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第五章

カルロの決意

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カルロ視点


私が初めてルマンド王国にやって来たのは今から100年以上前だった。
当時は魔素の枯渇により、滅びてしまったスドゥノーム国まではいかなくとも、ルマンド王国の状況は悪く食糧も民達がやっと確保出来る程であった。
そんな中での魔族の大規模な移動は当時の国王を戸惑わせたが、それでも何とか受け入れてくれたのはその人柄故だろう。

とはいえ、人手のない場所で私達は歓迎され、魔族の多くが王宮で働く事となる。

僅か30年程で私とルーベンスは侯爵という地位にまで上り詰め、それから程なくしてルーベンスは公爵と宰相という地位を賜ったのだ。部下達は、ルーベンスが私よりも高い位になった事に戸惑ってはいたが、私は侯爵という地位で充分だと満足していた。
地位など、消えてしまうこの世界になんの意味も持たないものだと思っていたからだろうか。

新興貴族で公爵や侯爵など、古参の貴族連中には良くは思われていなかったが、それも50年60年と経つ内に煩く言うものは少なくなっていった。
何しろ民より貴族の方が亡くなる確率は高いのだ。古参連中はあっという間に消えて、その子供、もしくは孫等が家を継ぐのだから、逆に教えを乞われる事も増えたものだ。

私達は魔神様に守護されているからか、数を減らす事はなかった。しかし、増える事もなかった。きっと魔神様もそこまで力を回せない状況だったのだろう。何せ神でさえ世界の消滅は阻めないのだから。

阻めるのならとっくに世界は魔素に満ちていただろう。

当時のルマンド国王が崩御し、新たに王位を継いだのはまだ年若い王だった。ロリーオ王のお父上である方だ。
本来ならその兄君で あった方が即位なさるのだが、彼にはいつまでもつがいが現れないという理由で弟君が即位なされたのだ。
兄君はダンジョー公爵家の養子となったのだが、それがあのような事件を起こすとは…(←第1章参照)

人族の夫婦は仲睦まじい様で、新王ご夫妻も3人の子に恵まれたが、魔素の尽きた世界では子を育てるのも難しいようだ。
お子は次々と亡くなり、帝王学すら受けていない3番目の子供しか残らなかった。それがロリーオ陛下である。

王がご存命だったのならまだしも、王妃が亡くなられてすぐ王も後を追うように亡くなられ、ロリーオ陛下はたった一人、その重圧に耐えねばならなかった。
その日から、私と同じ境遇の子供を気にするようになっていった。

ロリーオ陛下は何も出来ない、何の才もない子供だった。
周りの大人の意見に流され、ただヘラヘラ笑って、王だというのにすぐに謝るようなそんな情けない王だ。

ずっとそう思っていた。
あの時まで…。


神王様が御光臨されたあの日、

【は、発言をお許し下さい…っ】

【あ、あのっ教会が取り潰しとなると、人々の祈る場所が無くなります! 心の支えが無くなってしまいます!! どうか我々から神々や貴方様への信仰を取り上げないで下さい!!】

恐ろしいのだろう。震えながらも土下座をし、皆の為に願った姿に頭をガツンと殴られたような気分だった。

何が、才も何もない情けない王だ。
今目の前にいるのは、殺されるかもしれないのに、民の為に神王様に意見する立派な王ではないか!!

才も何もない、情けない王は私の事だ。
いや、もう王ですらない。私は即位したその日に、その前から、自分の事しか考えていなかったのだから。

自分は王に相応しくない。と職務をこなしながらも、自分の事ばかりで民を蔑ろにしていたのではないか。

私は、王に相応しくないのではない。その資格すら無かったのだ。

ルーベンスは気付いていたのだろう。
彼から息子を奪い、王にもなれなかった私を、ルーベンスはどれ程恨んだのだろうか。



「カルロ? 最近考え込んでいるようだけど、何か悩みでもあるの?」

ロリーオ陛下の声にハッとして顔を上げる。
彼が国王として即位して以来8年、護衛騎士として、それ以前は前国王の護衛騎士としてロリーオ陛下と接してきたが、彼の態度は一つも変わる事はなかった。
私を兄のように慕い、私の前では気を抜いて…。

「陛下がいつまで経っても私の前では気を抜いて、本当に困ったものだと考えていたのですよ」
「えーだってカルロは僕の兄みたいなものだし~」
「全く…最近は皆の前でも自分の事を“僕”と言っている所もしばしば目撃しますよ。前は頑張って“俺”や“私”だったというのに」
「そ、それはっ最近は特に驚くような事が多くてつい…」

眉を下げて上目遣いをする陛下。彼を甘やかしてきたのは自分かと溜息を吐く。

考えてみれば、この方は昔から弱音を吐いてはいたが、民の為にとそれだけを考えて頑張っていた。
自分を繕う事もせず、弱さを認めて周りに助けを乞う事の出来る方だった。そして、

「それより、本当に悩みはないの? カルロは優しいから、ロードにいじめられたとか、ルーベンスにいじめられたとか…いや、あの二人にいじめられたなら僕も言い返せないけど…慰める事は出来るからね!」

人の事を考えられる心優しい方なのだ。

私は…この方を支えていきたいと、あの時心から思った。

もう、王に戻れないし、戻る気もない。

人生で初めて、主を得た瞬間だった。
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