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神様としての初仕事

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ヴェリウスの巨体が鉄格子に一歩近付く度に冷気が拡がっていき、鉄格子だけが氷っていく。
ダリ髭公とその取り巻き達は真っ青な顔をして震え、中には尻餅をついたまま腰を抜かして動けなくなっているものまでいた。
パキパキと音をたてて氷っていった鉄格子は、パリンッと乾いた音をたてて崩れ、粉々になって消えていく。

「…なぁ、これって夢じゃねぇのか?」

今更冷気にあてられて、そんな事を言い出したロードに呆れる。

「だからずっと言ってんでしょ。夢じゃなくて現実だって」

半目でロードを睨むと、目をそらされた。
頬をぎゅっとつまんで「ばかロード」と文句を言えば、何故かとろりとした目で私を見てきた。

「て事は、俺の為に来てくれたのか」
「違いますー!!そこの金髪青年に頼まれただけですー!!」

即否定した。だって本当に金髪青年に頼まれただけだもの。

金髪青年の事を口に出したからか、ロードは青年を見ると突然私を隠すようにその腕に抱き込んで怒りだした。

「アナシスタ…テメェ、あれほど言ったよなぁ…ミヤビには会わずに奴らの事を伝えるだけでいいってよぉ」

「っ…俺は…、俺はっ 妻を助けたかった…っ」

だから…と、持っていた剣を床に落とし、力なく座り込んでしまった青年に静かに立ち上がったロードが近付いた。
やっと解放された私はホッと息を吐き周りを見渡す。

鉄格子は氷って崩れ落ち、残っているのはその一部とそれにくっついて出来ている氷柱だけで、風通しが良くなっている。
森と繋げた扉が壊されてしまったので薄暗いが、ダリ髭公爵が持ってきていた持ち運びの出来るランプのお陰で真っ暗ではないのが救いだ。
床にはお香が転がっている。ヴェリウスが氷らせたようでもう煙は出ていなかった。
桃の香りはまだ残っているが、この牢屋とはどうもミスマッチのような気がしてならない。


牢屋前の廊下の奥からは、ヴェリウスが逃げたダリ髭公爵とその取り巻きをじわじわ追い詰めているのが見える。冷気がこっちまで流れてきている事から、何人かが氷漬けにされたのだろう。


「奥方が…流行り病にかかったのか?」

ロードの息を飲む音が聞こえてきて、そちらに目を移す。

「……」

青年は何も言わずに項垂れ、顔を上げようとはしない。

「テメェ、何で俺に言わなかった」
「っ…貴方にそれを言ってどうなると!?
陛下の病を治した薬はもう無いのでしょうっ例えあったとしても、王族に優先されて私の妻には回ってこない!」

ロードはぎゅっと拳を握り、眉間にシワを寄せた。

「だからこうするしかなかった…っ
ダンジョー公爵の話に乗るしか妻を救う方法はなかったのに…っ」
「……テメェのした事は陛下に反旗を翻す行為だ」

どういう事だろうか?何故ロードを捕らえて森に来た事が、王様への反逆行為にあたるのだろう。

「分かっています…」

金髪青年よりもよほど辛そうな顔をしているロードを、青年は一度も見る事なく俯いて答えた。

「ロード」

険しい表情のロードに声をかけると少し緩み、腕を掴まれ腰を引かれた。
また捕まった…折角離れた所から声をかけたと言うのに。

「どうした?」
「その青年は何か罪を犯したの?」

何故王様への反逆行為に問われるのかよく分からないと聞いてみた。

「…ダンジョー公爵は俺だけでなくこの国の王までも幽閉したんだよ。
オメェの薬が手に入れば、大多数の貴族は奴を支持するだろうから、今の王を玉座から下ろし自身が成り代わることが出来るってんで王を幽閉した大馬鹿だ。
そんな奴に協力しちまったコイツは同罪だろ。どんな理由があろうとな…」

ものすごく簡潔に話してくれたが、はしょりすぎじゃないだろうか。

「でもさ、ダリ…だんじょお公爵?に協力っていうけど、何を協力したの?」
「あ?そりゃオメェがここにいる時点で、オメェを誘き出す協力をした事になんだろうが」
「ん?私はロードを助けてとは言われたけど、この場所に来てなんて言われてないから誘き出すのとは違うような気がするけど…」

むしろ青年は必死にロードの助命を嘆願していただけのような…。

「青年はだんじょお公爵にその他の事で何を協力したの?」

やはり謎なので直接青年に聞いてみた。ロードから「俺以外の男に直接話しかけるんじゃねぇ」と言われて抱き込まれたが、このオッサンの言動が一番謎だ。

「…それ以外では特に…」

私が話しかけた事に驚いたのか俯いていた顔を上げ、こっちをみて躊躇うように呟いた青年に、やはり何も罪を犯していないだろうと思う。
ロードを見れば、難しい顔をして首を横に振られた。

「例え何もしていなくても、一旦ダンジョー公爵と繋がりを持っちまったら陛下への反逆とみなされる。何しろ本人はわかって協力してんだからな…」
「そっか…」

警察官でもヤクザと関わりを持ったらクビだもんね。そりゃそうか。
けどなぁ…青年は奥さんを助けたくてロードから私の居場所を聞き出したけど、結局ロードの助命を嘆願してたんだよね…それが誘き出す罠だとしても、額を地面につけてまで土下座してあんなに必死に。
奥さんだけじゃなく、ロードも助けたかったんじゃないかなぁ。

「オメェがそんな顔する事じゃねぇよ」

ニッと笑って私の頭を撫でてくるオッサンだが、めちゃくちゃ痛い。首がゴキッていったから!撫でているというよりはどつかれている。

「もう撫でなくていいから!」
「そう照れんなよ」

拒否をしているのにニヤついた顔でそう返してくるオッサンの足を、思いっきり何度も踏むがまったく効いていないようでそれもまた腹が立つ。

「もういい!それより、世界中で流行中の病気を治すから!!後“マソ”ってやつも増やすからね!!」

ここでやらなきゃ女が廃る!!
というか、世界が滅びたら困るのは私だしね。
いっちょやりますか。神様としての初仕事ってやつを!!
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