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ズボラライフ2 ~新章~
37.負のエネルギー
しおりを挟む「“我が名において、黒を司りし底無しの深闇よ━━…立ちはだかる愚者を捕らえ覆い隠せ……ディダストゥームワンプ!!”」
何ですか!? その恥ずか死呪文んんンン!!!?
こちらが身悶えるような台詞が耳に届いた刹那である。リンの足元が黒く染まり、身体がズブズブと沈み始めたのだ。
「こんな衆人環視の中、大声であんな恥ずかしい詠唱をした上に堂々と呪術を発動するとはッ なんという勇者!!」
「逆に堂々と仕掛けた事で観客も審判も事前に仕込まれていた罠とは思ってねぇ。これじゃあ反則で失格にする事もできねぇな」
トモコとロードの会話に、前日仕掛けられていた呪術を思い出す。鑑定したあの時は、呪術とは名ばかりの子供の遊びのような術(落とし穴”って表示されてた)だと思っていたけど、実際禍黒い沼のようなものに沈んで行くリンを目にすると心配になる。
この試合が始まったのが10分程前。
騎士達の白熱する試合の後、舞台に上がったのが昨日呪術を仕掛けていた貴族らしき男だった。
男と対戦するのは勿論、本大会イチオシの騎士リンである。
前の試合において圧倒的な強さを見せたリンが登場するだけで観客が沸くのだ。今や貴族の男は完全にアウェイであった。
そのはずだったのだ……。
「凄い……」
「あれ、闇魔法ってやつ??」
「頑張れーーー!!!!」
「格好いい!!」
観客は未だ珍しい魔法(性格には呪術だが)に興味津々で、それを使用する貴族の男を応援し始めた。
最初は数人だったその声は徐々に大きくなり、今や会場の半分は貴族の男を応援しているではないか。
「ククク…スピード重視の猫獣人が足を取られればさして脅威ではない。貴様はもう負けたも同然だ」
レイピアよりは太めだが、訓練用のものよりは細い剣をリンに向けた男は勝ち誇ったように口の端を上げた。
「……闇魔法といえば、ロード、君も使えたよね? 闇魔法ってあんな感じだったかな??」
「あ? ありゃ闇魔法じゃねぇ。呪術だよ。似ちゃいるが、全く異なるもんだな」
「呪術? 魔法とは別のものなのかい?」
「魔法は自分の魔力を形にして放つもんだが、呪術は負のエネルギーを増幅させて、何だったか…まぁよくわかんねぇもんを媒介にして魔道具に定着させたもんとかなんとか…?」
カルロさんの質問にロードがふわっとした答えで返している為、質問したカルロさんは頭の上に“?”を浮かべている状態だ。
レンメイさんはロードの説明に呆れた目を向けている。
「ロード、そのふわっとした説明誰から教わったの?」
「あ? 新神研修とかいう名目でヴェリウスが教鞭をとってたもんに強制参加させられた時習ったんだよ」
聞けばそんな答えが返ってくる。
ヴェリウスよ……可哀想に。せっかく教えた内容はロードの頭にはあまり残ってなかったよ……。
「ちょっと待ってください。それは……魔力意外の“力”が存在し、それを形にする技術がすでにあるという事ですか?」
レンメイさんがロードの説明に呆れながらも鋭いつっこみをしてきた。
そう。レンメイさんの言うとおり、この世界には魔力以外にも存在する“力”がある。
先程ロードが言っていた“負のエネルギー”とは、魔力とは別のもので、この世界の生物達が必ず発するものである。
例えば嫉妬や羨望、怒りといった感情は負のエネルギーとして知らず知らずの内に発せられ、蓄積されていくのだ。
そして溜まりに溜まった負のエネルギーが、魔素と結合して魔物(獣)と呼ばれる生物を生み出す。
勿論魔力を持っているから魔物(獣)とよばれるものもいるが(主にウチの珍獣達)、人間がイメージする、人を襲うあの魔物は負のエネルギーの結集体である。
魔素が枯渇した世界では負のエネルギーが増したとしても結合することなく消滅していたのだが、現在魔素が満たされた事で新たな魔物(獣)が生まれだしている。
随分昔はそれこそ冒険者がそれらを屠ってきたが、今の世はヴェリウスを信仰している為に魔物(獣)と共存共栄を目指しているらしい。それによって今後魔物(獣)が活発化してきた時に問題が起きないか、それは以前から考えていた事だった。
まぁ、ロードが人間の事に口出しするなと言うので話してはいなかったけど。
「おい。そりゃ初耳なんだが」
初めて話したしね。
「どう考えても、近々魔物が人間を襲って大問題になるのが目に見えてんぞ」
「何度も注意しようとしてたのに、口出しするなって言ってたのはロードでしょ」
「ヴェリウスだって何も言ってなかっただろ!?」
「ヴェリウスはあまり人間に興味ないし、“勘違い”もどうでも良いと思ってたんじゃないかな」
「“勘違い”だぁ?」
そう。魔物(獣)がヴェリウスの眷属だっていうあれ。
確かに魔物(獣)や普通の動物達はヴェリウスの管轄だけどね、あくまで眷属は聖獣と呼ばれる“正のエネルギー”の結集体でできた魔物(獣)だし、“負のエネルギー”の魔物(獣)は管理はしてるけど眷属ではないから。
人間は魔物(獣)をヴェリウスの眷属だから殺すと罰せられると思ってるけど、負のエネルギーで生まれた魔物(獣)は狩ってもらったほうが良いんだよね。
と、話が逸れてる内にリンが呪術に対抗しようと行動を起こし始めてるよ。
「試合どころじゃねぇ発言しといて何言ってんだ」
「この話はまたで良いでしょ。それより今は試合だよ」
「良かねぇよ。良かねぇが…しゃーねぇな。ミヤビ、話してくれてありがとうよ」
がしがしと頭を撫でられ首を痛める。
まったく。相変わらず女の子の撫で方が分かってない旦那だな。
応援ありがとうございます!
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