く関係ねぇだろ」
ウィキの言葉に当然だという顔をするチュウ。勿論シンも異論はない。
お金にもならない魔物を狩って体力や武器を消費させるだけの仕事だ。さらにこの国の騎士団の尻拭いなわけで、馬鹿にするにも程がある旨味の一切ない話なのだ。
「すまんっ何の関係もない君達にこのような事を頼むのはどうかとは思う!! 思うがあの騎士団共がまともに戦えるとは思えんのだ!! 相応の金ならギルドが出すっだからスタンピードを阻止してくれないか!!」
ほぼ土下座状態のギルドマスターにシン達は呆然とした。
「ちょっと待て。俺達の他にも冒険者はいるだろう。金を出せるなら他の冒険者に依頼出来るはずだ」
そんな騎士団と一緒に命懸けの仕事が出来るかと、遠回しに断っているが、ギルドマスターは必死だった。
「スタンピードを阻止出来るだけの高ランクの冒険者は、皆ノワール国へ行ってしまったのだ!!」
そう、高ランクの冒険者はこぞって環境の整ったノワール国へと流出してしまったのだという。
呆れた…つまり冒険者が流出してしまう状態に陥っているというのに、このギルドは対策する事もなく最悪な事態を迎えてしまったのだ。
ギルドの怠慢である。
シンはそんな事を思いながら、自分たちがやるしかないのだろうと感じていた。ウィキやチュウもそうなのだろう。大変な時に来てしまったと顔に書いてある。
「…分かりました」
「引き受けてくれるのかね!?」
瞳をまん丸にして聞いてくるギルドマスターに、引き受けるしか選択はないだろうと溜息が出そうになるがそれを我慢して頷いたのだ。
「騎士団はいつ頃到着しますか?」
責任転嫁するギルドマスターにクズと言わしめた騎士団との共闘は危険だと判断したシンは、騎士団が到着する前には終わらせておきたかった。しかし、
「3日後には到着するとは思うが…」
そう言われた時、スタンピードが起きそうな迷宮の討伐を3日で終わらせる事は出来ないと判断し、騎士団と顔を合わせなければならない状況にうんざりしたのである。
何よりウィキが、これからの事を思って一番ゲンナリした。
何しろ“灰色の城”には、滅多に見ることのないような美少女チュウと、傾世の美貌を持つシンが居るのだから。
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