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第二章

ピンチをチャンスに

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振り下ろされる刃と男の動作がゆっくりとして見える。
事故に遭った時にスローモーションになる等とよくいうが、今まさにその状況に陥っていた。

《主様ァァァ!!》

ガアァァァーーーッッ

男の持つ剣が私の頭に触れるか触れないかのギリギリで、ショコラのブレスが炸裂した。

ヴェリウス仕込みの氷のブレスは青白い光を放ち、空気中の水分や地面をパキパキと凍らせながら見る間に男を飲み込んだーー…

だが、

男は私に向けていた剣を、そのブレスに向け振り下ろす。

ヒュッ

空気を斬るような音がし、それと同時に氷のブレスが真っ二つに割れたのだ。

男を避けるように二つに別れたブレスは、ジュウゥゥゥッとまるで肉を焼いているような音と煙をたてて、地面に氷の逆さ氷柱を作っている。


ギュアアァァァ!!!! 

男に向かって怒りを滲ませた雄叫びをあげたショコラはかなりの迫力で、それに動じた様子を見せない男に不気味さを感じた。

「…氷竜か…ドラゴンの中でも珍しい種だ」

ブレス跡とショコラを観察し、あたりをつけたのか何やら呟いている。「もっとも、ドラゴン自体が珍しいのだがな」などと言いながらショコラの攻撃をかわし、剣を構え直した。

よく目を凝らして見ると、男の剣が銀色の光に包まれている事に気付く。もしかしたら剣に魔法を付与しているのだろうか?

いや、そんな事より男の動きを止めなければとハッとし、すぐに願う。
どうやら自分の能力を忘れる程動揺していたらしい。

あんなに間近で刃物を見て殺気をあてられたのだから動揺してしまうのは当然なのだが…。

結界を張っているから怪我をしないのは分かっている。が、怖いものは怖いのだ。
未だに手足の震えや心臓のドキドキが収まらないのは仕方がないだろう。


「!? 何だ…っ 身体が動かないっ」

そうこう考えている内に能力が発動したのか、男の動揺した声が聞こえてきた。


《主様に刃を向けるなんて…っ 殺す!!》
「ショコラ、待って」

動けない男に鋭い爪を光らせ今にもドラゴンパンチをしようとしているショコラを止める。

《何故ですか!? 主様っ》
「この男、さっき“幻獣”がどうのって言ってた。多分ヴェリウスが帰った原因がこの男だと思うの」
《!?》

ショコラは爬虫類独特の有鱗目を見開き、男を凝視した。

男の見た目は中性的な美人で、銀色の髪に白灰の切れ長な瞳をしている。まるで鋼のような色合いで、男自身が鋭い切れ味の刃物みたいなイメージだ。

何というか、人間離れしているなぁとジロジロ見てしまう。

「く…っ 貴様が私にしたのか…」

鋭い眼光に睨まれ、さらに殺気をとばされ滅茶苦茶怖い。ヤンキーが可愛く思えるほどだ。

ロードにも睨まれた事はあったけど、こんなに怖くはなかった。ロードの瞳の奥にはあたたかい光があったから。

「ねぇ、“幻獣”を狩ったのは貴方かな?」

いくら怖くてもどうせコイツは動けないし、ヴェリウスの為にも私がやらなくては…っ
そう思い目の前の男に屹然とした態度で臨む。

「……」
「ねぇ、答えてくれない?」
「…………」
「…なら、貴方はどこの誰?」
「…………」
「何のために“幻獣”を狩ったの?」
「…………」
「そもそも“幻獣”って何?」
「…………は?」

おお! 黙りが「は?」って言ったよ!

《主様、“幻獣”とは神獣ヴェリウス様の眷属の中で最高位の獣の事ですよ》
「へぇ、じゃあこの人はその最高位の獣を狩っちゃったと?」
《そうみたいです》
「じゃあ、人間が最高位の獣を狩るって事出来るの?」
《う~ん…多分で…『人間に幻獣を狩るなど無理ですよ。ミヤビ様』》

突然、ショコラの言葉を遮って現れたのはーー…

「ヴェリウス」
『ミヤビ様…何故こちらにいらしたのですか…』

目を細め困ったような顔で私を見るヴェリウスの足下は薄い氷の膜が広がり、パキパキと音をたてて逆さ氷柱に成長している。ヴェリウスが一歩一歩近づく度にパラパラと結晶化し美しく散っていく。

「ヴェリウスが突然帰るなんて言い出すから、心配になってね…」
『全く、貴女という人は…』

目の前にやって来たヴェリウスの頭から背にかけてを撫でる。まるで氷に覆われているかのように冷たく、撫でる度にパラパラと結晶が散るので、実際氷魔法のようなもので自身を覆っているのだろう。
大きさもいつもの中型犬ではなく大型犬の中でも最大の、アイリッシュウルフハウンド位に変わっていて目の前の男を警戒している事がわかる。

《ヴェリウス様ごめんなさい。主様を止められなくて…》
『主様はこうと決めたら突き進むお方。そなたに止められなくとも無理はない』

ショコラとヴェリーちゃんの会話に目をそらす。
スイマセンね。猪突猛進で。

「…神獣……」

男の静かなつぶやきに耳を動かし、ゆるりとした動作で振り返るヴェリウスはかなり怒っている事が分かる。

『貴様は……“精霊”だな』
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