異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール

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第五章

美味しいものはストレスを軽減させてくれる

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「美味しい…っ」

一口食べて暫くモグモグした後、カッと目を見開き言った一言に料理マンガのようだと思いながらそうでしょうと頷く。
何しろその料理は、ロードが食欲の無かった時の私の為に作った雑炊をコピーしたものなのだ。美味しくないわけがない。
特にこの飯マズ世界では相当美味しく感じる事だろう。

現に食欲の無かったお嬢様が相当の勢いで雑炊をかきこんでいるのだから。

「ご飯を食べないと元気も出ませんからね。沢山食べてください」

美味しい、美味しいと食べるお嬢様は年相応の幼い子供で、大人の都合で親元から離され閉じ込められるなんてあってはならない事だと突き付けられた気がした。




「とっても美味しかったわ」

一人用土鍋の中身を全て食べきったお嬢様は、何だかホッとした表情でそう言うと、お嬢様然とした微笑みではなく子供の素直な笑顔を私に見せてくれたのだ。

「それは良かった」

空間収納の中に綺麗にした食器や土鍋を片付けて微笑めば、

「貴女は…いえ、貴女様は噂の精霊様だったのですね」

と言われて返答に困る。
ロードと一緒の所を見られているし、突然現れたり消えたりするものだからそう思い至ったのだろうが…精霊ではないしね。

「正体を隠されているのです…?」

いやぁ特に隠しているわけでもないんだけどね、ただ皆が神様だとは思ってくれないだけで。と心の中で呟きつつお嬢様を見れば目が合った。
彼女は先程よりも血色の良い顔をして私をじっと見つめていたのだ。

「わたくしを心配して様子を見に来てくださっていたのですか?」

恐縮ですと言わんばかりに身を縮め、眉をハの字にして上目遣いをするのでコロコロとした小動物のように見えてきた。
子供を心配するのは当たり前です。と頭を撫でればお嬢様は、もう子供ではありません。わたくし自立いたしましたのよ? と胸を張って、しかしどこか悲しそうな瞳でもって主張するのでそうだねぇと同意しながらも頭を撫でるのを止めなかった。

「…精霊様、わたくしは大丈夫です。だって皆様が心配して助けてくださるのですもの。精霊様までこうして来てくださるくらい」

健気に微笑む姿がいじらしくて、このまま拐って行こうかと思った位だ。

「もし、聖魔法を使いたくないと思うなら言って? 力を封じる事も出来るから」

今すぐ結論を出せというわけではない事も伝えて選択肢の一つを提案すると、彼女は暫く俯き、顔を上げて首を横に振ったのだ。

「いいえ、精霊様。わたくし聖魔法の適性があって良かったと思っておりますの。だって聖魔法は、人々を癒して笑顔にする事が出来ますでしょう。それに、」

精霊様にもお会いする事が出来ましたし、美味しいものも食べられましたわ! と笑うお嬢様はどこか吹っ切れたような表情で、何て良い子なんだろうかと眩しく思えた。

「だったらお嬢様、これだけは覚えておいて。
自分ではどうしようもないと思ったら、私を呼んで。すぐ助けに行くから」

私の名前はミヤビだよ。
そう伝え、お嬢様が目に涙を溜めてはいと頷いた所で丁度人が来たようだったので家へ転移したのだ。


「ヴェリウス!! 居る?」

どうやら家には居ないようだったが、飯テロの話がしたくて大きな声で呼ぶと、

『お呼びでしょうか? ミヤビ様』

と私の目の前に突如現れた。
最近のヴェリウスは転移も簡単にするようになってきたな。

「ヴェリウス!! 飯テロだよ!!」


◇◇◇


『ー…つまりミヤビ様の言う“飯テロ”とは、この世界の不味い食事を改善しようという事なのですね』
「そうなの!! 晩餐会の食事がとんでもなく不味くてね、これは“味噌”や“醤油”の出番だなって!」

捲し立てるようにヴェリウスに説明した後、ヴェリウスが頷き成る程…と考えているので、まずはルマンド王国の厨房から改善していこうかなぁって…とこちらの考えを伝えると、ヴェリウスは少し困ったような表情で私を見た。

『ミヤビ様、残念ながら“味噌”や“醤油”の原料である“大豆”は、この世界にはありません』
「え?」
『さらに、“米”に関しては似たような植物はあるかもしれませんが、品種改良しておりませんのでミヤビ様のお好きな白米とは全く違うものかと。この世界にミヤビ様の畑と同じものはないと思ってください』

この瞬間、私の飯テロ計画が頓挫したのである。
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